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#64「いま草むしり中だから待ってて!」

市販のカメのエサを洞窟の地面に置いたティアは、岩陰に隠れて「ハシリクガメ」がやってくるのをじっと待った。



“世界最強シーカーがカメがくるのをただ待つだけw”

“なんかショボくね? って言われるの気にしてたのに……w”

“あまりにも地味すぎる……”

“こうなるから期待すんなって宣言しておいたんだなw”

“そもそも市販のカメのエサなんてモンスターが食うの?”

“あれ? きたっぽい?”



ハシリクガメは周囲を警戒しながらエサまでやってきて、ムシャムシャと食べはじめた。

ティアの近くまできた灰色のハシリクガメは足がかなり短かった。

重そうな甲羅を背負ってあの速度で走れる生物は、地球上には絶対に存在しない。

無害ではあったが、間違いなくダンジョンモンスターだった。



――――ひっくり返せたら動けないからむしり放題? いや、ひっくり返したら取れないじゃん。つうか、そもそも傷つけずにひっくり返す方法が思いつかんし。



ティアはなんとか頑張って甲羅に飛び乗って、背中に生えている草をむしるしかないと決断した……そしてタイミングを計る。



――――いまっ!!



ティアはハシリクガメの正面を目指して全力疾走した。

ハシリクガメは大急ぎで旋回し、逃げようとする。


そしてハシリクガメが走り出す寸前に、ティアは甲羅に飛び乗った。


ティアは甲羅に生えている草をむしる。

しかし、ハシリクガメの速度はあまりにも速く、ほとんど掴まるところのない甲羅からティアは振り落とされてしまった。



「いててててっ、なんとか手に入ったけどさ……右手と左手に一束ずつ。これじゃ全然足りないよー!」



ティアはまたカメのエサを置いて隠れた。

ハシリクガメはまたやってきて、また甲羅に乗って草をむしったティアをまた振り落とす。


そんな光景が、何度も何度も繰り返された。



“同接1000万超えた……”

“世界中がこの草むしりを観させられてるのかw”

“これは新しいスポーツ?”

“最上ティア草むしり検定5級……”

“無限ループって怖いよね”



そしてやっと必要量の半分くらいが手に入った。



「もうヤダー! 浦島太郎でもこんなに何度もカメに乗ってないわ! ってか、もうカメのエサないぞー! あいつ食いすぎやろー!」



ティアはリュックの中をガサゴソと手で探る。

取り出したものを彼女は寂しそうな目でじっと見つめた。



「マルセイバターサンド……これ、終わったら帰り道で食べようって楽しみにしてたやつ……」



ティアは断腸の思いでマルセイバターサンドの赤と銀の包装を破り、ほんの少しかじってから地面に置いて岩陰に隠れた。



“ちょっと食べたwww”

“すげえ名残惜しい顔してるw”

“まあ、美味しいけどさ……”

“カメが食うかな?”

“きたみたいだね……”

“エサはなんでもいいのかよwww”



ティアがまたハシリクガメに向かおうとしたその時、別のモンスターが出現する。



「え? うっわ、でっか!」



洞窟の奥から現れたのは、全長十メートルを超える巨大なトカゲだった。


ワニを思わせる太い胴体は暗緑色の鱗で覆われ、背中には鋭いトゲが何列にも並んでいる。四本の足は短いが異様に太く、頭頂部からは王冠のように何本もの角が突き出していた。



“バジリスク……あのサイズはグレーター・バジリスク?”

“とんでもないのが出てきやがった”

“草とかむしってる場合じゃないな”

“え……ティアさん?”

“ちょ!!!???”



ティアはグレーター・バジリスクには見向きもせず、突然現れたバジリスクを恐れて手足を甲羅に引っ込めた臆病なハシリクガメに駆けた。



「こんな絶好のタイミング逃せるかっつーの!!!!」



ティアは一心不乱に草をむしってリュックに詰め込む。

そんなティアのそばまでやってきたグレーター・バジリスクは、大きな口を開いて襲いかかってきた。


ちょうど必要な量の草をむしり終えたティアは、ハシリクガメの甲羅から飛び降り、グレーター・バジリスクの正面に立った。


ティアは左手の魔剣ビヨンセを七メートルまで伸ばす。

そして、巨大トカゲの両前脚を狙って、横薙ぎに振り抜いた。



ガギィィィン!


頑丈な鱗と骨に阻まれて、さすがのビヨンセでも両前脚を切断することはできなかった。

しかし、刃は鱗を断ち割り、その下の筋肉を深々と斬り裂いていた。



グオオオオオッ!!


体重を支えきれなくなり、グレーター・バジリスクの巨体が前のめりに崩れる。



だが、ティアはすでに動いていた。


落下してくる頭部へ飛び乗ると、右手の聖剣ブリトニーを逆手に構える。



ズブリッ!


そして、その切っ先を脳天に突き刺した。


グレーター・バジリスクは倒され、ハシリクガメはマルセイバターサンドを咥えてどこかへ逃げていった。



「よっしゃー! トカゲのおかげでゲットできたー!」



“すげえ……”

“Gバジリスクってこんな簡単に倒せる敵じゃないよ”

“草むしりのついでに倒しちゃったよ”

“というか結果的に草むしりに利用してたな”

“ひさしぶりに二刀流が見れてしあわせ”

“強いのにユルいのが相変わらずの最上ティアだった”

“ここまでモンスターと圧倒的な差があるのか……”

“今回の配信の時間配分、戦闘1:草むしり99”

“これでティアっちが新しい服を手に入れられるー”

“防寒用かあ……どんなだろ? すげえ楽しみ”

“やっぱり近未来系なのかな? 意外とファンタジー系?”



翌日。


新しいダンジョン用スーツの素材を手に入れたティアは、それを持ってスーツを提供している繊維メーカーを訪問した。



しかし、そこで……とんでもない変態男と出会うことになる。

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