#51 深度50 スケルトンキング
深度43でしっかりと寝て気力体力を回復させたティアは、紅鯨団の三人と別れてひとりで最下層を目指した。
偶然の出会いではあったが、小さな研究者の江成彩音や、ダンジョンシーカーの紅鯨団といった仲間がいた。
けれど、ここからは他のシーカーと出会うことはない。
ひとりきりで最後まで頑張らないといけない。
そう思うと、ティアは少し寂しくなった。
“ティアっちファイトー!”
“よく寝れましたか?”
“メイクも気合いはいってるのがわかる”
“未到ゾーンだからこれまで以上に気をつけて”
“平均同接数が300万超えてるのすごいな”
“仕事休んで観てる”
“俺も”
“最下層の深度が不明で快挙の瞬間がいつくるかわからんし”
“応援してます”
いや……そんなことはなかった、とティアは思い直す。
彼女は装着しているスマートコンタクトで、次々と投稿される大量のコメントを読むことができた。
コメントをしているのはどんな人なのかはわからないし、隣にいるわけじゃない。
けれど、ドローンのカメラ越しに、同じ時間を共有している人たちがいる。
画面の向こうには、間違いなく生きた人間がいるのだ。
そう考えると、さびしいことなんてなかった。
「おめーら! 「アゲぽよギャルさんぽ」はゆるい系ダンジョン配信なんだから、お菓子でもパクパクしながらテキトーに楽しんでくれよなー! あーしもテキトーにがんばるよー!」
到達記録を更新した深度43の少し手前から、ダンジョンの構造に変化が起きていた。
分岐がたくさんある広い迷宮だったのが、どんどん一本道になっていたのだ。
そのかわりにミノタウロスクラスのモンスターが当たり前のように出てきた。
ティアはそれらを、時には複数体同時に相手をしながら進んだ。
そして……深度50に到達した場所はかなり広く、そこが行き止まりになっていた。
半分以上地面に埋まっている巨大な骨がそこらじゅうに散らばっている。
“もしかして最下層到達?”
“マジ? ついに?”
“だけど最下層の目印の魔法陣はないな”
“深度50ってのはキリがいいけど”
“深度は研究者が決めたスケールでしかないから”
“モンスターは死んだら消滅するのに骨があるのおかしくね?”
“途中で道を間違えた?”
“ここまで一本道だったよな……”
ティアが中央付近まで来た時、突然地面が大きく揺れた。
「え? え? なに? なんぞ?」
埋まっていた無数の巨大な骨が、地面から引っこ抜かれるようにして空中に浮かぶ。
その白骨は一箇所に集まっていく。
巨大な骸骨の形が作られていく。
さらに地面から、骸骨の背丈を超える杖が現れた。
首より上のない骸骨は巨大な杖を片手で握り、石突きを地面につけたまま垂直に構えた。
“スケルトンキングだ!”
“どっかの国で遭遇例あったやつだよな”
“目撃者はいるけど戦闘の報告はまだない”
“巨人の骸骨?”
“ホラーだ”
“これは……そりゃ戦わないで逃げるわ”
“生きてたから骨が消えてなかったのか”
“スケルトンが生きてるか死んでるのかは議論の余地あり”
“でも体だけで、頭蓋骨ないけど……”
ティアは腰の聖剣ブリトニーと魔剣ビヨンセを抜いた。
「スライムキングに……スケルトンキングに……王様ばっかじゃん! つーか家来とかいないし、デカいからキングってつけてるだけなんだろうけどさー」
頭頂部だけが地面から出ていた巨大な頭蓋骨が、最後にゆっくりと浮かび上がってきた。
ティアはその頭蓋骨を、じっと観察するように見つめる。
「ははーん、なるほどね。こいつを倒したら最下層の目印が出現するってことなんじゃね? 弱点はこのドクロでいいと思うよ。じゃあ、さっさと……」
バヂィィィッンンンッ!!!
ティアはとっさに前方へ転がり、電撃をかわした。
その電撃は、骸骨の体が握る杖の上部に埋め込まれた石から放たれたものだった。
「ちょっとぉ! 骨だけのクセに魔法使ってくるとか卑怯でしょ!」
頭蓋骨は音もなくゆっくりと移動をしているが、骸骨の体と合体する気配はない。
「あー、うっとうしい! 早くあのドクロをぶっ壊さないと……」
すると、杖の上部にエネルギーのようなものが集まっていくのが見えた。
ティアは身構えるが、放射されたのは今度は電撃ではなく「闇」だった。
一瞬で、この空間が暗闇に包まれた。
「なになに!? なんで真っ暗になってんの!? 何も見えないよー! そうだ! スマホのライト! 広いからスマホライト程度じゃダメかもだけど一応……って、充電切れてるし! なんで充電小まめにしとかないのよー!」
ダンジョンの中には光源らしいものはなく、壁や床や天井が発光している。
その光が、すべて消えた。
ティアに見える光は、ドローンが点灯させている青色の小さな光だけだった。
“びっくりした”
“完全に光がなくなった”
“闇を作り出す魔法?”
“いきなり真っ黒で配信が中断されたかと思った”
“ティアさんは残量10%以下でも平気な俺と近い人種だった”
“ドローンが暗視モードになってくれれば見えるのに”
“赤外線照射式の暗視モードにできますか?”
ティアはコメントにあった「暗視モード」にするためにドローンを捕まえ、カメラ部分にあるスライドスイッチを動かした。
ドローンを再び宙に浮かべる。
“映ったー!”
“見えた見えた”
“白黒みたいな映像だけどちゃんと見えるな”
“ティアっちも骸骨の頭と体もわかる”
“ティアさん、配信映像の方は暗視モードで見えてます!”
“画質は悪いね、赤外線だとこんなもんか”
ティアも暗視映像を表示することはできたが、スマートコンタクトの小さな表示領域では、動き回る頭蓋骨の位置をリアルタイムで把握するのは難しかった。
視聴者には見えるようになっても、自分が見えないという状況は変わらなかった。
過去に土中のグラウンドワームを剣で刺したことはあったが、あのような単純な生物ではないスケルトンキングは視覚情報なしで動きを予想するのは難しい。
「でも……なんとかなるかも」
そしてまた杖から電撃が放たれ、ティアはとっさに身を投げ出して地面に伏せた。
背後で轟音が響き、地面に閃光が弾けた。
ティアは立ち上がった。
「みんなー、ちょっとお願いがあるんだけどー!」
ドローンについている小さなLEDの青い光を見つめ、叫んだ。
「あーしの“目”になってー!!!」




