#54 深度53 終わらない最後の激闘
異形のモンスターたちが次々と渦を抜けてくる。
ついさっきまでティアを讃えていたコメント欄は、困惑や動揺の言葉で溢れた。
“?”
“は?”
“なにが起きてる?”
“埋め尽くされてるポータルから”
“マジかよ”
“モンスターが……”
“200? 300はいる?”
“いくらなんでも多すぎる”
“なんで? なんで?”
獣系、スライム系、虫系、無機物系……多種多様なモンスターが、これまでに経験したことがない数で現れ、すべてがティアに狙いを定めている。
「……えっと、つまりさ、しばらくモンスター出てこなかった帳尻をここで合わせます的な雑な話? つうか、また終わってもないのに喜んじゃったんですけど! ぬか喜びがこのダンジョンのテーマなん?」
ティアは右手に聖剣ブリトニー、左手に伸ばした魔剣ビヨンセを握り、腰を落として構えた。
唸り声や、足で地面を擦る音が消えた。
――――――――くる。
ドドドドドドドドドドドッ!
四方八方から押し寄せる奔流のように、たった一人の敵を討ち取ろうとモンスターたちが殺到した。
ティアは360度を見回して、迫ってくるモンスターを可能な限り観察した。
モンスターの動きを予測し、その力や硬さ、弱点を読む。
「なんとなくだけどっ! マジでなんとなくだけどっ! 読めたっ!」
魔剣ビヨンセの7メートルの剣身で、一気に薙ぎ払う。
ビヨンセでは斬れないモンスターは、聖剣ブリトニーで突く。
獣人の牙や爪、オーガの剛拳、サラマンダーが吐く炎、骸骨騎士の剣筋、殺人蜂の毒針を――――位置を変え、身をかわし、屈み、時には前転をして避ける。
ティアは攻撃をしながら避け、避けながら攻撃した。
倒しても、すぐにその後ろから次のモンスターの攻撃がくる。
しかも常に全方向に気を配らないといけない。
ティアは一瞬も休むことなく戦い続け、モンスターたちは徐々にその数を減らしていった。
「そこっ!」
最後に残ったキマイラに、ティアはブリトニーを突き刺した。
キマイラは地面に倒れ、他のモンスターたちと同様に蒸発するように消滅した。
“……すごかった”
“終わった……のか?”
“まさに無双だった”
“たったひとりであれだけのモンスターを……”
“数万の軍勢と戦ったスパルタ兵三百人が、今なら多く感じる”
“ティアっちやっぱ最強”
“武道館隣のポータルの色は?”
“ライブ配信だと変化ないな、まだ未達成扱いだ”
“ってことは……まさか……”
ティアは視線を上にあげた。
ここへ入ってきた通路の穴が、いつの間にか塞がれているのを見て苦笑いした。
「国洞1号の最下層はこの程度じゃまだ到達者って認めてくれないのかもねー。逃してもくれないみたいだけどー」
転移ポータルから、モンスターの体の一部がまた出てきた。
モンスターが全身を現すと、さっき戦ったのと同じ種類もいれば、初めて見る種類もいることがわかった。
「とにかく、在庫切れになるまで終わらないってことみたいだよ」
ティアはブリトニーとビヨンセを構えて、吠えた。
「第2波……かかってこーい!!!!!」
第2波……第3波……第4波……。
ティアは戦い続けた。
全滅させて、また新しく補充されて、また全滅させる。
それを繰り返した。
ヘルハウンドの首をはね落とした。
石でできているガーゴイルを粉々に砕いた。
巨大ムカデを縦に長く斬った。
モンスターが変われば、戦い方も変わる。
同じ展開などなかった。
ティアは、これまでの経験によって自分の「読み」が進化していることを実感していた。
それを頼りに、戦い続けた。
第10波……第20波……第30波……。
けれど戦っても、戦っても、終わらない。
どれだけの時間が経ったのか? 一体何匹のモンスターを倒したのか?
もはやティアはそんなものはどうでもよかった。
ただ、いい加減にもう終わってほしかった。
“いつ終わるんだ……”
“もう出てくるなよ!”
“同接2000万超えてる”
“世界中でニュースになってるな”
“とてつもない戦いだから当然”
“このタイプの最下層はなくはないらしい”
“そのネット記事読んだけど、ここは敵の量が異常らしいね”
“まさか最後の相手がボス格じゃなくて雑魚の大群だなんて……”
――――そして、第一波の襲来から14時間が経過した。
ティアの足元にはポーションの瓶が大量に転がっている。
肉体は疲労していたが、まだなんとか体は動く。
問題は集中力の低下だった。
終わりが見えない戦いで集中し続けるのはあまりにも困難だ。
また転移ポータルからモンスターが出てくる。
「はぁ……はぁ……もう、あーし……きびしぃかも」
ティアの精神はとっくに限界を超えていた。
第243波目が、間もなくはじまる。




