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第十七話 『思惑』

「そもそもですが、私は本日和解の場に出席するよう、王宮より命令書が届いたため、馳せ参じたわけです。にもかかわらず、なんの説明も無く裁判に加害者として出席させられるのは、納得できません」

 

 貴族席に座る人間をグルリと見回す。

 そして、改めて国王へ顔を向ける。

 

「私は、アベール子爵家の末席を汚す身なれば、裁判を受けるにしても最低限の手順があるはずではありませんでしょうか? それが、王宮へ到着するなり、このように拘束され、暴力を受け、この場でも頭部を床へ叩きつけられております。このような扱いに対して、私は断固抗議致します」

 

 俺の言葉を受けて、貴族席にいた一人の男が立ち上がる。

 

「その点は私も聞かせていただきたい」

 

 底冷えするような、クライン伯爵とは真逆の氷のような殺意。

 我が父ユジン・アベールは、フィロス国王へ問いかける。

 

「なぜ家長たる私にも連絡がないのでしょうか? 誰の判断で連絡せずに裁判を行うことが決まったのでしょうか?」

 

 父親として、子を守ると約束した身として、一人の貴族として。

 ユジン・アベールは国王にその怒りを向ける。

 

「私はこれまで、この国を愛し、誰よりも深い忠誠を捧げて参りました。その結果が、この仕打ちでは納得できません。……王は、我らを軽んじておられるのでしょうか?」

 

 その声に反応したのは、近衛騎士団長であった。

 席を立ち上がり、国王陛下の隣に立つと、腰元の剣に手をかける。

 

「貴様! 国王陛下に! 不敬であるぞ!」

 

 いきり立つ近衛騎士団長に対し。

 

「――よい。そこをどけ、シルドよ。」

 

 しゃがれた声で制止すると、隣の進行役へ話しかける。

 

「この場を用意したのは、司法部ではないのか?」

 

 それに対し、この場唯一の司法部の人間である進行役が、いくぶんか困惑した様子で返答する。

 

「近衛騎士団長より、事態は急を要し、また犯人の逃走を防ぐため、隠密に運ぶべしとの王命である、と伝言があったため、このように取り計らった次第であります」

 

 その返答に対し、慌てた様子で近衛騎士団長たるシルド・ドレーンが声を上げる。

 

「そのような伝言を出してはおらぬぞ!」

 

 焦りを浮かべ、必死に言い繕う。

 このまま話を進めれば、近衛騎士団長の進退問題にまで発展させられる。

 くだらない茶番の落とし前をつけさせようとする俺たちに対し。

 

「なるほど。どこかで連絡ミスがあったのかもしれぬの」

 

 待ったをかけたのは、フィロス国王であった。

 今回の件は、誰の責でもないと言わんばかりに続ける。

 

「矛を収めよ、アベール子爵。此度の件、決してそちらの悪いようにはせぬ。また、今回の不手際については、改めて謝罪の場を設けさせてもらう」

 

 くたびれた様子で、そのように宣う。

 なるほど、これで全員の思惑は場に出揃ったと言えるかな。

 

 近衛騎士団長は、俺を貶めるためにこの場を用意した。

 正確には、俺の命を合法的に奪うための場を用意したわけだ。

 一方で、我が父や俺自身は、この茶番をひっくり返すために動いている。

 可能な限り、近衛騎士団長に反撃しておくことで、今後こちらに手出しさせないようにしたい。

 だが、俺たちが直接なんらかの攻撃を近衛騎士団長へ仕掛けることはできない。

 そのため、この場で唯一近衛騎士団長へ命令や懲罰を与えられる――国王陛下へ物申すことにしたのだ。

 間接的になるが、如何なシルド・ドレーンといえど、国王陛下に逆らうことは許されないのだから、抑止力としての効果は十分だろうと判断した。

 

 ところが、国王の思惑は違う。

 近衛騎士団長の思惑に乗っかる形で話を進めていたが、最初から俺を有罪にする気がなかったのだろう。

 同じように、近衛騎士団長へ責を問う気もない。

 この人は、優勢になった側の矛を収めさせることで、劣勢側に恩を売るのが目的だったわけだ。

 

 国王の目的を察したのは四人。

 俺と父ユジンは、これ以上の攻め手を失った。

 一方で、シルド・ドレーン近衛騎士団長は、幾分か落ち着きを取り戻していた。

 そしてもう一人、確実に王の目的を察して……いや、最初から知っていたのかもしれない宰相は、相変わらず黙して語らず、ひっそりと席につき、静観の構えを崩さない。

 

 しかし、まいったな。

 どのような沙汰を国王が下すか分からないが、その内容によっては近衛騎士団長への抑止力が期待できない。

 今後の身の安全が保障されなくなったと言い換えてもいい。

 

「おや? おや? おや? 皆様、まさかこれで裁判を終える気じゃないでしょうねぇ?」

 

 国王の言葉や思惑を受けて、それぞれが音も無く立ち尽くす中。

 これまで黙っていたカストロ・ドレーンは、厭らしい笑みを浮かべ話し出した。

 

「おい! 貴様! 黙っていろ!」

 

 近衛騎士団長が慌てて、甥へ声をかける。

 そりゃそうだ。

 国王の御前で、当事者でもない者がいきなり話に入ってきたのだから。

 ましてやそれが血縁者ともなれば、自らに降りかかる火の粉を懸念して、止めようとするわな。

 

「いえ! いえ! いえ! 叔父上もお聞きください! 先ほどのハルト・アベールの言、自らが兵士へ語った内容は真実であると! そのような! そのような! そのような! くだらぬ妄言を信じるのですか?」

 

 そこで止まれない――止まらないのではなく――からこその、三日月公爵。

 むしろ止まれるほどの判断力があれば、王立学院での評価がもう少しマシだと思うぞ。

 

「貴様! 貴様! 貴様! 自らの話は実行可能だとほざいたな?」

 

 おいおいおい、いいのか?

 国王陛下の許可もなく、そんなペラペラ話して。

 シルド団長も、本気で止めた方がいいんじゃないですか?

 

 俺が困ったような顔を国王へ向ければ、陛下は瞑目し、深くため息をついた。

 少しの間をとってから目を開く。

 

「……近衛騎士団長よ。この者は?」

 

 しゃがれた声。先ほどまでと音声という意味では何も変わらない。

 しかし、込められた感情は大きな失望であるように、俺には感じられた。

 その質問に近衛騎士団長たるシルド・ドレーンが答えようとする前に。

 

「陛下! 陛下! 陛下! 私の名は、カストロ・ドレーン! 栄えある! 栄えある! 栄えある! ドレーン公爵家の正当後継者であり、シルド・ドレーン近衛騎士団長は、私の叔父に当たります! さらに! さらに! さらに!」

 

 まるで、劇団の演者のように、身に纏うローブをはためかせる。

 残念なのは、その顔に浮かぶ笑みがあまりに、厭らしく嫌悪感を誘うことだろう。

 

「――さらに言えば、ハルト・アベールの嘘を暴く者でもあります」


 口元を歪めた三日月公爵が、舞台に上がる。


 大仰な動きで、朗々と。

 そのあまりに堂々とした佇まいが、逆に国王の興味を惹いた。

 

「ほう……。ハルト・アベールの嘘か。是非聞かせてもらいたものだ」

 

 肘を掛け、気怠げな姿勢は崩さない。

 しゃがれた声で、続きを促すフィロス国王へ、三日月公爵たるカストロは、我が意を得たりとばかりに。

 

「もちろん! もちろん! もちろん! お任せください! この薄汚い嘘つきは、先ほどから自分の言には、実行可能性があると! そのような! そのような! そのような! 唾棄すべき妄言を吐いております!」

 

 唾を撒き散らしながら、まるで狂ったように。

 

「確かに! 確かに! 確かに! マルティス殿の風魔法の腕なら、そこの騎士が話したように、実際に攻撃魔法と消音魔法の両立も可能なのでしょう! ところで! ところで! ところで! ただの学生が、エリートである近衛騎士に急襲され、そのうえで勝つことなどあり得るのでしょうか?」


 血走った目で、国王に言い募る。

 先ほどまでの、怒りで吼えた伯爵や、焦りで叫んだ近衛騎士団長とは違う。

 

「良いか! 良いか! 良いか! 最近まで就職先の決まらなかった貴様如きが、近衛騎士に勝てるものか!」

 

 狂気を宿して叫び続ける三日月公爵は、こちらに首をグルンと、壊れた人形のように傾ける。

 ヒィッと誰かが息を呑む音が耳朶を打つ。


「それでも! それでも! それでも! 実行可能だというなら、この場で証明してみるがよい!」


 その目と唇を歪ませて。

 暗い悦びを隠しもせず、いっそ清々しいほどの悪意。

 

「ここに! ここに! ここに! 近衛騎士ならば複数いる! この中のマルティス殿より腕が立つ騎士に貴様が勝てば、貴様の言は信用に値するということになる! しかし! しかし! しかし! 貴様がその騎士に為すすべなく負けるようであれば、やはり信用ならないという結論になるわけだ!」


 なるほど。

 まぁ言ってることは筋が通ってる。

 戦闘には相性もあるから、勝った負けたがそこまではっきりとした証拠になるかと言われたら悩ましいが、ここまで言い切られると確かにと思えてくるから不思議だ。


「……このように、カストロ・ドレーンは言っておるが?」


 言外に、戦うか否かと。

 戦えば国王は近衛騎士団長への抑止力となってくれるかもしれんが、戦わないとなれば近衛騎士団長の肩を持ちそうだな。


「私は構いません。国王陛下に従います」

 

 頭の中で損得勘定を済ませのちに、国王へ返答する。

 俺の台詞に反応したのは、国王ではなく、カストロだった。


「ならば! ならば! ならば! 早速証明してもらいましょう!」

 

 休日の遊園地に遊びに来た子どもが、両親を急かすように。

 その瞳に光を爛々とさせながら、早く早くと。

 その光が、喜色によるものなのか、狂気によるものなのかの違いはあれど。


「ふむ。それで、誰とやらせるのだ?」


 国王のこの発言を待っていたのだろう。

 三日月公爵は、国王の方へ身を乗り出し。

 

「もちろん! もちろん! もちろん! 彼が勝利した際に、クライン伯爵から物言いがつくような騎士では、不十分でしょう! 誰もが、マルティス殿より強者であると、文句なしに納得できる騎士でなければ! 私に! 私に! 私に! 一人心当たりがおります!」

 

 身体を愉悦に震わせ、一拍。


「――シルド・ドレーン近衛騎士団長。我が叔父に勝てるようならば、信用に値すると言えますでしょう」


 アズワール王国最強の騎士の名を呼んだ。

明日は第十八話を投稿予定です。

ちょっと長くなってしまいましたが、楽しんで頂ければ幸いです。

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