第三十八話 『会合』
軍の話で盛り上がるメイガスの街の町長ゼスト・ランベルグに対して、救世教会の助祭であるレオン・クラーベが相槌を打ちながら、話を盛り上げる。
俺自身はあくまで護衛兵であるし、本日こちらへ赴いた理由はレオンの挨拶であるのだから、これが正しい対応だろう。
ただし、俺が父ユジンの息子であることがゼスト町長の心理的な壁を崩したことは間違いないので、俺も護衛でありながら、興味があるような素振りで笑顔で話を聞いている。
……ここまでお膳立てしてもらっておきながら、笑顔で突っ立っているだけというのも問題がある気がしないでもないが。
そんな様子で会話が盛り上がる中、久しぶりにゼスト町長が俺へと話を振ってきた。
「レオン助祭のご高名は、ここメイガスにも響いております。その卓越した魔術の腕を持ってすれば、並の賊では傷一つ付けることはできないだろうと。それほどの実力を持つレオン助祭がわざわざ護衛に着けたくらいですから、やはりハルト殿も父の名に恥じぬ腕だということでしょうか?」
そこに悪意はなく、純粋に興味があるのだろう。
しかしながら、自分で自分のことを強いですと言うのもなんだか変な気分だしなぁ……。
少し返答内容について困惑しながら口を開こうとしたが、先にレオンが口火を切った。
「えぇ、もちろんです。私と護衛兵のハルト・アベールは王立学院時代の同期なんです。私の技術など、実際の戦場でその腕を振るった方々と比ぶるべくもありません。しかし、彼の腕前は私とは次元が違います。命のやり取りの現場であっても、歴戦の兵たちに比肩しうる実力を発揮できる人物は、私の同期では彼しかおりません」
「それほどですか……。いえ、ハルト殿の腕を疑っているわけではありません。何といっても英雄ユジン・アベールのご子息ですから。ただ、ユジン殿は後衛で死霊魔術を奮うタイプでしたが、彼からはそういったオーラを感じないのです。どちらかと言えば戦場真っ只中で剣を奮う、戦士のような雰囲気を感じましたのでな」
俺の戦闘スタイルは、レオンが知る由もない。
というか王立学院時代に本気で戦闘しなきゃならなくなったのなんて、暗殺者に襲われたときと近衛騎士団長シルド・ドレーンとやり合った時だけ。
「はい、仰る通りです。私は前に出て戦うタイプにあたると思います。それ故、後衛で優れた魔術を奮うことのできる光の申し子たるレオン・クラーベ殿の護衛に選ばれたのだと思います」
俺が敬礼しつつ返答すれば、ゼスト・ランベルグは得心がいったとばかりに頷く。
「なるほど、前衛としてハルト殿が戦い、後衛からレオン助祭がフォローするという布陣ですか」
「――はい、それにやはり戦士たる者、一度はメイガスへ来るべきでありませんか?」
レオンが一歩踏み込む。
なるほど、ここで攻めるのか。
「この街はアズワール王国最大の鉱山を有する街であり、そこから採れる様々な鉱石を凄腕の鍛冶師たちが一から叩き上げて制作する武具もまた、アズワール王国最高品質と言っても過言ではありません」
ゼスト町長が代官として派遣されてきた、ここメイガスの魅力を語りだしたレオン。
当たり前というか、有名すぎてわざわざ町長の前で語るのも本来は空々しい感じがするのだが。
「自らの命を託す武具の質はなるべく高いものが良いと思うのが人情というもの。私は、今後アズワール王国を武の面で担うことになるだろう、ハルト・アベールにメイガスの武具を見せてやりたかったのです」
今この場面において、空々しい内容をゼスト町長へ敢えて語ることによって生まれる効果は計り知れない。
今まで散々、軍の話や英雄の話、そして俺の実力について話をしてきたのだ。
「確かに、このメイガスでは腕の良い鍛冶師たちが日々鎬を削り、少しでも腕を磨こうと奮闘しております。きっとハルト殿が気に入る武具も見つかると思いますよ」
「ありがとうございます、ゼスト町長。王都まで運び込まれるメイガス製の武具は、商人たちの取り分や経費も乗って正直私には手が出せる値段ではないのです。ここで直接買う方法であれば、もしかしたらと思いまして……」
俺は少し恥ずかしそうな素振りを見せながら応える。
「勤めだしたところであれば、給金もまだでしょう。いずれハルト殿も、その実力に相応しい収入を得ることが叶いますよ」
まるで近所の気の良いオジサンみたいな口ぶりで話してくるゼスト・ランベルグ。
さて、それじゃ本題に行かせてもらおうか。
「実はここへ伺う前に、鍛冶屋街へ顔を出したんです。店先に並んでる商品はどれも品質の良さそうな武具で目を奪われました。……恥ずかしながら値段を確認してみたところ、王都で同じ品質の武具を買うより安値でびっくりしました。商人たちが結構な手間賃を取ってるんじゃないか、メイガスの人々を騙しているんじゃないかと心配になったくらいで……」
俺が心配げに目を向ければ、ゼスト町長は少し驚いた様子を見せた後、大口を開けて笑い出した。
「いやはや、ハルト殿。確かに、商人たちもそれなりに手間賃を取っているでしょうけれど、我々も騙されているわけではありませんよ。実際に武具は賊に奪われると、そのまま賊たちの武具となってより大きな被害を生みますので、護衛をきっちり雇わない商人たちは排除しております。それだけの護衛を雇う商人たちの出費もなかなかのものなのですよ」
そしてゼスト・ランベルグは、優し気にこちらを見つめると、安心させるように自信に満ちた声でこう言った。
「だから、我々も商人たちが他所の街でメイガスの武具を多少高値で売ることは、許さざるを得ないんですよ。それに、ここ数年は利益も安定しております。極端に収益が上がったり下がったりすることもなく、実に平和なもんですよ」




