#05「おいらが行くしかねえな」
「おいらが行くしかねえな。ボコってくるからおっさんはここで休んでてー」
「はあ? ただの配信者が何言ってんだ? おっ、おい! ちょっと待てよ! お〜い!」
最上ティアは小走りでヴァルディアスへと向かっていき、上空の配信用ドローンもそれに合わせて水平に移動する。
それまで画面の奥にいたヴァルディアスの姿が、みるみるフレームいっぱいに迫ってきた。
“え、なにこれ?”
“今来た。何が起きてんの?”
“誰か状況説明してー”
“マジでヴァルディアスだ”
“カテゴリSSS級のドラゴン”
“デカすぎんだろ!”
“チャンネル名「アゲぽよギャルさんぽ」ってふざけてんのか?”
“登録者50人くらいじゃん、なんでこんな深層にいるのよ”
“これ生配信だよな?”
“誰か録画しとけ!!”
“戦ってるのって紅鯨団っぽくね? 国内最強クラスのギルド”
“今来たら3000人いて草”
ティアは二人のシーカーがいる最前線に到着した。
一人はヴァルディアスからの攻撃を避けて隙を見ては槍で突いていたが、闇夜の如き黒い鱗はその攻撃を跳ね返し、金属音がむなしく響いているだけだった。
もう一人はロングソードを地面に突き立てて肩で息をしている。
おそらくは呼吸が整い次第ヴァルディアスとの戦いに加わるであろうそのシーカーに、ティアは後ろから声をかけた。
「おにーさん! あーしに任せなー!」
「はぁはぁ、だ……誰だ? 危ないぞ……ひっこんでろ……」
「大丈夫だって! いま戦ってるおにーさんと一緒に泉の近くに避難して、のんびり見学しててー」
「お、お前……まさか、あのドラゴンに勝てると思ってるのか?」
ティアはヴァルディアスを見上げる。
「ありよりのありでねー!」
“????”
“来たのはこのチャンネルの主?”
“よく見えないけど女だよな?”
“なんか話してる”
“軽量プロテクターにレイピアかよ”
“装備的に戦いに参加するわけじゃないだろう”
“スタイルめっちゃいい、脚なげぇ”
“は?”
“おいおい、女を残して男たち戦線離脱したぞ”
“えええええええ???”
“何が起こってるのか意味不明すぎる”
“まさかひとりで戦うのか?”
“紅鯨団が勝てない相手に?”
“逃げろ! 逃げろ!”
“過疎配信者に何ができるってんだよ!”
シーカーたちは退避した。
心身ともにとっくに限界を超えていた彼らはティアの根拠のない謎すぎる自信に押し切られたのだ。
ティアはヴァルディアスを挑発する。
「ヘイヘイ! カモンカモン!」
ヴァルディアスが吠えて大気が振動し、天井からパラパラと石が落ちる。
後ろ足に力を込めたヴァルディアスの巨体が沈み込み、次の瞬間――地面を蹴って跳ねるようにしてティアに近づく。
そしてその勢いのままに、前脚で叩き潰そうとしてきた。
ドゴォォォォォンッ!
地面が陥没する。
しかしティアはすでに横へ跳んでいた。
間髪入れず巨大な爪が地面を削りながらティアを襲う。
ガガガガガガガガッ!
それすらも、ティアは紙一重で後ろへ跳んで簡単にかわした。
まるで、“”そうくると事前に知っていた”かのように。
“ふぁ!?”
“連続攻撃アッサリさけやがった”
“マジかよ、なんだあいつ?”
“どんなスキルでこんなムーブできるんだ?”
“いや……スキル云々というより”
“なんかニュータイプっぽい”
“動きを読んでるよな?”
“同接20万超えた勢いヤバすぎる”
“アーカイブ残らない設定になってるから録画しとけよ!”
“もう録画してる”
ヴァルディアスは身体を起こして、大きく息を吸い込んだ。
「ヤバめの炎……だよね? でも知ってた」
ゴォォォォォォォォッ!
灼熱の炎が一直線に吐き出された。
しかし来るのが分かっていた彼女は簡単に避け、ただ地面を焦がしただけだった。
踏みつけ。
回避。
爪。
回避。
炎。
回避。
何度繰り返しても、ティアには一撃も当たらない。
だが、ティアも一度として攻撃していなかった。
分厚い鱗のヴァルディアスにレイピアを刺しても倒せないのは知っていたから、避けながら倒し方を探していた。
そして。
――――うん。どうするか、決めたよ。
ヴァルディアスは大きく身体をひねり、巨大な尻尾が横薙ぎに振り抜かれた。
ティアは直前で身を沈める。
鞭のようにしなる尻尾は轟音とともに頭上をギリギリで通り過ぎ、壁に激突して静止した。
「いつ行くの? いまでしょ!」
尻尾が激突した際の土煙に紛れてティアはヴァルディアスの背後に回る。
ヴァルディアスは目の前のティアを見失い、苛立ったように首を振った。
その隙にティアは尻尾を足場に、さらに背中の鱗を蹴って一気に駆け上がる。
そして、静かに頭頂部へ。
ヴァルディアスは、頭上のティアの存在に気づいていなかった。
“TASさんっぽい動きすぎる”
“いやいやいやwww”
“こんな事ってありえるのか?”
“さっきからずっと理解が追いつかない”
“特別に早いわけでもないのに翻弄してる”
“手玉に取ってるって言葉がピッタリだ”
“頭の上に乗ってどうすんだ?”
“レイピアじゃ心臓には届かないし脳を狙う気か?”
“そんなにうまくはいかない”
“硬い頭蓋骨があるからな”
“モンスター研究者しています。ドラゴンの頭蓋骨は構造上薄い部分がありますがそれは外からは判別できません”
ティアはヴァルディアスの頭頂部に手を置いた。
目を瞑りながら、まるで探し物をするかのようにその手を動かす。
――――必ず仕留められる場所に突き刺さなきゃね。
彼女はゴブリンやコウモリや吸血ラットのような雑魚モンスターとしか戦った事がないのに、このSSS級のドラゴンに勝てる自信があった。
過去にモンスターの攻撃を一度もくらった事はない。
そして常に一撃で倒してきた。
それは“相手が弱かったからではなかった事”に、彼女はついさっき気がついた。
ティアの指先が止まった。
理由なんてない。
どうしてそう思ったのかも分からない。
だけど、ティアには分かった。
ここを突けば、このドラゴンは終わる……と。
「弱点……見ぃつけた!」
レイピアを両手で握り直し、全身の力を一点に集める。
「言っとくけどぉ!! 令和のギャルはマジ最強だからぁ!! ドラゴンとか一撃で倒せちゃうんだっつーの!!!!!」
グサッ! ズブッ……ズブブブブッ!
柄にキラキラのラメ入りテープを巻いたレイピアが黒い鱗を貫いた。
“え?”
“刺さった?”
“…………すげえ”
“うおおおおおおおおお”
“マジで?”
“なんか叫んでたっぽい?”
“SUGEEEEEEEEEE”
“とんでもないものを見せられてる”
ヴァルディアスの絶叫が、ダンジョン全体を揺らす。
「そーれ! 逝っちゃえええええええええ!!!!!」




