第41話「外れ属性の本領」
──明かりがいるか?
……な?!
「お、おまえは──『子連れ、……『光の戦士』?!」
ずるっ!
「だから、それやめろっての!!」
……ったく。
そう、不機嫌そうに顔を出したのは、教会都市から雇い始めた生意気は若造──新進気鋭の冒険者だという触れ込みの奴だ。
名前はライト──。
属性は何とビックリ、あのはずれと名高い『光』だとか?
「別に俺が触れこんだわけじゃねぇよ」
「抜かせ────………………って、光?」
『光』属性ッ?!
光、光……。
「そ、そうだった!」
「ん?」
わ、忘れていた!!
魔法の強さにばかりに目を奪われていたが、本来こいつは『光』属性!
攻撃力が「0」で、
外れ属性と名高いが、光属性は松明としては優秀────。
ゴンッ!
「ごらッ、殴んぞ! 誰が松明だ!」
「いっだ?! な、殴ってから言うな!…………って、そうじゃねぇ! すまねぇが今すぐ、照明を!」
「あぁ。……そうみたいだな──だけど、使ってもいいが、すぐには役には立たねぇぞ?!」
は?!
な、なんだと?!
「い、いいから使えよ! 何出し惜しみしてんだ! なんでもいいから、昼間にぶっ放してたみたいに光球でいいんだよ!」
「ちッ。光球だとよ。……素人が、どうなっても知らねぇぞ!」
そういうと、ライトは手を空に向ける。
そして、
「いいか。灯りは付けてやる。だけど、その前になるべくでかい声で警告をあげろ!」
「は?! 警告?」
いいから、いますぐ!!
「ナァウッッ!!」
そしたらよぉ……。
「──次の瞬間には、ここを昼間にしてやるよ!」
「は、はぁぁああ?!」
昼間だぁ?!
一瞬で、だと?!
「馬鹿言ってんじゃねぇ!」
たかが攻撃力0の光魔法ごときで、何を言ってるんだと言わんばかりの傭兵隊長。
だが、事実は事実。
ライトは光魔法のプロフェッショナルなわけで──。
いや、それよりも──────……。
「いいから黙って、まずは、全員に目をつぶらせろぉぉおおおおお!!」
────おおおおおおおおおおおおおおおお……。
「ちぃ! おい、野郎ども────今から明かりをつける! 一秒後に全員目を閉じろぉぉお!」
刹那。
ステータスオープン!
「はぁっぁあ──……光魔法Lv9『千夜一夜』ぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお」
……ぽんっ!
ライトの手から打ち上げ花火のように上空に立ち上った小さな光点が、突如強烈な光が迸ったかと思ったその時────。
──カッッッ!!
傭兵隊長を含め、耳が届く範囲。
そして、素直に忠告に従ったものだけが反応できた。
そう。
ライトの言う、「目を閉じろ」の指示に!!
シュパァァァア!
ッッッ……!
ッッ……!
ッ……!
……ぐ、
「ぐぁぁぁあああああああああああ!」
「ぎゃぁぁぁああああああああああああ!」
『『『ゴァァァアアアアアアアアアア!!』』』
まさに昼間!
それも飛びきり強烈な夏の日差しのごとく明るい昼間!!
「ひぃぃい! 目が、目がぁぁぁあ!」
『『『ゴガァァァアアア!』』』
『『『ゴルルゥゥウウウ!』』』
……それは前触れもなく。
突如として、暗闇を切り裂く『疑似陽光』の出現であった。
そして当然のごとく──それは暗闇に慣れていたすべての生物の視界を焼き、焦がす。
文字通り、昼間に匹敵する光!
ライトのLv9光魔法スターライトは広範囲かつ長時間にわたって昼間なみの明かりを灯す範囲魔法なのだ!
そう。
そして、今の今まで暗夜のなか、突然強烈な明かりを直視すればこうなるのは当然だ!
「くぅぅ……! な、何も見えねぇっ。お、おおい! お前ッ、やりすぎだろ!」
あッほぉ!
「だから最初に言っただろーが! こんなのは常識だっつーの!
────だから、使用を控えてたんだろうがッッ!
「だ、だったら初めに言えぇぇ!」
「初めに言っただろうが──……ちっ、来るぞ!」
ドッッッカーーーーーーーーン!
無数のオーガの群れの攻撃!
ぶんぶんと、腕を振り回し、傭兵に襲い掛かるオーガ。
さらには、そのブットい腕が手近にあった傭兵やら馬車やら荷箱を砕き散らす!
「んなぁ?! 奴等なんで動ける?!」
「ちぃ! クエスト報酬があっぁあ!」
「ば、馬鹿野郎、それどころじゃねーだろ!──つーか、どういうことだよ!」
なんで奴等だけ動ける?!
奴らは平気なのか──と。
「……馬鹿たれ! よく見ろ。やつら盲目打ちしてるだけだ!」
「な、なんだとぉ?」
激痛に涙のにじむ目をうっすらとあける傭兵隊長の目には、顔を抑えて苦しむオーガが手足り次第手に触れたものを破壊している姿であった。
人間より夜目が利くがゆえに、奴等オーガの方も視界を焦がされているらしい。
『『ゴァァァアアアアアアア!』』
そして、今も盛大に蛮声を張り上げるが、ある意味それは断末魔に近いものだった。
どうやらオーガも同じく混乱し、傭兵たちと等しく視界を奪われて驚愕しているのだ!
いや、むしろ夜目が利く分、強烈か?!
「な、ならチャンスか?!」
「そんなわけないだろ! むしろヤケクソになってる分、むやみに近づけばやられるぞ!」
ライトの言う通り、視野を奪ったとて、無力化できたわけではない。
オーガの一撃なら手あたり次第殴りつければ、それで十分。……なぜなら、野営地の中は獲物しかいないのだから!
うぉぉおおお!
怯むなぁぁ!!
だが、それでも足音も高く、傭兵たちが何とか反撃に移る。
幸いにも、オーガはまったく照明魔法を予期していなかったのか、全ての個体が視界を焦がしている。
……たしかに、チャンスと言えばチャンスだろう。
しかし、
じっさい、斬りかかった傭兵が何人も返り討ちにあっている。
「く、くそっ!……おい、動けるやつは、死角から攻撃しろ! 弓兵はとにかく数を撃て! 今なら奴らの目が見えない!!」
「「お、おう!!」」
どうやら動ける傭兵は十数名だけらしい。
しかも、その数名も強烈な光に晒されているため、薄目を開けての攻撃しかできない。
中空に浮かんだライトの光魔法は、直視こそしていないとはいえ、すぐに視界が慣れるはずもなし。
「あーくそ! もうちょっと控え目なのはなかったのかよ!」
「贅沢言うな! 十分控えめだっつの! だいたい、中途半端に使えば、俺とヤミーがやられるだろうが!」
もっと弱い光のLv1の『灯火』なんかでもよかったのだが、それを暗夜で使えばライトが集中攻撃を受けるのは目に言えていた。
そのほかの範囲魔法では明かりが不十分だし、
むしろ下手に手加減すると、かえって闇の外のオーガにだけ恩恵を与えることになりかねない。
「ちぃぃ! わかったよ!……つーか、嬢ちゃんは?!」
「まだ寝てるよ!」
傭兵隊長の不満声にライトも不満気に返す。
ライトはライトで対応で精いっぱいなのだ。
「なんせ、ぐっすり寝てたらこれなもんでね……!」
「呑気だな、おい!」
うっせーよ!
レーザーは強力だが、ライト自身は一個の魔術師でしかなく──魔法抜きでガチンコでやりあうような体にできていない!
昼間あれだけ魔法を撃ちまくればさすがに疲れる。
「ならこっちに手をかせ!」
「言われなくとも」
しかし、ライトはライトで戦いにくいと顔を歪ませていた。
なにせ、周囲は混乱した味方の傭兵で溢れており、護衛対象の商人や荷箱や山積みだ。
おまけに、近距離でオーガが暴れまわるような戦場は、ライトのような特殊な魔法使いにはもっとも不向きだといえる。
「くそっ! じゃまくせぇ……!」
射線に被った傭兵の背中を見て、あわててレーザーの射撃を止めるライト。
さっきから、何度も何度も狙撃の機会が味方の傭兵に阻まれて遮られているのだ。
「なにしてんだよ!」
「うっせぇ! なら、てめの手下を俺の前に立たせるなよ!」
──無茶言うな!!
「ちっ!」
どうやら、ライトの放つレーザーの弱点が早くも露呈。
……言ってみればレーザーは強すぎるのだ!
しかも、
その射程は長大で近接戦闘にも向いていないし、
命中したものは敵味方関係なく切り裂くだろう!
……つまり、今のライトはむやみやたらに撃てないのだ!
「なんだとぉ?!」
「しゃーねぇだろ!」
なんとか、傭兵隊長と背中を合わせて死角を消しているが、まだ一発も打てていない──。
そして今も、ライトがレーザーで狙い打とうとしたその正面に、フラフラと傭兵が視界を横切り、慌てて射線を切る。
──邪魔だ! どけッッ!
ドンッ!
「ひぃ! 無茶言うな!────けぴッ!」
業を煮やして、そいつを背中をかなぐり捨てた時、ボォォオン!! とそいつの全身が炸裂。
「は?! お、俺はなにもしてねーぞ?!」
驚くライト。
そして、バチャバチャと臓物が降り注ぐなか、そいつがいた──。
「……い、一撃で?! そ、そいつはまさか……」
『ごるるるるぅぅ……!』
唖然とするライトと傭兵隊長。
その眼前には筋骨隆々の漆黒で巨躯のオーガがいて、
そいつが盲目打ちで、一撃のもとに傭兵を爆砕したのだッッ!
「な、何だコイツは──」




