#61「アゲぽちゃギャルさんぽじゃん!」
洗面台近くの床に置いてあるデジタル式の体重計は、電池が切れていたのでしばらく乗っていなかった。
そもそもティアは体重変動があまりないタイプなので、体重計はそこまで使うことがなかったのだ。
電池を交換したティアは、さっそく体重計に乗ってみた。
「おっぱいの分、そりゃちょっとは増えたとは思うよー。でもさぁ…………は? ちょっと待って! なにこれ!? ありえない数字が出てるんですけど! 体重計バグってる!?」
ティアは洗面台の鏡に写った自分を見る。
「あれ? あーしの体型って前はどんな感じだったっけ? もうちょっとクビレとかあったような気が……」
彼女はずっと「前よりちょっとお肉ついたかなー」と思っていた。
ただし、その「前」とは、せいぜい一週間ほど前のことである。
そんなことを三ヶ月も繰り返した結果が、この有様だった。
ティアはリビングにいる姫澤はるかのところへ血相を変えて向かった。
「はるかちゃん! もしかして、あーし……わがままボディさん?」
「以前と比べたらですが……それなりに……」
姫澤はるかはスマホでティアの写真を撮り、それと五ヶ月前くらいに撮ったスリムなときの写真を交互に表示させた。
「全然違うじゃん! 痩せ薬の広告のビフォーアフター写真みたいになってる! アフターが太ってるから逆だけど! なんでこんなことに……」
「原因は明白じゃないですか! 食っちゃ寝してゲーム三昧ならそうなりますよ。しかも毎日ピザとコーラばっかりで!」
「服を着て外に出ることもなかったからサイズに気が付か……あっ!」
ティアはダンジョン用品をしまっているクローゼットから自分専用のボディースーツを取り出した。
国洞1号で着ていたものはさすがに激闘でボロボロになってしまい、これはスーツを提供してくれた繊維メーカーが新しく送ってくれたものだった。
ティアはボディースーツを着てみる。
かなり伸縮性のある素材で作られているボディースーツではあったが、それでも現在のティアが着るにはかなりきつく、途中で断念した。
「これじゃ、もう『アゲぽよギャルさんぽ』じゃなくて『アゲぽちゃギャルさんぽ』じゃん! 毎晩オネイニーでカロリー消費してたのに!」
胸元のファスナーが閉まらずおっぱいを放り出したまま、ティアは「どすん!」とラグマットに尻もちをついた。
「オネイニーを運動にカウントしないでください! ティアさん、頑張ってダイエットしましょう! 食事制限が一番大事ですけど、良質なタンパク質を摂って有酸素運動もした方がいいと思います。プールとかジョギングなんかはどうですか?」
「プール……ジョギング……続くかな?」
「あっ! ダンジョンに行くのはどうでしょう? やり方次第ではかなりの運動になるんじゃないですかね」
「おおー! それいいかも! それなら続けられるかも!」
ティアは4週間後に迫ったAV撮影の日まで毎日ダンジョンに潜ってダイエットをすることになった。
こんな姿を人様に見せるわけにはいかない。
そんなプロ意識が高いのか低いのかよく分からないティアは、人目につかない過疎ダンジョンを選んで通い詰めた。
聖剣ブリトニーも魔剣ビヨンセも持ってきていない。
バズる前に愛用していた目出し帽を被り、サウナスーツの上下を着込んで、重めのロングソードを振り回しながら雑魚モンスターを狩っていく。
「よっ! はっ! とりゃ! どすこーい!」
ダンジョンからはしばらく離れていた理由は、あまりにも国洞1号最下層がきつかったというのが大きい。
けれど、動きを読んで攻撃を避け、弱点を読んで剣を振っているうちに、彼女はダンジョンの魅力を思い出していった。
――――ひとりでも楽しいけど……早く配信もしたくなってきちゃった。
そして一ヶ月間の努力の末に体型をほぼ戻し、胸のサイズも元に戻ったティアは、無事にAV撮影を終えた。
帰り支度を済ませて撮影スタジオの控室から出てきたティアに監督が声をかける。
「おつかれさま。ティアちゃん有名になりすぎちゃったからさ、うちみたいな弱小メーカーのオファー受けてくれるなんて思わなかったよ」
「デビュー作でお世話になったメーカーさんだし、監督もスタッフさんも知ってる人ばっかだから久しぶりの現場はここに来たかったのー!」
「嬉しいねえ、ところでダンジョンの方はまだしばらくおやすみ? 全世界の人が待ってるみたいだけど」
「あ、その話?」
ティアはスマホを掲げ、自分のSNSの画面を見せる。
「じゃーん! ついさっき配信の告知しちゃいましたー!」
その日の夜。
最上ティアのダンジョン配信再開告知に、世界中は大騒ぎになっていた。




