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第三十六話 『武具』

 三人組の男どもに、俺の目が届く範囲で悪さはしないようにと言い含めた後、立ち去ろうとした俺はドワーフ爺に捕まった。

 爺さんにつれられて、店の中を覗かせてもらった。

 ドワーフ爺の店には、所狭しと様々な武具が並んでいた。

 オーソドックスなロングソードや、ショートソードといった刀剣類のみならず、斧やハンマーといった重量武器に、鎧や兜といった防具も数点ほど壁に飾られていた。

 ……うーん、目利きはできないので正直良し悪しは分からん。

 分からんが、俺の探している商品がないことは間違いなさそうだ。


「どうだ? 欲しい物があれば言ってくれ。礼をせねばこちらの気が済まんからな」


 ドワーフみたいな見た目の頑固爺は、恩義や礼儀といったものを大切にする……見た目通りの爺だった。

 俺はその言葉に頷きながら、飾られた武具に目を向ける。

 ……まぁ、お茶を濁しても仕方ないので正直に言おうか。


「すいません。私が探している装備はこちらにはちょっと見当たらないので、出来ればそれらを扱っている店舗を教えてもらえると助かるのですが……」


「そうじゃったか……。どんな武具を探しておるんじゃ?」


手甲(ガントレット)脚甲(レガース)とでも呼べばいいのでしょうか。防具としての機能と武器としての機能を持った手と脚の保護具が欲しいんです。……実は私、剣はからっきしで、もっぱら素手での戦闘がメインでして……」


 苦笑いで事情を説明すれば、ドワーフ爺は得心がいったとばかりに大きく頷く。


「なるほどな。先ほど剣を振った時、結果だけ見れば化け物じゃったが、剣筋は酷いもんじゃったが、理由はそれか」


 助けてもらっておいてこの言い草である。


「お恥ずかしい。一応護衛兵としての正規装備品に剣があるので腰に提げておりますが、まだ一度しか使用したことがないんですよ……つまり先ほどなんですけど」


「ほう。それで手甲(ガントレット)脚甲(レガース)か……。確かにうちの店には置いてねーな。というか、それを扱っている店は多分ねーぞ」


 まじかよ。

 アズワール王国でも屈指の鍛冶屋街じゃねーのかよ。


「鎧の一部としてなら山ほどあるが、単独の武具として取り扱っている店はねーだろうな。もちろん、鎧から外して、その部位だけあんたに譲ることもできるだろうが、それじゃあんたの意向には沿えんだろうな」


 いやまぁ、確かにね。

 護衛兵としての正装である黒の軍服に、鎧から外した手甲(ガントレット)脚甲(レガース)ってのは、デザイン的な問題に目を瞑っても、色々と問題がある。


「あんたほどの馬鹿力で物を殴っても壊れない素材ってのが、殆どないだろうよ。そんな素材で手や足の保護をする奴も少ないだろうよ。急所を保護できるような部位にこそ、そういう素材は使われるだろうからな」


 そうか……。

 いやまぁ、ないものは仕方ない。

 少し肩を落とした俺に対し、ニヤリと悪い笑みを浮かべたドワーフ爺が言葉を紡ぐ。


「そこで、だ。俺はあんたに礼がしたい。あんたはここらで扱っていないモンが欲しい。それなら、俺があんたの欲しがってるモンを作れば、万事解決とはいかねーか?」


 そう言って、ドワーフ爺は自らの胸を力強く叩く。


「自分で言うのもなんだが、俺はここらでもそれなりの腕だと自負してる。……どうだい? 一度この俺、ブラミスにあんたの手甲(ガントレット)脚甲(レガース)を作らせてもらえねーか?」






 ◇◆◇






 どうせ、店で素材やなんやの説明を受けても分からないので、どういう用途で使用したいかを伝えて後を託した。

 素材が特殊だとは聞いたが、詳しく聞くのは辞めた。

 なんだか目を輝かせたドワーフ爺――ブラミスを見てると、話が長くなりすぎる予感がしたからだ。


 少し早いが、ブラミスの店を出た俺は手ごろな飲食店を探して再度鍛冶屋街をうろつくことにした。

 昼過ぎに教会なら、のんびり昼食を楽しんでいる時間はないだろうからな。

 ……いや、この際店に入るより屋台で適当に腹を満たした方がいいか?

 そんなことを考えながら、適当に通りを歩く。

 何人かの人間が、店から出て、皆同じ方向へと歩き出すのを見て、そちらに飲食店があるのではと当たりをつける。

 彼らの後ろをついていくと、そこには飲食店といくつかの屋台が立ち並ぶ、まさに鍛冶屋街の中にある飲食店通りとも言うべき場所へとたどり着いた。


 いくつかの屋台を冷やかしながら歩いていると、えらく香ばしい、食欲を誘う香りをさせている屋台を見つけた。

 その割には、周囲はそこだけポッカリと穴が開いているかのように閑散としている。

 どれどれと覗き込んで、納得した。

 多分これはあれだ……ブラーマの姿焼きとでも言うべき商品だ。

 めちゃくちゃ旨そうな匂いがしているのは、ブラーマに厚く何度も塗り重ねられたタレが炙られて生じる香りなのだろう。

 ……うーむ。

 ブラーマってあんな見た目してんだな。

 色が濃い茶色になっているのは、塗られたタレのせいだと思うが、なんというか蛇というわりにはずんぐりむっくりというか、前世でいうとこのツチノコのような見た目。

 蛇というわりには太く短い感じだが、その分食べ応えはそれなりにありそうだ。


 俺はブラーマの姿焼きを売っている屋台を通り過ぎ、別の屋台へと足を向ける。

 ……いや、なんかちょっと流石に姿焼きはハードルが高いっていうか。

 ゲテモノ食いのレッテルを貼られても困るし……。


 俺は適当にいくつかの屋台で軽食を購入し、適当な場所に腰を下ろしてサクッと昼食を済ませた。

 さて、ここからのんびりと歩いていけば、ちょうど良い時間に教会へ到着すると思うんだが。

 俺は、腹ごなしを兼ねつつ、教会へと歩を進める。


 ――この街の町長か。

 さてさて、どんな人物だろうか。

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