#65「天才かもだけど変態じゃねーか」
最上ティアは北海道の留萌市にある道洞23号で手に入れた草を持って、大手繊維メーカー「SHIケミカル」の東京本社に足を運んだ。
何度か電話やメールで連絡を取り合っている担当者と挨拶を交わすと、担当者はティアの服を開発している「天才社員」に会って欲しいと言った。
案内されたのは、オフィスの一角に設けられたガラス張りの執務室だった。
ティアは机に草を詰め込んだプラスチックケースを置いた。
「最上ティアでーす! ボディースーツ作ってくれた人っスよね? アレめっちゃいい感じだよー! マジで!」
「技術開発部・ダンジョン研究室主任の帆端英一郎です……ふふふ」
帆端英一郎は高い鼻に乗っている眼鏡をくいっとあげた。
真面目そうで礼儀正しい雰囲気の痩せた男だったが、どこか底知れぬ不気味さのようなものを漂わせていた。
「あーしが持ってきた草ってこれっぽっちだけど、服に足りるんスか?」
「十分ですよ。その草を編んで服を作るわけじゃありませんからね。抽出したHeat Organizing Substance……熱制御物質を化学繊維に混ぜ込みますので」
帆端英一郎は新しいボディースーツの能力について説明をはじめた。
ダンジョン内でそれを着れば半径1メートルが目には見えない防寒フィールドに包まれるので、顔や肌が露出していても問題はないらしい。
しかし防御性能に関しては現在着用しているボディースーツの方が上であり、ダンジョンによって使い分けるのが良いそうだ。
「いいじゃん! 使い分けってのがなんか面白そう!」
帆端英一郎は引き出しから一冊のファイルを取り出し、ティアに手渡した。
「すでに複数のデザインコンセプトは出来上がっています。ぜひティアさんのご意見ご要望もお聞きしたいです」
「あっ、それであーしに会いたかったんだね! どんなの? めっちゃ楽しみなんですけど!」
ティアはうきうきした顔でファイルを開いた。
しかし、中に閉じられているプリントを見た彼女の眉間にシワが寄る。ページをめくっていくほどのそのシワは深くなっていった。
「セーラー服……スク水……ナース……メイド……ミニスカポリス……あの、これって本当にダンジョン服?」
「個人的にはセーラー服がオススメです」
「ちょっと待てい! なんでこんなドンキで売ってるエロコスプレっぽいのしかないん!? セーラー服とかAVレビューで“年齢的になんちゃって感がキツいと思われw”って草付きでプゲラされたから絶対なしだしっ!」
「なんちゃって感こそがセーラー服コスの魅力なのに……ふふふ」
「あーしは、こんな変態が作った服に命を預けてたんか……」
その後、ティアと帆端英一郎は新スーツのデザインについて話し合った。
社員がひとり、またひとりと帰宅していく。
そして日付が変わりオフィスの照明も落とされていたが、ガラス張りの執務室だけは明るいままだった。
ティアは現在のボディースーツは気に入っていたが、今回は使用頻度の少ない特殊用途のスーツなのでせっかくだから方向性をガラっと変えたいと思っていた。
そのことに関しては帆端英一郎と考えが一致していた。
ただし、彼には「コスプレ感」に謎のこだわりがあったが……。
「ビキニアーマーはどうでしょう? 踏んでもらいたくなるような強い女性のフェティシズムです」
「あーし的にはもうちょいギャルカワイイ感じが欲しいんだけどなぁ」
「では、サキュバスは? 退廃的で淫靡なエロス……肌の色とも実に調和します」
「そりゃ似合うよ? 似合う自信あるよ? でもビッチ系AV女優がサキュバスってヒネリなさすぎね? いや……それの何が悪いんだ? ああ! なんかもう、わかんなくなってきてるわ!」
帆端英一郎が出す案を一個ずつ話し合っていく。
時には強い言葉での応酬もあった。
そして、あるデザインにふたりの目が留まった。
それは帆端英一郎が自らボツにして机の奥にしまい込んでいたものだった。
「あ……これ、好きかも……かわいいし」
「たしかに……コスプレの王道であり、雪の中なら迷彩効果も期待できますね」
オフィスの窓から朝日が差し込み、熱い握手をする目の下にクマを作ったふたりを照らしていた。




