#55 深度53 第243波
古代劇場のようなすり鉢状の場所の、その中央にいるティアに向かってすべての方向からモンスターが突進してくる。
飽き飽きするほど繰り返された光景だ。
この場所での243回目の戦いがはじまった。
「あーもう! っざけんなよーっ!!!」
一番最初にティアに辿りついたケルベロスの3つの首を、左手で握る魔剣ビヨンセの一振りで飛ばした。
「いつまで続けるんだっつーの!!!」
次は、右手の聖剣ブリトニーでコカトリスの喉元、コボルトの眉間、リザードマンの首筋を次々に刺していく。
「マジしつこすぎだってええええ!!!」
そしてビヨンセを今度は頭上に振ってロック鳥を斬った。
それと同時にブリトニーでワーウルフの心臓を貫く。
その後も適切な位置取りをしながら二刀流でモンスターを倒し続けた……が。
「そんなっ! はずしたっ!? もう一回!」
一発で仕留められなかったトロールを、再度ブリトニーで突く。
ドーーーーン。
トロールは地面に体を打ちつけた。
「まっずい……命中精度がどんどん落ちてるし……」
ティアは、自分の集中力が限界に近づいていることに気づいていた。
ひやっとする場面も増えている。
第243波を撃退したティアは、ドローンのカメラに向かって話した。
「あのさ、正直マジやばいわ。シャレんならないくらいヤバいわ。塞がれちゃった通路をどうにかして逃げたほうがいいかも」
そう言ってからティアはコメント欄を見た。
彼女はなにか良い方法が書き込まれるのを期待した。
“ushiro”
“ティアさん!”
“うしろ”
“背中側!”
“まだいる”
“倒せてない!!”
“起き上がってきてる!”
“気がついて!!”
“逃げろー”
「…………えっ? うしろ?」
ティアは振り返る。
目の前には――――さっき心臓を剣で貫いたはずのトロールが立っていた。
ティアはとっさに右手のブリトニーで突き刺そうとする。
けれどそれよりもトロールの張り手のほうが早く、ティアは大きく吹っ飛ばされた。
背中から地面に叩きつけられた。
リュックの背面には衝撃吸収素材が使われていたため、背中へのダメージは多少軽減された。
しかし飛ばされた際に聖剣ブリトニーと魔剣ビヨンセを手から離してしまっていた。
二本の剣は彼女から少し離れた場所に転がっている。
――――どうして……あのトロールはさっき……。
最後に残ったこのトロールを仕留めるのに、続けて失敗している。
弱点を一撃で突くのは、針の穴を通すような正確さが要求される。それができなくなっているのか?
それともこのトロールが特別な個体で、自分の読みが甘くなってるのか?
どちらにしろ、終わりの見えない連戦で集中力を失っているのが原因なのは間違いなかった。
ティアは起きあがろうと仰向けの状態から上半身をほんの少しだけ持ち上げた。
そのティアの下半身をまたぐように、大きく太い足が置かれる。
ティアが見上げると、そこにはトロールの顔があった。
笑みを浮かべたトロールは両手を組み、頭上高く振り上げた。
何をするつもりなのか、彼女はすぐにわかった。
膝を曲げ、全体重を乗せて腕を振り下ろすのだろう。
狙いは自分の頭部だ。
ティアは両手のひらをトロールに向け、顔を守るように構えた。
そんなものは防御にもならないと分かっていても。
――――もう、駄目っぽいね。
コメントが流れていく。
読めないほどの速度で流れるコメント。
この絶体絶命の状況でティアの目は、そのコメントを読みはじめていた。




