#04「デカすぎて、ほまに無理」
最上ティアをけなげにも追いかけてきた配信用ドローンは、そのまま上空でホバリング状態となった。
内蔵されたAIが、この空間を危険だと判断したのだ。
その生配信を観ているたった二人の視聴者だけがコメントを書き込み、まるでチャットのような状態になっていた。
“これ配信続いてんの?”
“続いてる”
“あれ……ヴァルディアスじゃね?”
“SSS級の? 嘘だろ”
――SSS級ドラゴン、ヴァルディアス。
世界でも数体しか確認されていない、最凶のドラゴン種だ。
SSS級モンスターの中でも最上級の討伐難度を誇り、これまでに数多のダンジョンシーカーたちを葬ってきた怪物である。
全長は二十メートルを優に超え、全身を覆うのは黒曜石を思わせる漆黒の鱗。
四本の脚はどれもが大木のように太く、その先端には人間の身体など一撃で引き裂けそうな巨大な鉤爪が並んでいた。
その姿はまさに、ダンジョンが生み出した災害だった。
ティアのとなりにいる中年男は左手に持ったポーションの蓋を歯を使って開けて、中身を一気に喉に流し込んだ。
「とりあえず止血はできたから、加勢してくる」
「片手使えないんしょ? 無理だって、おっさん!」
「まあそうだな、無理だろうな」
ティアだってそれなりに剣は扱える。
それにこの男のような怪我もしていない。
……自分も戦うべきなのか。
彼女は男が見つめているドラゴンを同じように見つめた。
――――いや、デカすぎて、ほまに無理。
ヴァルディアスは自分が倒してきたモンスターとくらべて何もかもが桁外れだった。
趣味配信をしていただけの彼女は危険な深度には潜らないようにしてきた。
ずっと浅い場所で雑魚モンスターを相手にしていただけだ。
なのでこいつと戦うのは、近所の公園をのんきに散歩していた人間がいきなりオリンピックの決勝に放り込まれるようなものだった。
配信用ドローンは絶望するティアの姿を小さくフレーム内に収めてはいた。
だが、視聴者の目は巨大なドラゴンに釘付けだった。ティアの存在などすでに忘れかけている。
“これガチならヤバいぞ”
“ちょっと他の奴にも教えるわ”
“俺も書き込んでくる”
たった二人の視聴者が、それぞれ別の場所へと情報を拡散していく。
この瞬間、最上ティアのただの趣味配信は世界中を巻き込む騒動へと変わりはじめていた。
もちろん、本人はそんなことなど知る由もない。
ティアは目元だけが覗く黒いマスクをつけている。
普段ならつけまつ毛で盛っている目元も、ダンジョンでは素のままだ。
その目が、ヴァルディアスと二人のシーカーの戦いをじっと見つめていた。
象よりも大きい、ありえないほどの巨体。
一撃を食らえば、人間なんて簡単に吹き飛ばされる攻撃。
ヴァルディアスが右脚を上げる。
その瞬間、ティアの視線が……わずかに動いた。
呼吸のリズム。尻尾の向き。首を傾ける際の癖。
それらをまるでパズルのピースを確認するように、彼女の目が追っていく。
――――あれれ?
ティアはデコりまくった鞘から細身のレイピアを抜いた。
そして、もう一度ヴァルディアスを見た。
――――てゆーか。あーし、勝てるかも?




