#63「速いカメってめっちゃキショいわ」
ティアが新しいボディースーツを作って潜ろうとしている沖縄県洞3号は、「遭難率が極めて高いダンジョン」として知られていた。
沖縄県洞3号は年間平均気温が24度の暖かい石垣島にあるが、その中は常にマイナス50度を下回っているという究極の極寒系ダンジョンだ。
防寒着を着込む必要があるが、動きが制限されてしまいいつもと同じようにはモンスターと戦えない。
モンスターよりも自然環境が最大の敵であり、探索もあまり進んでいなかった。
“またとんでもないダンジョンに挑戦するな”
“沖縄県洞3号か……寒いどころの話じゃないやつだ”
“ほぼ解明されてないから貴重な配信になる”
“極寒地帯にしか生息しないモンスターもいそう”
“中から転移ポータルで移動した先の第二エリアがヤバいらしい”
“夏だと中と外の気温差エグくて体調崩すな絶対”
“そういう意味では冬の今は沖縄県洞3号のベストシーズンか”
ティアは幅の広い洞窟のような場所をまっすぐ歩きながら話している。
「そしてー、あーしがいま潜ってんのは北海道の留萌ってとこにある道洞23号っていうダンジョンだよー! メーカーの人にここで素材が手に入るってのと、めっちゃ美味しい魚料理出すお店教えてもらったー! 冬の北海道マジでヤバいの! 回転寿司とか比べ物にならないくらいうまいの!」
“いまはお金あるだろうに相変わらずの回転寿司w”
“北海道は回転寿司すらうまいけどな”
“留萌は札幌の北にある日本海沿いの街ですね”
“そっから稚内までのオロロンラインがバイク気持ち良すぎ”
“北海道のあとに沖縄に行くのかw”
“いいなー、ティアっちと一緒にお魚食べたいー”
ティアは視聴者に今回どんなものを採取するのかを話す。
かなりの上級シーカーでなければ辿り着けない道洞23号の深度15付近に、ハシリクガメというモンスターが出る。
ハシリクガメはその名の通り「走るカメ」で非常にスピードが速い。
ハシリクガメの甲羅にしか生えない希少な草が耐寒性能を持った新ボディースーツには必要で、2リットルのペットボトルにぎゅうぎゅうに詰め込めるほどの量が欲しかった。
モンスターは死ぬと蒸発して消滅してしまうが、この草はモンスターではないので消滅しない。
ただし、メーカーからは「数が少ないハシリクガメを殺してしまうと今後の採取が難しくなるので、草だけをむしり取ってほしい」と頼まれていた。
「速いカメっていってもさぁ、所詮はもしもしカメよ、カメさんよー、のカメじゃん? 簡単にむしり取れると思うんよね……よっと!」
ティアは視聴者に話しながらモンスターを一撃で倒していく。
深度13を超えたあたりではダイアウルフの群れが襲ってきたり、空からガルーダが襲ってきたりしたが、ティアにとっては敵ではなかった。
“やっぱ……すげえ……”
“四ヶ月のブランク全く感じさせないな”
“動きの鋭さがアップしてるくらいかも”
“配信はしてないけど潜ってたとか?”
“休み中にずっとトレーニングしてた可能性あるな”
“意外と向上心の塊なのかも”
“スタイルも維持してるし、太ったりしないんだろうな”
“プロ意識がすごいんだと思う”
そしてついに深度15に辿り着いて探索をしていたティアが突然声をあげる。
「あっ、いたいた! って、えっ!? ええええ!?」
ティアの視線の先、洞窟の奥には四本の足を猛烈な勢いで動かしながら走り回る、風呂桶ほどの大きさのカメがいた。
その走るスピードは、競走馬にも匹敵するほどだった。
「マジで速いわ! ってか速いカメってめっちゃキショいわ!」
“うん、なんか気持ち悪いw”
“背中に草っぽいの生えてたな、あれが素材か”
“ハシリクガメ調べたら臆病な性格で逃げるっぽい”
“あの速さで逃げるんならそりゃ背中の草は希少だわ”
カメの動きを目で追い、その特徴を読み取りながらティアはあることを思い出してそれを視聴者に話した。
「はやいカメっていえば男優のタカケンさんが言ってたんだけどさー、AV男優になるにはチローよりソーローの方が向いてるんだってー!」
“いきなり何の話だよwww”
“今その話する!?w”
“はやいカメっていえば……じゃねえよwww”
“モンスターの速さからそこに飛ぶなw”
“急な話題転換でコーヒー吹いた!”
“速いカメから変な連想しないでください!w”
“そうなの? すごく意外だ……”
「自分の太ももをつねったり叩いたりして発射キャンセルする技術は身につけられるけど、早める技術は難しいんだってさー!」
“なるほど……って感心してる場合じゃねえ!”
“世界中が待ち望んでた復帰配信でソーローの話する女ww”
“俺はもう鍛えられてるけど初めて来た人ドン引きだぞ笑”
“ああ、間違いなく僕らのティアさんが帰ってきたんだ……”
“男優ってやっぱスゲーんだな……”
“あれ? リュックをおろしてる?”
ティアは背負っていた軽量金属製のリュックをおろし、中から2キロの米袋ほどの大きさの袋を取り出した。
「とりま、ネット通販で買ったカメのエサでおびき寄せてみるねー!」




