#56 深度53 コメント
こういうの、「ゾーン」っていうんだっけ?
試合中のスポーツ選手とか、事故にあった瞬間の人間がなるやつ。
世界がスローモーションになったりする超集中状態ってやつ。
だからクッソ速く流れてるコメントも読めるんだろうけどさ。
なんで、あーし、そのゾーンをコメント読みに使ってんの?
自分でもバカすぎね? って呆れるわ。
………………みんな、何書いてんだろ。
“ティアっち!!!”
“やばいやばいやばい”
“逃げて!!!!”
“ティアさん起きて!!”
“うしろ!! いやもう目の前だ!!”
“誰か助けてくれ”
“やめろおおおおおおおお”
“ティアちゃん!!!”
“だめだだめだだめだ”
“そんなの食らったら死ぬって!!”
“避けてくれええええ”
“頼むから逃げて”
“ティアっち、お願い”
“やだやだやだ”
“嘘だろ……?”
“頼む……!”
“ティアさん、立って!”
“お願いだから無事でいて”
“初めて配信見たけど、こんなのって……”
“こんな終わり方、嫌だ”
“やめてくれよ……”
“ティアっちいいいいいい!!”
“カマチョですティアさんがんばってー”
“誰か嘘だと言ってくれ”
“今までずっと勝ってきたじゃん!”
“ティアちゃん! こんなの社長は許さないわよ!”
“お願い、死なないで”
“もう何もできない……”
“何かできないのかよ!!”
“誰か助けてくれよおおお”
“いやだ、いやだ、いやだ”
“こんなの見たくない”
“頼むから生きてくれ”
“ティアさん、お願いです”
“ティアさん買い物の約束守ってください!”
“こんなところで終わるなよ……”
“あんたなら勝てるって言いたいけど、もう……”
“14時間も戦えたんだ、諦めないで”
“もう剣もない”
“頑張れなんて言いたくない……!”
“お願いだから生きて”
“エーテルシュタイン王家の全員がティアさんに祈りを捧げています”
“頼む、頼む、頼む”
“神様お願い”
“俺たち何もできないのかよ”
“くそっ……”
“こんなに近くで見てるのに”
“何もできないのが悔しい”
“お願い、助かって”
“生きて帰ってきて”
“また配信してくれよ”
“次の配信待ってるから!”
“次も絶対見るから!”
“無事に帰ってきてくれればそれでいい”
“ティアっちの配信、毎回楽しみにしてたんだよ”
“仕事終わりに見るのが好きだった”
“今日もいつもみたいに笑ってくれよ……”
“ティアさん、あなたのことが大好きです”
“いつも元気もらってるんだよ!!”
“頼むから帰ってきて”
“ティアっち、お願い、お願い”
“まだ見てたいんだ”
“まだ配信続けてほしいんだよ”
“どうしたらいいんだよ……”
“誰か……誰か……”
“ティアさん!!!”
“お願いだから……”
“死ぬな”
“死ぬな死ぬな死ぬな”
“頼む、生きろ”
“絶対帰ってこい”
“待ってるから”
“みんな待ってるから”
“お願い……!”
“ティアっち……”
“ティアちゃん……”
“ティアさん……”
“生きてくれ”
“生きて帰ってきてほしい”
“頼むから、帰ってきてくれ”
そっか……。
みんな、あーしのこと……。
ありがとね。
でも、ごめん。
だって、もうどうしようもないじゃん! 武器もないんだよ?
“頼むから、帰ってきてくれ”
“きっと大丈夫、なんとかなる。あなたはイジメられても何もできずに泣いていた山寺佐紀じゃない”
……んん?
ちょっと待って! なにそのコメント!
なんで、あーしのこと知ってんの?
誰だよ!?
“私のコメントだけは、あなたが自分で見せている幻。私は、あなたが『昔の自分』と呼んでいるもの。今のあなたとは違う生き方しかできなかった、山寺佐紀よ”
なにそれ? なんか怖くね? 二重人格みたいじゃね?
“山寺佐紀はまたイジメられるのを恐れて目立たずに生きた。けれど、最上ティアになって別人のように生きられるようになったでしょ?”
まあ、それはそうだけど……。
自分でも違う人間に変わったとは思ってるけどさ。
“あなたは私には到底できないようなことができているの。困難な状況で諦めて何もしないんじゃなくて、自信を持って動いて、何度もあった危機を乗り越えてる”
なんか自分で自分を褒めてるみたいで、どうかと思うけどさ。
じゃあ、どうしたらいいか教えろよー! 助かる方法に気がついたから出てきたんしょ?
“そんなの気がつくはずないわよ。私は最上ティアじゃないんだから”
ふっざけんなよ! なんなんだよ! もう帰れよ山寺佐紀!
“コメントを読んで、またみんなと会いたくなったでしょ? またくだらないやり取りで笑い合いたくなったでしょ? だったら諦めないで。あなたは、欲しいもののために自分から動ける人になったんだから。昔の私に、もう一度その姿を見せてよ”
…………。
わーったよ。
なんとか、してみるよ。
あーし……あいつらと、まだまだバカやってたいし!!




