第四十話 『伝書鳩』
俺と御者のゴーサさんは馬車で街中を見て回った。
……が、正直得たものはほとんどない。
街中はどこもそれなりに賑わっており、大きな違和感を感じることもなかった。
「……そろそろ戻りましょうか」
俺がゴーサさんへ声を掛けると、ゴーサさんは馬首を左にめぐらせる。
宿屋たる岩鶏屋へと馬車を進めながら、俺は憂鬱な気持ちで窓から外を眺めていた。
正直、自分が情けない。
レオンはしっかりと俺の業務を考えて、色々動いてくれているというのに……。
所詮は前世のリード分で王立学院時代は成績が良かっただけで、地頭悪いのかなぁ……。
◇◆◇
宿屋へと戻った俺は、ゴーサさんと簡単に夕食を済ますと自室へと戻る。
それほど大きくないベッドと、ちょっとした書き机。
俺はその書き机で紙に向かって、頭を抱えていた。
今、俺が解決すべき問題は二つ。
一つ目は、前任の査察官について調査すること。
これは今のところ、何も情報がない。
二つ目は、鉄の値段が上昇している原因を探すこと。
これに関しては、町長であるゼスト・ランベルグから街の利益は変わっていないという証言を得た。
これが事実であれば、実際に他所の街へ商品を運び販売する商人たちが不当に利益を得ているということになるのだろうか?
または、ゼスト町長へと報告を上げる立場の人間が情報をせき止め、利益を得ているのだろうか?
逆に、ゼスト・ランベルグが俺たちへ嘘をついていた場合、やはりゼスト町長が利益を得ていることになると考えてよいのだろうか?
もしくはゼスト町長が誰かに脅されていて、嘘をつかざるを得ない状況になっているのだろうか?
……今の状況では、情報を特定することはできないか。
ひとまず、明日は再度鍛冶屋のブラミスに会いにいってみるか。
紙にひとまず自分の考えをまとめて……こんな物があったら俺が査察官だとバレるかと思い直し、紙をビリビリに破いて燃や……せないか。
火の魔法が使えたらなぁ……。
本当に不便な身の上というか、せめて一個でも良いから四元素の魔法のどれかが使えればなぁ。
すると、窓からコツンと音がする。
……誰だ?
窓へと近づき、カーテンをゆっくりと開ける。
すると、窓の外には一羽の鳩。
鳩の脚には、一枚の紙が括りつけられていた。
俺は窓を開けると、鳩を部屋の中へと入れてやる。
脚に括りつけられている手紙をほどき、手紙へと目を通す。
差出人は、俺の上司、宰相ベルガル・ソラーシュからであった。
◇◆◇
ハルト・アベール殿
無事メイガスの街へと到着したとレオン・クラーベ助祭より連絡を頂いたので、この手紙を送る。
今回手紙を届けた鳩は、正しく伝書鳩というべき存在であり、通信用の魔法が発達した昨今では使われることがなくなった存在である。
それ故、逆に周囲の目を欺くことが可能でると判断し、今回利用することと相成った。
ハルト殿は、今後私へと連絡する必要がある際は、この伝書鳩を利用してくれたまえ。
申し訳ないが、この手紙は読んだ後すぐに燃やすように。
それでは、今回の業務に関して改めてこちらの知り得る情報を共有させてもらう。
まず、ハルト殿の前任者について。
前任者の名前は、トゥーレ。
平民出身の査察官である。
年齢は三十代中盤、茶色の髪をした男だが、見た目の最たる特徴は右の頬から首まで覆う痣。
その痣を隠すため、普段は首元を覆うように布を巻きつけていることが多かった。
査察官として働きだしたのは五年ほど前から。
トゥーレに鉄の値段が上昇した原因を調べるよう命じ、メイガスへと派遣したのは約一年前。
その頃は今ほど価格は高騰していなかったが、既にその兆候が見られたため、トゥーレを派遣した。
到着の連絡の後、私から指示を送った。
何度かトゥーレから報告を受けていたが、数か月ほど前から連絡が途絶えた。
こちらから何度か通信魔法や伝書鳩を利用して連絡を行ったが、伝書鳩に括りつけた手紙も解かれることがなかった。
最後にトゥーレからの連絡には、直接鉱山へ赴くと記されていた。
もしかすると、鉱山に何らかの秘密が隠されているかもしれない。
しかしながら罠が仕掛けられている可能性もあるので、十分注意されたし。
トゥーレの後を追えば、その顛末も、鉄の高騰についての理由も分かるかもしれない。
十分に準備をし、調査を開始してほしいと思う。
なお、私の方で調べられることがあれば遠慮なく連絡をしてくれたまえ。
検討を祈る。
――――ベルガル・ソラーシュ
◇◆◇
手紙は読み終わった後、俺は手紙を燃やすための火種を探す。
……前任者のトゥーレさんは、鉱山へと赴いてその後連絡が取れなくなったのか。
俺も明日改めて鍛冶屋のブラミスへと会った後、準備を整えて鉱山へと一度行ってみるか。
俺は手紙を書くため、新しい紙を用意する。
連絡手段の確立について礼を書くべきだし、調べてほしいことや、今日判明したことを記していく。
そのうえで、俺も準備が整い次第、鉱山へと赴く旨を書き連ねる。
やがて書き終わった手紙を、伝書鳩の脚へと括りつける。
改めて窓を開けると、伝書鳩は飛び出していく。
夜空へと舞い上がる鳩を見送ると、俺はもう一通の手紙を準備する。
レオンに一応知らせておいた方が良いだろう。
もしかすると、鉱山から戻ってこれない可能性もあるわけだし。
その時に、レオンにはレオンの望む将来のために、最善の道を模索してもらった方が良い。
俺もレオンの力になりたいし、俺の協力をすることでレオンは宰相ベルガル・ソラーシュの助力を取り付けたとのことだったが、それがポシャってしまうかもしれないからな。
書き上げたレオンへの手紙は、明日の朝ゴーサさんに渡そう。
俺は少し肩をほぐしながら、ベッドへと身を横たえる。
――明日は忙しくなりそうだ。
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