第49話「闇魔法」
「……闇まほー。Lv2『暗幕』」
──ブワァァッ!!
『ゴガぁッ?!』
しかし、次の瞬間、
あり得ない光景がライトの眼前に展開される。
突如現れた黒い霧が、ライトに襲い掛かったオーガの視界を奪ってしまったのだ!!
「こ、これは──……?」
まるで、イカに墨でもぶかっけられたように、中空でまとわりつく漆黒の闇。
そして、予想もしない事態に、オーガの軌道は乱れてあろうことかそのまま壁に顔面から激突する。
──ドッガァァッァアン!!
グラグラと揺れるほどの凄まじい衝撃。
そして、目を回したオーガと、ポカンとしたライトたち。
「はっ! しめたッ!」
ちゃ、チャンスだ!
千載一遇のチャンスだ────!
「おおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
そのチャンスを活かしきったのはさっき開放した傭兵の一人!
彼は、ライトから借りたナイフを持って一気に肉迫し、一切の躊躇もなく、目を回したオーガの喉をかき切った!
「おらよっ!」
そして、
返す刀でダンビラを奪い、体格の良い傭兵に投げ渡す。
鮮やかな手際!
鮮やか過ぎる連携────!
……だが、ライトはそんな一連の鮮やかな反撃にも目もくれず、視界の端にじっとりとたまる闇だまりに手を伸ばした!
そして、そして────!!
「……ヤ、ヤミィィイ!!」
あぁそうだ。
そうに決まっている────。
あの子が、
ヤミーがこんなところで死ぬはずがない!!
……ライト一人残して死ぬはずが────────!
だから、何も見えないこの闇の先にヤミーがいることを確信してライトは漆黒の中に飛び込み、それを描き抱いたッッ!
「ライトー」
刹那。
ドロリ、と闇が崩れる。
まるでゼリーが溶け出すように、洞窟の一部を覆っていた闇だまりが霧散して、その先から闇の衣をまとった白い少女がライトに手を伸ばし、掴んで離さない────そう、二度と離さない。
「は、ははは……」
はははははははははははは!
あーははははははははははははははは!
「あぁぁぁ、生きていた」
生きていた────!
「生きていたんだな、ヤミー!!!」
ついに、彼女をガシリッと描き抱くライトは、その小柄な体に気付いて慌てて離れる。
なぜなら、ようやくヤミーが素っ裸なことに気付いたのだ。
こんなところを見られたら子連れ魔術師で済むはずがない。
そう思って、慌てて上着を渡してやる。
「えへへ、待ってた」
「あぁ、待たせたな────……っていうか、さっさと着ろ」
目のやり場に困る……。
屈託なく笑うヤミーが、不器用にライトのローブを羽織ると、ちょこちょこ歩いて、ライトの背中にポスっと顔を埋める。
「ありがとー」
「あぁ。どうってことねぇよ」
ポンポン。
優しくなでるも、ヤミーのその顔にはやはり疲労が見て取れる。
そして、なんということか……。
彼女の背後にあった闇だまりには、他にも数名の商人と傭兵の生き残りがいた。
「お、お前ら──」
「生きてたのか?!」
驚いたのはさっき開放したばかりの傭兵たち。
まさか、いつのまにかオーガの拘束から逃れて隠れているなんて想像もつかなかったらしい。
「お、おうよ。動けないもんでじっとしていたが、嬢ちゃんが絶対助けが来るからってよ」
そう言って力なく笑うのは、足の骨が折れた傭兵だった。
ほかにも、商人やその雇いの女性たちもいる。
「そうか、闇魔法──黒い霧か……」
ライトは、ヤミーとコンビを組むにあたって彼女の力の一端を知っていた。
それは、ヤミーの高い魔法能力であった。
おそらく、魔力を高める一環としてアグニールが鍛えたのだろうが、ヤミーが若干この都市にして、闇魔法を中級クラスまで使いこなしているのだ。
そして、今、オーガにブチかましたのはLv2闇魔法『暗幕』で、今の今まで隠れていたのは、暗闇を作り出す闇魔法Lv5『黒い霧』であった。
さらに言えば、ヤミーだって、拘束されていたはずなのに、どうしてこうも簡単に抜け出していたのか。
それは、彼女につけられた無数の結び目を見ればわかる。
かつて狭い携帯魔力タンクに押し込められていたヤミーに拘束などほぼ無意味なのだ。……ヤミーの関節は異様なまでに柔らかいのだから──。
「にー」
「くっくっく……。まったく、夜中にトイレに行ったかと思えば、こんなときにたのか? こりゃ、帰ったらおしおきだな」
ごんっ!
え?
「いたー。……おしおき、や」
くくく。
そうはいかねぇだろ。
こんなに、たくさん人を助けちまってよー。
うーむ。
そうだな……。
「パンケーキ10人前の刑だ! ヤミー!!」
「やー!」
バッ!!
笑っているのか、喜んでいるのか、ごっつこされた頭をちょっと涙目で見ながらも屈託なく笑うヤミー。
そして、その手を掴んで、やや振り回し気味に乱暴に放り投げると、流れるような動作でライトの背中に彼女を背負う。
それはいつものごとく。
そして、いつもの定位置として受け入れるヤミーは実に楽し気に、背中で笑う。
「あはははは」
あははははは!
「ふっ!」
くははははははは!
いいね!
実に最高じゃないか!
そうとも、これだ!
これでこそヤミーで
これがライトなのだ。
これがライトとヤミーのコンビなのだ!
そういつものように、相棒どうしがそろえば、
「へっ」
「にー」
そう、二人でひとつ。
「──向かうところ、敵なしだぜッッ!」
「なしー」
あはははははははははははははははははははははは!
「──さぁ、幕にしようかっ!」




