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第三十三話 『ブラーマ』

 一度部屋に荷物を下ろし、再度一階の食堂へと戻った俺たちは、恰幅のよい女将さんが空けてくれていたカウンターへと腰を下ろす。

 

「来たんだね! さぁ、注文は何にする?」

 

 相変わらず忙しそうに働く女将さんが俺たちに気づいて声をかけてくる。

 

「オススメはなにがあります?」

 

「そうだねぇ、今日は魚がオススメだね! 川魚だから塩焼きかフライが良いと思うよ」

 

「じゃあそれぞれ一人前ずつ。……あと、ブラーマってあります?」

 

 こないだ酒呑童子とレオンの三人で飲んだとき、結構癖になる風味で、ハマってしまった。

 噛み応えもよかったし、あれば是非食べたいんだが。

 

「……あんた、あんなのが好きなのかい? あんまり評判が良いもんでもないし、うちじゃ扱ってないよ」

 

 ……え?

 あれってゲテモノの括りなの?

 いやでも以前食べたときはレオンも……いや待てよ、あの時レオンはブラーマ食ってなかった気がする……。

 

「……いや、ないなら良いです。あとは、そうですね。適当にいくつかパンをお願いします。それと、エールを2つ」

 

「はいよ! なら銅貨四十枚、先払いだよ」

 

 俺は懐から財布代わりの袋を取り出し、先ほどお釣りで受け取った大銅貨のうち、四枚を女将さんへ渡すこととした。

 一方、隣の席へと腰を下ろした御者の男は、申し訳なさそうに頭を掻いている。


「……すいません。明日レオン坊ちゃんから代金をお預かりしたら、すぐお返ししますんで」


「貴方が謝ることじゃないですよ。それに、ここまで無事運んできてくれた貴方とは、是非仲良くしておきたいという打算もありますから」


 俺が笑えば、少し緊張がとれた様子で御者も笑った。


「そういえば、お名前を窺ってもいいですか?」


「はい。私は、レオン・クラーベ様にお仕えするゴーサと言います。元はクラーベ伯爵家にお仕えしていたのですが、レオン様が教会へ入られた際に、専属の御者としてお仕事を頂くことになりました」


 ゴーサが姓を名乗らなかったのは、爵位を持たぬ平民であるからだ。

 平民には姓がなく、姓とは仕える国の王より賜る貴き血の証である。


「ゴーサさん、とお呼びしても?」


 俺の問いかけに、ゴーサは慌てて首を振る。


「いけません。旦那様は子爵の家に名を連ねるお方です。私のような者に敬称を付けるようなことはしませんでください」


「うーん、いやでも、ゴーサさんって見た目的に四十代かなって思ったのですが、間違ってます?」


「いえ、今年四十七になります」


「それだと父と子くらい年齢が離れてるんですよね。そんな年上の方を呼び捨てにしたくないんですよ。もちろん、正式な場であったり、ゴーサさんが困ってしまうような場面では敬称を付けません。ただ、こういうプライベートな場では、許可してもらえませんか?」


 俺が笑顔で言い募れば、ゴーサさんは少し考えたうえで、こういう場だけでしたら、と折れてくれた。

 ゴーサさんは、平民出身であるが、その父もまたクラーベ伯爵家で御者として雇われていたそうだ。

 さらにその父、つまりゴーサさんの祖父も同様の職であったとのこと。

 親子三代にわたってクラーベ伯爵家に仕える、伯爵からすれば信頼のおける御者と言える。

 それゆえ、レオン付きとして仕えることになったのだろう。


 運ばれてきた料理に舌鼓をうち、エールを飲み交わす。

 ちょっと味の濃い物が食べたいので、女将に追加で注文しながら、ふと会話の切れ目に周囲を見渡す。

 岩鶏亭は、武具や鉄鉱石の買い付けにやってきた商人たちに、護衛として雇われている冒険者をメインの顧客層としている。

 それ故、料理は質より量。

 食事や宿泊の代金も、わりかし良心的である。

 だからこそ、俺たちも結構な大声で話しているが、周囲の喧騒はそれ以上。

 エール片手に大盛り上がりである。


「ハルト様は、今回レオン坊ちゃんの護衛ということでしたが、明日からは暇になりますよね? 何か予定が決まっておられるんでしょうか?」


 ゴーサの問いに、俺は意識を目の前へと戻しつつ、肩を竦める。


「実は、行政府から別件の仕事を請け負ってまして。明日からレオンの護衛に戻るまでの間は、そちらの業務にかかりっきりになりそうです」


「そうでしたか。私は坊ちゃんよりハルト様のお力になるよう申し付かっております。伝言や足が必要な際には遠慮なくお申し付けください」


「ありがとうございます。そうですね、明日はとりあえず岩鶏亭に無事宿泊できたことをレオンへお伝え頂けますか?」


 俺からの依頼に、当然とばかりに頷き返してくれる。

 そうやって明日の段取りが決めながら話をしていると、横合いから女将の声が割って入ってくる。


「はいよ! エールのおかわりと追加注文分だよ! ほかに何かいるかい?」


 その問いに、俺たちは首を横へと振る。

 そういえば……


「ゴーサさんってブラーマって食べたことあります?」


「いや、私は平民の中でも割と生活は安定しているほうなので、食べたことはないですね」


 真面目な顔で返してくれるのは有難いんだけど。

 ブラーマって困窮している人が仕方なく食べる感じのアレなの?


「……ブラーマって見たことないんですけど、どんな生き物か知ってます?」


「あぁ、そうなんですね。ブラーマという小型の蛇なんですけど、別名悪食蛇と呼ばれるくらい、なんでも口にするんですよね。その……虫とかだけじゃなく、他の生き物の排泄物とかも食べるのです。どこにでもいるし、非常に小型で毒もない貧弱な生き物なので、本当にお金に困ったときには、簡単に捕まえて食べられるので重宝するらしいんですが、好き好んで食べるものではないでしょうね」


 ……この人、俺がさっき女将にブラーマの有無を聞いたとき、どんな気持ちだったんだろう?

 っていうかレオン、あいつまじか……。


 俺は、胃の中身を吐き出したい気持ちを誤魔化すように、手に持ったエールを一気に喉へと流し込んだのだった。

いつもブックマークや評価、応援コメント等ありがとうございます。

お盆に差し掛かり、暑い日が続いておりますので、皆さま体調にはお気を付けください。

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