#52 深度50 みんなの目
「えっとね、スケルトンキングの体は無視して、浮いてる頭蓋骨だけを聖剣ブリトニーで突きたいの! うわっと! あぶねぇってっ!」
ティアはおよそ1分半おきに放たれる杖の電撃を避けながら視聴者に説明する。
頭蓋骨の位置を、ティアはつかめずにいた。
かといって適当に突きまくっていると、電撃を避ける余裕がなくなってしまう。
そこでティアは、頭蓋骨の位置をコメントで教えてほしいと視聴者に頼んだ。
「でも、たぶん大混乱するじゃん? だからさ、前にQ&Aコーナーやった時に使ったコメントダイジェスト機能でまとめてもらうよー! ひとりでも多くコメントで教えてくれた方が精度が上がるから、マジ頼むぞー!」
ティアに協力を求められたコメント欄が一気に沸く。
“了解です!”
“りょ”
“わかりました! ティアさんがんばって!”
“ティアっちに協力できるのうれしい”
“まさか最上ティアの目になるなんて思ってもなかった”
“AVの質問とかに使ってたダイジェスト機能で……”
“微妙に違う指示が飛び交うと混乱するからすげーいい判断”
“頭と体が分離してるデュラハンっぽい骸骨なんだな……”
“頭蓋骨はいまは止まってるな、チャンスだ”
ティアは配信用ドローンに背を向け、電撃を警戒しながらコメントの集計を待った。
そして、まとめられたコメントが表示される。
『左斜め前を向いてください。その真正面に頭蓋骨がいます』
ティアは30度ほど左に体を向け、聖剣ブリトニーを構えて駆け出した。
「突撃ぃぃぃぃ!! 貫けええええ!! うりゃぁぁぁ!!」
暗闇の中を少し走るとブリトニーの切っ先が何かに当たり、そのまま剣身が深くまで差し込まれていった……が。
「あれ? これ壁じゃね!? 走る方向ズレてた?」
ティアは手で確かめる。
冷たく湿った岩肌の感触からして、鍾乳洞の壁としか思えなかった。
“外した!”
“ブリトニーで刺したのは壁だよ壁!”
“頭蓋骨、上に逃げたぞ!”
“マジかよー! 方向は完璧だったのに”
“スケルトンキング側は暗闇でも見えてるのか……?”
“いや、ティアっちの声に反応したんじゃね?”
“確かにめっちゃ叫びながら突撃してたwww”
“声が大きすぎだw”
“でも上に行かれたのはマズいな”
“上昇しちゃったから、突くのがきびしくなった”
「だあああああ! うぜー! いつまで頭蓋骨は浮かんでんだよ! 体と合体してくれたらよじ登って……」
ティアはドローンの小さな青い光に顔を向けた。
「みんな! 頭蓋骨じゃなくて、骸骨の体のほうってどうだった? あの体って動いてる? 止まってる?」
ティアが叫ぶと、コメント欄にも次々と情報が流れた。
“動いてない”
“体ならずっと同じ場所で直立してる!”
“杖を立てて同じポーズのまま”
“もしかして頭がないから動けない?”
“動いてるのは頭蓋骨だけだよ!”
ティアは壁を背にして、前方へ歩き出した。
ドローンは彼女の後方に回り、配信映像に骸骨の体を捉えた。
コメントは骸骨の体の方向をティアに伝える。
「ありがとっ! 方向はなんとなくわかったよー!」
杖の先端が一瞬だけ青白く光った。
その直後、電撃がティアの足元をかすめる。
ティアは走った。
「一瞬光った杖の先があそこだから……きっと、このへんに、あるっ!」
骸骨の脚に飛びつくと、骨の凹凸を足場にして一気によじ登り始めた。
“えっ、登るの!? そこを!?”
“ちょっと待って、何してんのwww”
“弱点は頭蓋骨の方なんでしょ?”
“ティアっち、まさか……”
“そっか! 上昇した頭蓋骨より上に行くのか!”
ティアは手探りで骨の出っ張りをつかみ、肋骨の隙間に足を掛け、何度か頭をぶつけながらさらに上へと登っていく。
ティアの狙いは、骸骨の体を登り、浮遊する頭蓋骨を上から攻撃することだった。
ただし、頭蓋骨が近くで止まっていなければ意味がない。
かなり運任せの作戦だ。これが失敗したらこの場所からの退却も考えていた。
やがて、ティアは骨がなく、それ以上は登れない位置にたどり着いた。
彼女が立っているのは鎖骨の上で、すぐ近くには頸椎が突き出していた。
「みんな……頭蓋骨いまどこ? そろそろ次の電撃くるからさ、遠かったら降りるね……」
頭蓋骨に聞こえないように、ティアは声をひそめて尋ねた。
コメントダイジェストが情報を集約し、ひとつの文章を表示する。
『ティアさんの真正面、少し低い位置で止まっています。大きくジャンプすれば届きます!』
視界には何もない。
真っ暗な闇へのジャンプだ。
それでも、ティアは迷わなかった。
自分の目の代わりになってくれた人たちを……信じた。
鎖骨を足裏で蹴り、ティアは頭蓋骨めがけて跳躍した。
今回は叫ばずに。
ジャンプの最中に聖剣ブリトニーを両手で握り、切っ先を下へ向ける。
ティアが頭蓋骨に飛び乗るのとほぼ同時に、聖剣ブリトニーの切っ先が脳天に突き刺さった。
ガギィィィン!!
切っ先はそのまま頭蓋骨を貫く。
無数のヒビが走り、頭蓋骨が粉々に砕け散った。
その瞬間、闇が晴れた。
ダンジョンに元の明るさが戻った。
砕け散った頭蓋骨の破片と、骸骨の体を構成していた無数の骨が、地面へと落ちていく。
頭蓋骨を蹴って飛び退いたティアは床に着地した。
「はぁ……はぁ……最初に叫んじゃって逃げられたのはツイてなかったけど。最後にジャンプで届く場所にいたのはツイてたー! プラマイゼロー!」
“光が戻った!”
“勝ったあああああ!!”
“すげえええええ!!”
“手汗がやばい”
“視聴者参加型バトルだったwww”
“俺たち、ティアっちの目になれたんだな……”
“コメントを集計して戦うなんて前代未聞じゃないか?”
“ティアさんおめでとう。あとスマホの充電はマメに笑”
「おめーら、マジでありがとなー!」
ティアはドローンのカメラに近寄り、暗視モードを通常モードに切り替えてから、カメラに向かって親指を立てた。
ティアが立っている場所から10メートルほど離れた空間の中央部に円形の影が浮かび上がる。
「ダンジョン制覇の魔法陣きちゃった!? やっぱラスボスだった!?」
しかし、その影が消えて現れたのは――――
さらに下へと潜っていくための通路だった。
国洞1号はまだ終わらない。




