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第四十三話 『クレーム』

 ウォルター商会メイガス支部。


 各地に支部をおけるほどの大店となれば、当然王都でもそれなりに名が知れていても可笑しくないはず。

 だが、王都でウォルター商会の名を聞いたことは一度としてない。

 確かに俺はあまり絵画等の芸術品や被服や宝石といった流行には詳しくはないが、このウォルター商会メイガス支部がメインで扱っているのは武具や鉄といった実用品であり、アベール子爵家のような武功でその名を轟かす貴族家には欠かすことのできない商会である。

 もちろん、ウォルター商会が王都で武具や鉄を取り扱っていないため、俺の耳に届かなかった点は考慮すべきだろうが……。

 どれだけ無能の商人であっても、メイガス製の武具を王都で売らないなんてことは考えられない。

 どんな値を付けようとも必ず買い手がつく。

 それだけのネームバリューがメイガスにはあるのだ。


 以上のことから推察されるのは、以下二点。

 ウォルター商会の名を知らないのは、俺の耳が節穴であったから。

 または――――王都で武器を売らない確固たる理由があるか……だ。




「いらっしゃいませー!」


 玄関扉をくぐり店内へと入れば、一階には長机のように大きなカウンターが設置され、いくつかの窓口が用意されている。

 商店というよりは、前世における銀行のような様相であった。

 窓口の上部には、その窓口で対応できる内容が記載されている。

 鉱石の売買に関する窓口、ウォルター商会が運営する鍛冶屋の武具を売買する窓口、逆に食品や他所の街の特産物を買い取る窓口など、その種類は多岐に渡る。

 それぞれの窓口には、数人が列をなしており、それなりに待ち時間も発生しているようである。


 また、商品の積卸や確認作業のため、ひっきりなしに人が出入りしており、非常に活気づいている。

 奥には階段が見えており、おそらく特別な客を対応する際の応接室や、商会長の部屋などは上層階にあるのだろうと推測できる。


「いらっしゃいませ。本日はどういった御用でしょうか?」


 俺が窓口に並ばず、店内を見回していることに気付いた商会の従業員が声を掛けてきた。

 俺よりいくばくか年上に見える、誠実そうな男性従業員に対して俺は来訪の目的を告げる。


「武具を見たくて来たのですが……。もしかして、こちらでは商人同士の取り扱いしかされていないのでしょうか?」


 俺の問いに、男性従業員は頭を下げる。


「お客様、申し訳ございません。こちらの店舗は、一定の数量以上での取引をする窓口となっております。一式単位、一本単位での武具の購入をご希望の場合は、我々ウォルター商会が運営しております鍛冶屋へ直接赴いて頂くようお願いしております」


 商人じゃなくても、大量に購入するのであれば可能なのか。

 逆に商人であっても、一式だけ、一本だけといった購入は認められないと。


「そうでしたか……。ところで、個人の場合は武具の売買以外に関しても、運営されておられる鍛冶屋でご対応いただくことになるのでしょうか?」


「品にもよりますが……、どういった商品をお探しでしょうか?」


 敢えて()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()で問いかければ、案の定、誤認して質問を返してくれる。

 親切にしてくれる男性従業員にこんなこと言いたくはないが、目的を果たすためには致し方ないか。

 俺は、なるべく嫌味に聞こえるように大声で話してやる。


「先日、そちらの運営する鍛冶屋の人間から脅迫を受けましたので正式に抗議をしたいのですが、苦情を受け付ける窓口もこちらではなく鍛冶屋でしょうか?」


 俺の大声に、周囲にいた人間はこちらへ視線を向ける。

 さきほどの活気づいた喧噪とは違う、ざわざわとした空気が店内を覆いだす。


「お……お客様。申し訳ありませんが、あまり大声を出されませんよう――」


 慌てた男性従業員の言葉を遮るように、俺はさらに大声で言い募る。

 本当に申し訳ない気持ちになるが、これも目的のためだと心を鬼にする。


「私の名はハルト・アベール。アベール子爵家に連なる者である。その私に対して、商品である剣を振りかざし脅迫に及んできた狼藉者どもは、ウォルター商会が運営する鍛冶屋の従業員であったぞ。――貴様らは、平民が貴族に対して、脅迫行為を及ぶことの重大さが分かっておらんのか?」


 なるべく居丈高に聞こえるよう、精一杯に虚勢を張る。

 俺の態度に、対応してくれていた男性従業員は可哀想なほど顔色を真っ青にしている。

 口をパクパクと開きながらも、喉がかすれて声が出ない様子である男性従業員を尻目に、俺は周囲にいる人間を恫喝するように叫ぶ。


「貴族に喧嘩を売ったのがウォルター商会の総意であるならば、貴様ら従業員もまとめて裁判沙汰を覚悟しておけ!」


「おやおや、これはお客様。如何されましたかな?」


 奥の階段からゆっくりと姿を現したのは、青髪を肩まで伸ばした細身の男であった。

 どこか優男のような穏やかな笑みを湛えており、余裕綽々といった表情で俺と相対した男に対して、俺はフンと鼻を鳴らす。


「貴様が責任者か?」


 偉そうに問えば、青髪の商人は優雅にお辞儀しながら名乗りをあげた。


「失礼いたしました。私は、ウォルター商会の商会長を務める、ウォルターと申します」


「なるほど。では貴様がこの商会を興した人物であり、責任者であるという認識でよいか?」


「仰る通りです。私がお話を伺いましょう。どうぞ、こちらへ」


 ウォルターの言葉は非常に丁寧だが、その目には嘲りの感情が見え隠れしており、まさしく慇懃無礼な人間であることがすぐに知れた。

 先ほどの男性従業員へ飲み物を用意するよう言付けすると、自ら先導して階段を上っていく。

 その案内に従って二階に上がり、応接室と思われる部屋へと入る。


 ソファへと腰を下ろすと、男性従業員が震える手で飲み物を置いていく。

 ……彼には本当に申し訳ないことしてしまった。


 対面に座ったウォルターは、その言葉とは裏腹に挑発的な視線を俺へと向けてくる。


「さてさて。それではお話を伺いましょうか、ハルト・アベール殿」



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