#53 深度53 最下層到達
スケルトンキングを倒した深度50は、国洞1号の最下層ではなかった。
「あんな丸い影が出てきたら魔法陣だ! 完全制覇キタコレ! って誰でも思うじゃん? あーし思いっきりガッツポーズしちゃったよ!」
出現した斜め下へと続く丸い穴に入ったティアは、足を滑らせないよう注意しながら愚痴をこぼしていた。
“気持ちはわかる”
“ぬか喜び……w”
“真中監督並みの素晴らしいガッツポーズでした”
“すげえヤサグレた顔でポーション飲んでて草”
“スケルトンキングはラスボスだとは思うけどねー”
「まあ、スケルトンキングの心核は手に入ったから無駄じゃなかったけどさぁ。ところで最下層って特別なアイテムとかあったりするん? あーしのテンションがブチアゲするみたいな」
“あったり……なかったり……”
“大きい魔鉱石を見つけたってのは聞いたことある”
“それが達成報酬なのか、たまたまなのかもわからんけどな”
“ダンジョン製の武器が置かれてた例もあるぞ”
“あれ、コレクション的な価値のほうが高いんだよなー”
“実際に行ったら、とんでもないものがあるかもしれないじゃん”
“まあ、最高峰に登るのと同じロマンだよ”
つまりは、よく分からないようだ。
宇宙や深海と比べてもずっと研究の歴史が浅いダンジョンは、まだまだ未知の世界だった。
下り坂が終わると深度は51になった。
雰囲気はこれまでとさほど変わらない鍾乳洞だった。
「ヤバいの出てくんのかな? 強いのは別にいいの。スケルトンキングみたいなイミフなことしてくる奴がムカつくんだわ。あー、あいつの心核、TENGAとでも合成してやろうかなー」
“何を作ろうとしておられるのですか?w”
“ティアさんの合成もイミフですw”
“深度51か……ずいぶん深く潜ったもんだなぁ”
“スキルP気になったりドローン燃やしたりして帰ってた人が……”
“ここまで深いダンジョンも限られるよな”
“深度40ないのがほとんどだしね”
ティアは聖剣ブリトニーを手に警戒しながら進んだ。
……しかしモンスターは現れなかった。
岩壁に取りつき、突起に手足をかけながら慎重に下っていく。
どこからか冷たい風が吹き上げていた。
岩にへばりついているときに飛行タイプのモンスターが現れたら大変だ。そんなことを考えながらも、ティアは何事もなく岩壁を下り切った。
深度は52。
ここにもモンスターの気配はない。
人間を見ればすぐに襲ってくる凶暴なモンスターも、害はなくただ逃げ回るだけの小さなモンスターもいない。
生物の気配がまったくなく、ティアのコンバットブーツの足音だけが響いている。
「ラクっちゃラクだけどさー、これはこれでちょっと不気味かも」
二車線道路くらいの幅の、分岐もない曲がりくねった一本道を進む。
その道はどんどん狭くなっていった。
ついには大人ひとりが通れるほどの狭いトンネルになり、そして抜けた。
「…………お、おおっ!?」
通路から出たティアの眼下には、円形の空間が広がっていた。
古代遺跡の円形劇場や闘技場を思わせる、すり鉢状の地形だ。
彼女が出てきた通路は、その斜面の高い位置に口を開けていた。
「あれって……あった……あったよ! 最下層の目印がっ!」
すり鉢の底。
平らになっているその場所に、幾何学的な線と円で構成された魔法陣が見えた。
ティアは滑り降りるように底へ小走りで向かう。
近くで見た黒い線の魔法陣には、ルーン文字とも楔形文字とも違う、文字なのかただの飾りなのかも分からない奇妙な記号が書かれていた。
ティアは魔法陣の中心まで進み、腕時計を見た。
「ここの深度は……53! 最上ティア、国洞1号最下層に到達しましたー!」
もはや読めないほどの勢いで、ティアを祝福するコメントが流れていく。
「深度50からずっとモンスターも出なかったのは謎だけど、これでやっと終わったんだねー! てかさ、達成すると1週間ポータルの色が変わるんでしょ? どんな色になってるー?」
ダンジョンポータルの外……北の丸公園第三駐車場には、色が変わるその瞬間を撮影しようと待ち構えている者たちがいるとコメントが教えてくれた。
しかしそこからの報告によると、ポータルは元の紫色のままで特に変化は見られないらしい。
「なにそれ? もしかして時間差で色が変わるとかなんじゃね? それともまだ何かやることがあんの?」
その時、突然――――ティアの目の前に異様すぎる光景が広がった。
ワームホールのように渦を巻く転移ポータルが、いきなり出現したのだ。
しかもそれはひとつではない。
眉をひそめ、口を半開きにしているティアは、首を左右に回してこの空間を見渡す。
百を大きく超える転移ポータルが、すり鉢の斜面を埋め尽くしていた。
そしてすべての渦からほぼ同時に、鋭い牙の生えた口や、長く太い爪の生えた手が飛び出した。
「モンスターが……転移してきてる?」




