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第二十四話 『父、独白』

 ハルトが近衛騎士団長を下した後、私は国王陛下へ詰め寄った。


「……これで、我が息子ハルト・アベールは、自らの証言の実行可能性を証明してみせたと思いますが、陛下はどのようにお考えでしょうか?」


 驚愕をその顔に貼り付けたまま、その視線が向かう先を戦いの舞台から私へと移した国王陛下。


「ふむ……。そなたの言うとおりじゃな。しかし、驚いた。まさか本当に勝ってみせるとは……」


 救護を行うため、近衛騎士が数名舞台へ駆けつける。

 彼らが怒りに任せてハルトに何かしでかす前に、こちらで医務室へ運んでしまおう。


「死は生の隣 隣人を愛するように 死を愛せ 召喚・骸骨兵サモンスケルトン


 召喚した骸骨兵どもに、ハルトを運ばせる。

 王宮内で死霊術を使用することは本来許されない。

 そのため、裁判室へハルトを連れてきた近衛兵がこちらへと振り向く。


「アベール子爵。ご子息は私どもが医務室へ運びます故、死霊術はお控え頂きたい」


 こちらを睨み付ける近衛騎士に、私は顔を向ける。


「申し訳ないですが、信用できませんな」


「な……ッ! それはどういう意味だ!」


 その頭に一気に血をのぼらせ、腰の剣に手を添える。

 誇りを傷つけられたと言わんばかりに、顔を真っ赤にする近衛騎士にもう一度言ってやる。


「信用できないんですよ。あなた方に息子を運ばせたら、行き着く先は医務室でなく墓の下になりかねない」


「我らを愚弄するか!」


 激昂し、声を荒げる近衛騎士に、あくまで冷静に応えてやる。


「あなた方、先ほど既に私の息子に対して、規則違反の暴力を振るっておりましたよね? 裁判室で頭を床に無理矢理押しつけるような行為が許されるのは、被告人が暴れる等、裁判の進行に支障がある場合だけでしょう。腹が立てば立場を笠に着て暴力を振るうような輩が、近衛騎士を名乗り、自らの行動を省みることなく騒ぎ立てるとは」


 一度言葉を区切ると、今度は目線に殺気を込めてやる。


「――調子に乗るなよ」


 うぐッと喉が詰まったような音が漏れた状態で、固まる近衛騎士たちを尻目に、陛下へ尋ねる。


「……というわけで、息子を医務室まで運んでも宜しいでしょうか?」


 国王陛下が首肯するのを確認し、骸骨兵にハルトを医務室まで運ばせる。

 ハルトの意識が戻る前に、こちらの問題も解決しておきたいとこだ。


「さて……、被告人であるハルト・アベールは自らの証言内容を、近衛騎士団長を訓練試合とはいえ打ち破ることで証明してみせた。また、この試合は、ドレーン公爵家の長兄たるカストロ・ドレーンの言によって行われたものであり、不正などもなかったことを儂はこの目で確認した」


 シルド・ドレーンが近衛騎士たちによって医務室へ運ばれていくのを横目に、国王陛下が粛々と語り出す。


「ハルト・アベールの証言の信憑性は高いと判ずるほかない。一方で、シルド・ドレーン近衛騎士団長や被害者の父であるクライン伯爵の論を採用することはできない。証人もおらず、全て憶測であり、その憶測のうち、一介の学生であるハルト・アベールが正攻法で近衛騎士に勝つことはできないという部分も今し方否定された」


 国王陛下は、一度だけ我らをグルリと見回す。

 全員の表情を確認した上で、改めて話し出す。


「以上により、被告人ハルト・アベールは無罪とする。また、和解の場に参席するよう書面を送り、その実裁判の場へ引っ立てたこと。また、ハルト・アベールに対する近衛騎士たちの行為は、貴族に連なる者に対する行為とは言えず、甚だ不適切であったこと。そして、経緯はどうあれ、マルティス・クラインがハルト・アベールを襲ったことを全て認定する!」


 国王陛下の台詞に、クライン伯爵は一瞬で顔の色を真っ赤に変えて激怒し、その口から感情を吐露しようとする。

 しかし、国王陛下は機先を制して言葉を続ける。


「――我が意に意見のある者は、その場で挙手せよ。ただし、その言に理がない場合はそれなりの処遇を覚悟せい」


 常の気怠い雰囲気を払拭するかの如く、その身に王者の威風を纏う国王陛下を前に、裁判室で好き勝手に振る舞っていたクライン伯爵といえど、自制するほかない。


「……特に意見はないようだな。では、沙汰を言い渡す」


 国王陛下の言葉に従って、全員がその場で片膝をつく。


「ハルト・アベールは無罪。そして、アベール家に連絡を行わず裁判を行おうとした司法部及び規則とは異なる不当な扱いを行った近衛騎士団は、アベール子爵たるユジン・アベール及びハルト・アベールへ正式な謝罪の場を設けよ。その場には私も参席することとする。そして……」


 そこで言葉を区切り、国王陛下はクライン伯爵へと向き直る。


「ハルト・アベールを襲ったマルティス近衛騎士については、別途裁判を行う必要がある。だが、規定に従い和解の場を先に設けることもできる。裁判か和解か。どちらの場を求める、クライン伯爵よ」


 片膝をつき、こうべを垂れるクライン伯爵からギリリと音がする。

 横目で様子を窺うと、その顔は憤怒に燃え、必死に歯を食いしばり床を睨みつけているクライン伯爵の姿が目に入る。


「…………和解を」


 絞り出したような、深い怨嗟を感じる声で、クライン伯爵は和解を望んだ。


「では和解の場を準備させよう。……さて、さらに今回は別の問題も生じておるな。カストロ・ドレーンに参席の許可を与えたのは誰じゃ?」


 裁判の場に、無関係なカストロ・ドレーンが参席していたことを国王陛下は見逃さなかった。

 無関係な人間が裁判の場に参席することは原則としてできない。

 その者の参席を許可するか否かの判断を行うのは司法部であるが……。

 裁判室で進行役を務めていた司法部の人間が、手元の書類を確認し、そののちに口を開く。


「カストロ・ドレーンの参席に関しては、司法部に事前連絡はないようです」


「ほう……。では、本人に聞いてみるしかないの」


 国王陛下は、ツカツカと歩き出し、カストロ・ドレーンの前に立つ。

 我々同様、膝をつくカストロに向かい、国王陛下は問いかける。


「さて、カストロ・ドレーン。次期ドレーン公爵たるその身が、なぜ、どのようにしてこの場に参席することになったか答えてもらいたい」


 その問いに伏せていた顔を上げる。

 常人の三倍近い顎を天へと突きあげ、その顔にニヤニヤとした笑みを張り付けて答える。


「それは! それは! それは勿論! 近衛騎士団長シルド・ドレーン閣下からお声掛けがあり、馳せ参じた次第であります!」


 そして、その目を愉悦に歪ませながら語りだす。


「奴は! 奴は! 奴は! 学院内でも非常にずる賢く立ち回っております! そのような! そのような! そのような人間性を! 身近な場所で知っている私に声が掛かったのでありましょう!」


 その返答に、国王陛下はスッと目を細める。


「ほう……。つまり、シルドの奴は最初からハルト・アベールに対して強い疑いを持っており、それ故にそなたを呼び寄せたと」


 国王陛下の台詞を聞くや、我が意を得たりとばかりに、声を張り上げるカストロ・ドレーン。


「まさに! まさに! まさに! 仰る通りかと!」


「――そこまで準備しておきながら事前に司法部へ申請をしなかったのか」


 声を張り上げていたカストロが固まる。

 国王陛下は、カストロを冷たい眼差しで見下ろしながら言葉を紡ぐ。


「裁判という場で必要な手続きを踏まないというのは、司法部ひいては行政府を軽んじている証拠じゃな。きっちりと証言や証拠を集めた兵たちは軍部の所属じゃが、彼らの働きを自らの憶測だけで無に帰そうするなぞ、軍部を見下している証左と言える。近衛騎士団長という役職はそれほどまでに権力を持っておったかの?」


 その問いにカストロは答えることはできない。

 勝手に近衛騎士団長の心情や考えを代弁することはできないし、下手なことを言えば、カストロもシルド団長もまとめて処罰を受ける可能性があると、その足りない頭でも判断できたのだろう。


「どうなのじゃ? 答えよカストロ・ドレーン」


 震えるカストロをゆっくりと追いつめる国王陛下。

 場が緊張に包まれる中。


「国王陛下ァ。そろそろ我が愚息を虐めるのはァ、よして頂きたいものですなァ」


 のっぺりとした声が響く。

 姿を現したのは――。

 形容するなら、それは蛙。

 太りすぎた蛙と言っていい。


 何重にも重なる顎で首は見えく、目蓋にまで脂肪が乗って目は細く。

 重すぎる体を支えることはできず、歩くために杖と介添え人が必要な男。

 アズワール王国の食糧庫を自領とし、貴族としての最高位たる身分を、その贅沢さの権化のような体で証明しているような。


 カストロ・ドレーンの父。

 シルド・ドレーンの兄。

 現ドレーン公爵――フルーム・ドレーン、参戦。

明日は第二十五話を投稿予定です。

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