第38話「二つ名を持つライト」
「つ、強すぎる……」
「噂じゃここまでとは……」
「すげぇ」「つえぇ……」
「こ、これが光の戦士なのか────」
「光の戦士」「光の戦士ッ」「光の戦士!」
光の戦士ッッ!
わっわっわっわ!
わっわっわっわ!
湧き上がる歓声にライトの力がますます上がっていくようだ!
そうだ! そうだ!
もっと称えろ! もっと! もっとだ!!
俺が────俺がライトだ!
俺こそが──光の……。
──うぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!
「……ぞ、そうか!」
「あ、あれが噂の二つの魔術師──!」
そう。
光の戦士にして、またの名を──!
「子連れ魔法使い──」
「子連れ!」「子連れ!」
そして、
「無敵の外れ属性ライトの力なのか──────?!」
そう。
俺こそが光の戦士改め、子連れ魔法使いにして、無敵の外れ属性──……。
「──って、おおおおおい!」
な、なんだよ、そのわけのわからん二つ名は?!
いい感じに盛り上がっていたライトであったが、これにはさすがにツッコミをいれたくなる!!
……だってそうだろ?!
「ひ、光の戦士はともかく──なんだよ『無敵の外れ属性』ってのは! 誰が『外れ』だ!」
……元・外れ属性しかあってねぇよ!!
っていうかなぁぁあ!
「あと、『子連れ』ってなんだよ! 子連れってのはぁぁぁあ!──俺は独身だぁぁぁあ!」
ついでに言えば童貞で、
絶賛彼女募集中だよ!
「な、なんだって?」
「さ、さぁ?」
気の抜けるような二つ名に思わず全力でツッコみをいれてしまうライトであったが、
そんなライトに熱い声援を送るのはさっきまでボケーっとしていた傭兵たちだった。
というか……。
仕事しろ、仕事をぉぉお!
オマエラ、なんのための頭数だ!
「ほらぁ。あんたら何をしているんですか! 敵の数を見ろよッ! あっちのほうがまだまだ優勢なんだぞ──はやく反撃の準備を!」
つーか、なんでライトだけ働いてんだよ!!
ざわっ!
ざわざわっ!
──ライトに激を飛ばされたその瞬間、ようやく商人の護衛をしていた傭兵たちが我にかえったらしい。
そ、そうだった……。
今は護衛任務中で──大量の荷物を積んだキャラバンを危険地帯から守る任務の途中だった! と──。
「お、おうよッ!」
そして……ようやく。
そう、ようやく、隊長格の傭兵の反応が一番早くすぐに二刀で抜刀し、二手にかまえると叫んだ──。
「や、野郎ども! オーガどもは怯んでいる! いまだ、一気に畳みかけろ!」
う、
「「「うぉぉおおお!」」」
一瞬顔を見合わせた傭兵たちが図ったようなタイミングで、一斉に抜刀ッ!
ジャキジャキジャキッ!
そして、抜刀からの───……─突撃ぃぃ!
「いけぇぇぇえええええええええ!!」
「「「うおおおおおおおおおお!!!」」」
ドドドドドドドッ!
──……ドカーーーーーーーーーーーーーーーン!!
「おーおーおー。今更、張り切っちゃって、まぁ。やりゃできんじゃねーか」
流石は、練達の傭兵たち。
さっきまでの怯えた様子とは打って変わって、突然あい路から襲い掛かって来たオーガに対応すると、態勢を立て直すと同時に反撃にうつると文字どおり畳みかけてみせた。
「おらぁ!」
「舐めんじゃねぇぇぇ!」
ズバーン!
ドカーン!
魔法使い系の戦いも派手だが、
戦士系の血とはらわたが飛び散る戦いもまた迫力がある。
怯んだところに突撃を受けたオーガどもが総崩れになり、その血が飛び散る様が凄まじく映える。
「んー。……やってるやってるぅ」
やってるねぇ。
「──やってるー」
ひょこ
「お。起きたのか?」
そこに派手な音を聞きつけたのか、ライトの背中から肩越しに顔を出したのはどこかでみたことのある美少女。
白い髪、白い肌の美しい子──。
「おきたー」
「うん、そうだね──だけど、危ないからもうちょっと寝てな、ヤミー」
ぽんぽんっ。
背中越しに優しくなでると、
フルフルと首をふって、かわりにチョコンッとライトの肩越しに顎を乗せてふわわとあくびをかくのは、いつものボロッちいローブ姿のヤミーちゃん。
そして、まったく危機感のない様子でライトの肩にのせた顎でグリグリしだす。
「……まだ戦闘中だぞ」
「みてるー」
うんうん。
でも、物見遊山じゃないからね?
戦死することもある戦場だよ、きみぃ。
ま……。君は結構修羅場潜ってるから、こーゆーの平気だよね。
だけど、YOUは女の子だよ? 危ないから顔出さないようにねー。
「はーい」
「……ん。よし」
ポンポンッ。
「ふわぁぁ……」
はいはい。
お寝む中のところすまないねぇ。
──なでりこなでりこ。
いい香りのする髪を掬うように撫でると、ヤミーの髪質はツヤツヤだった。
その撫で心地といったら、中々たまらないので戦況を見渡しつつ、飽きることなく撫でりこなでりこ。
ヤミーも気持ちいのか、目を細めてうっとりと、
おかげで髪は結われてツヤツヤだし、顔色もいいし、終始楽し気だし────……。
「…………………って、これかぁぁ! 『子連れ魔術師』ってのは!!」
──ずるっ!!
思わずズッコケるライトが、ヨロヨロと起き上がると額に手を当てる。
……おいおいおいおいおい。
今気づいたわ!
──そりゃ言われるわ。
だけどね?!
つーかね?!……失礼だよ、君たちぃぃ!
ヤミーは子供じゃねーよ、ただの相棒だよ相棒ぉおお!!
だいたい何歳だと思ってんだよ、俺もヤミーもさぁぁ!………………いや、ま、子供だけどさぁ!
そりゃ、ある意味子連れだけどさー!!
「……くっそー。日に日に変な二つ名がついてくるぜ」
今度はなんだ? 鬼退治のライトとか言われんのか?
……まぁ、かっこいいから、それならいいかもな。うんうん。
子連れ魔術師よりははるかにいい。
しかし、子連れねぇ……。
たしかに、なんやかんやで色々あったけど、結局。あの日以来──ライトとヤミーはコンビを組んで冒険者をしているのだ。
それこそ、こんな護衛任務まで一緒にこなすほどに。
とはいえ、こうなるにも紆余曲折ありまして──。
アグニールをぶっ飛ばしたはいいけど、身分も戸籍もないヤミーの存在は宙に浮き、このままだと孤児院か、女衒にでも売り飛ばすしかないと言った状態に。
それはさすがにどうかと思ったのかギルドが──というか、あのメリザがライトに押し付け……引き取りを打診したのだ。
もちろん最初は断ったよ?!
だって、命の恩人とはいえ女の子だよ?!
親も兄弟もいるだろうに!!
──と思ったのだが、ヤミーに聞けばそんなのよくわからんとのこと。
……で、結局──こうなった。
なんでも、クエスト中に拾った品は冒険者の物になるという通例があるとおり、ヤミーをライトが所有するのが無難なんだとか。
……つまり引き取ることになったのだわ。
ま、正式に言えば、アグニールか魔塔の持ち物の可能性もあるが、
おそらく連中は絶対にそれを認めないだろう。
なぜなら、合法以外の奴隷などの人身の所持は王国法違反──つまり犯罪だしね。
と、いうわけで──……ヤミーはライトと行動を共にすることになったのだけど……まぁ、そのせいで色々ありました。
主にロリコンとかロリコンとか、ロリコンとか──……ロリコンしかねーよ!!
「つーか、ロリコンじゃねーよ!!」
「ふぃぃー……終わったぜぇ────って、なんだ? ロリコンだと?」
いつの間にか戦闘音が間遠になったと思えば、ケリがついていたらしい。
全身血まみれになった傭兵隊長が、剣を肩にして、首をゴキゴキ鳴らしながら帰って来た。
どうやら、あれからすぐにオーガどもは撤退したのだろう。
「って、誰がロリコンだ!!」
「い、いや……知らねーよ?」
おっと、
回想に入ってたぜ────……ごほんっ。
「どーも隊長さん。そっちは終わったみたいだな?」
「へっ。こっちこそどーもだぜ」
ごッ。
ライトが座上する馬車を軽く叩いて、拳をライトに向けてくれる傭兵隊長。
どうやら感謝と労いのつもりらしい。
「というか、あらかたお前さんが倒して様なもんだろうが」
「……ふん。アンタらがおっせぇんだよ。──そりゃ、ほとんど俺が倒しちまうぜ?」
「ま、まーそういうなよ。こっちもいきなりのことでお前さんに驚いていいのか、オーガに驚いていいのかわからなくてな」
ぽりぽり。
「……そりゃどういう意味だよ!」
オーガか?!
ライトさんがの魔法オーガ以上に見えたってか?!
「いや、そういうわけでは…………。あーそれにしても、たまげた魔法だな? 噂以上だぜ」
「あ゛?!」
なんだよ、噂って。
どーせろくな噂じゃないだろうさ。
「さて、どーかな」
けっ。
どーせ、子連れとか、子連れとか、あと子連れとかさぁ。時々ロリコン。
……って、だからロリコンじゃねーよ!!
「ふんっ!」
そうとも、ろくなもんじゃない。
…………アグニールをぶっ飛ばしてから数カ月。
ライトは、『光線』魔法使いとして教会都市で名を馳せるまでになった。
だが、名が売れると同時に、元々悪名とも詰りともつかない二つ名のあったライトが、あの日を機に劇的に変化したともなれば色々と噂が立つのも目に見えていた。
何と言っても目立つしな──。
それは、光線魔法はもとより…………、
「ごはんー?」
ホゲーっとした表情のヤミーが飯を催促。
「まだだっつの」
「むー」
………くくく、そりゃ、そうか。
こんな風に女の子を連れましてりゃ、そうなるわなー。
「まったく呑気だな、ヤミーは。……ほれ、飯はまだ先だってさ、これ食って待ってな」
ぽいっ。
干し芋を腰の袋から出して握らせてやると、歯を見せて満面の笑みを見せるヤミーに、思わずふっと小さく口角を緩める。
「にー。ありがと」
「……ふっ」
カリカリカリッ!
小動物のようにそれに齧りつくヤミーを眺めつつ、優しい目をしているライトであったが、
それを目ざとく見ていた傭兵隊長が顎に手を当てながら神妙な顔でライトの顔をまじまじと見る。
「……はっ、やっぱり噂とは違うな──」
ちっ。
「なんだよ、まだいたのか?」
「おいおい、ご挨拶だな。……その子は、娘かい?」
ずるっ!
……だ・か・ら違うっつーの!
「あほたれッ。よく見ろよ! 俺もヤミーも、そんな歳に見るのかッつーの……!」
どう見ても、せいぜい年の離れた兄弟だろうが……。
「ほーん?」
……あ、信じてないなこの顔。
つーか、ゲスなこと考えんなよ?
「相棒だよ、相棒……」
そういって、
ポンポンとヤミーの頭を撫でるとクズぐったそうな顔をしているのを見て少しほっこりするライト。
「相棒ねぇ~」
納得してるんだかしてないんだかよくわからない顔で肩をすくめる傭兵隊長。
「言ってろ」
……けッ。
説明したってわかるまい。
……ライトもヤミーも。あの墓所で、あの地下で、あの地獄で何を捨てて、何を得たのか──。
それは、ライトとヤミーにしかわからないし、わかってほしくもない。
(……そうさ、ヤミーは相棒だよ)
あの闇の中で互いの手を取ったあの瞬間……から、ずっと、な──。
……絶望の闇の中で手を取った少女は、ライトが考えるそれよりも、ずっとずっと深くて黒くてドロドロの闇の中にいた。
そして、きっと今もヤミーの闇は、まだまだ根深くそこにあるはずなんだ。
魔塔
アグニール。
そして、
携帯魔力タンク……。
「……ッ」
思い出しただけで虫唾が奔る。
あの、魔力の高い素体を押し込めただけのゲスの産物ッ。
……一歩間違えればライトだってあの中にいたかもしれないんだ。
あぁ、そうさ。
(だから、ヤミーは相棒なんだよ)
あぐあぐと、小動物のように芋を齧るヤミーの頭を撫でながら、ライトはもう一人の自分──……ヤミーの中にあり得たかもしれない未来を思い胸を抑える……。




