第48話「救出」
っと、こうしちゃいられない。
「──急がないとな。『光学迷彩』は魔力をバカ食いするんだ。……レーザーだって無限に撃てるわけじゃないし、少しでも魔力を温存しないとな」
先の戦闘で魔力の限界まで撃ちまくったライトの残魔力は現在わずかなもの。
多少はマナポーションで回復させはしたが、元の総量が多いので焼け石に水程度だ。
だから、今は一瞬たりとも。
そして、一発たりとも無駄うちはできない。
「もっとも、こんな場所で撃ったが最後。奴等、一斉に襲ってくるだろうけどな──」
レーザーはうるさくはないが、それなりの発射音がする。
使いどころは、ほんとうに最後の最後と決めて、ライトはさらに先へと進む。
捕虜たちのところまであとほんの僅か──。
そして、
「むーむー……!」「むぐぐぅ!!」
グルグルに簀巻きにされている複数の捕虜がジタバタと暴れている。
相当にきつく縛られているのか、顔すら見えないほどだ。
ひーふーみー……全部で5人──────。
たったのこれだけ?
まずい、
もう食われたのか!?
「(おい、聞こえるか……)」
とんとん
「むぐ?!」
そっと手前の捕虜に触れて話しかけると、弾かれたように体をのけぞらせる。
どうやらオーガと勘違いしているらしい。
ちょうどさっきのオーガが残虐に捕虜を捌いたばかりだ。その恐怖たるや想像もしたくない。
そして、調理役のオーガはたまたま離籍中。
どうやら奥で捌いたばかりの捕虜を手早く鍋にぶつ切りにしているところで──今こちらに注視していない。
が、戻ってくるまでに幾ばくも時間もないはずだ。
(だから、今捕虜に騒がれるとまずいんだよ)
頼むから静かにしてくれよ──。
ふー……。
「(いいか? 俺は雇われの冒険者だ。……オマエラを助けに来た──拘束を解くけど、騒ぐなよ)」
コクコクコクッ!
……どうやら通じたらしい。
そっとナイフを取り出し、きつく縛られた縄を切っていくと、ボロボロになった中年の傭兵が息も絶え絶えに顔を見せた。
『光学迷彩』解除──。
「う……! す、すまねぇ……感謝するぜ。アンタ、例の冒険者さんか」
光学迷彩を目の前でとくと一瞬ドキっとしていたが、
それでもさすが傭兵稼業が長そうなだけあって、すぐにライトの顔を見分けたようだ。
「……しっ。まだ連中そこら中にいる。時間がないんだ。知ってたら教えてくれ────なぁ、女の子はここにいるか? 俺の連れなんだ」
一人一人顔を確認している暇はない。
ナイフは既に預けてあるので、あとは勝手に拘束を解いてくれるだろう。
非常なようだが、ヤミーさえ確認できれば、彼らの脱出は彼ら自身に任せるつもりだ。
「女の子?……残ってるわけねぇよ。俺は最後の方に連れられてきたんで、全部、見てたわけじゃねぇが……。女連中は、いの一番に鍋に突っ込まれてたぜ──」
「な……なん、だと?!」
ば、バカな……!
その言葉に、ライトの視界がぐにゃりと歪む──……ヤミーが……もう。
「ちょ、ちょいまちっ。まだ一人残ってるだろうが!」
「え? そうだったか?」
次に拘束を解かれた傭兵が、スリスリと手をさすりながら口を出す。
そして、クイクイと指さす先には一番小柄なグルグル巻きの捕虜がいた。
「ヤ、ヤミーか?!」
よかった……生きていた!
ブチブチブチッ!
慌てて拘束を解いてやると、そこには────……って誰だコイツ?!
「ぐ、ぐぅ……! げほげほっ!」
よほどきつく縛られていたのか、拘束を解いた途端激しくせき込む捕虜。
背丈、恰好からして商人見習いらしい。少年と見間違うほど痩せた女の子だ。
どうやら、男と間違われて今まで無事だったらしいが──。
当然、ヤミーであるはずがない……。
「ありゃ、その子じゃなかったか」
「違う……。全然、違う────!!」
くそ!
時間がねぇってのに────……!
「ま、待ってください。あ、あの────女の子って、白い髪の?」
「……ッ!? お、おまえ、知ってるのか!!」
「は、はい! あの子は────!」
『ゴルルル……!』
「お、おい! 静かにしろッ! 奴等こっちに来るぞ!」
ズシン、ズシンッ。
調理役のオーガが戻って来た。
幸いにも暗さ故、まだ事態には気づいていないようだが、もう一刻の猶予もない。
「……くそ! とにかく、アンタらは脱出しろっ!」
ライトの手で、全部の捕虜を解放する暇はなさそうだ。
それに幾人もの捕虜を解放していたら、静かでいられるはずもなし。
さらには、オーガの連中ときたら、捕虜が生きてても死んでても良いとばかりにきつく縛りあげたせいで、息も絶え絶えで前後の状況が分からないものが大半だった。
結果──。
「ガハッ! ごほごほっ!」
「おえ、おえええ!」
残りの拘束を解いた途端、せき込み始める捕虜たち。
ま、まずい! 騒ぎ過ぎだ────!
このままでは、
『ゴルルルルル……!?』
流石に気付いたのか、足音も高くこちらに向かうオーガの声!
「……ちぃぃ!」
そりゃそうなるわな!!
『ゴァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
まるで、逃げたぞー!
とでも言わんばかりに洞穴中に響き渡る大音声で叫ぶ調理役のオーガ!!
そして、おっとり刀で引き返すと、今しがた血を吸ったばかりのダンビラを振りかぶって、激しきせき込む傭兵めがけて、
──振り下ろす!!
「に、逃げろぉぉおおおお!」
『グルァァッァアアアアアアア!!』
ブシュッッ!!
当然ながらライトの警告が間に合う暇もなく、
凶悪なまでに太いダンビラが降りぬかれると、運のない捕虜の一人が、首を跳ね飛ばされて絶命する。
ドスン、ゴロゴロゴロ……。
「ぎ、ぎゃああああ!」
「いやぁぁあああ!」
その瞬間、周囲が一瞬にして喧騒に包まれる!
そうなれば、もはや隠密行動どころではない。
こなくそっ!!
ズキューーーーーーーーーーーーーーン♪
まはやこれまでッ!
ここまで温存してきたレーザーを迷いなく発射!
隠密行動の静謐さをかなぐり捨てたライトの強烈な一撃がオーガの脳天を貫いた!
ドズゥゥン! とオーガが倒れるのを見届ける暇も惜しく動き出すライト。
一刻も早くヤミーを見つけてここを脱出するのみ──────。
「いけ! 全員脱出し……」
「おい、アンタ! 前ぇぇッ!」
……んな?!
前、だと……?
あり得ない方向からの警報。
前と言えば今しがた打倒したばかりのハズで──……クルリと首をそちらに向ければ、なんと!
……ドゥ! と、大きな音を立てて倒れた調理役の死体の向こうに──……まだもう一体!
馬鹿な!?
二匹いただと──。
やや小柄なそいつ。
どうやら、射線が被って見落としていたらしい。カラクリが分かればただのライトの凡ミスだ!
焦りが、そんなしょうもないミスを併発する。
(これは……まずいッ!)
慌てて、第二射を放とうとするライトだが、一度解いた構えを、もう一度向けるのに僅か1秒。
だが、その1秒が足りないッ!
そして、たったの1秒を有効に使ったのはオーガ側であった。
『──グルアァッァアアア!!』
まるで流れるような動作で、
空中を舞っているダンビラをパシィ! と掴むと、雄たけびを上げながら猛烈と振り上げ──それをライトの頭に叩きつける!!
コンマ5秒!
ライトより速い────……!
(これは──……死ぬな)
一瞬にして死期を悟ったライト。
踊りかかるオーガと、その振りかぶられたダンビラの一撃がスローモーションにように見えて……。
ヤ、ヤミー……。
「すまん──」
一瞬だけ、走馬灯のようなものが流れて、少ないながらもヤミーと過ごした日々が蘇る。
それが最後の瞬間、
最期の────……。
「……闇まほー。Lv2『暗幕』」
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