#03「人生、マジで詰んでる?」
最上ティアは、光ひとつない暗闇の中を落下していった。
「ふぎゃぁぁぁぁぁぁぁ! のあぁぁぁぁぁぁぁ……って、あれ?」
しかしティアは、すぐに違和感に気づいた。
落ちているとは違う。
それに、この感覚には覚えがあった。
これはポータルを通過するときと同じ感覚だった。
ダンジョンの出入り口は物質としては存在していない。
ドアより少し大きいサイズの転移門(ワームホールのように渦を巻いている)がホログラムのように浮かんでいる。
学者たちはその亜空間への扉を「ポータル」と名付けた。
シーカーや配信者はそのポータルを抜けて地球とは別の次元に存在しているダンジョンへと潜る。
さらにダンジョン内にもポータルはあり、そこから別の階層にワープもできた。
ポータルに入ると10〜30秒間ほど真っ暗な中で待たされる。その待機時間はダンジョンの大きさに比例していた。
せっかちなティアはいつも「ロードなっがっ! どうせならさー、TIPSとか表示しろよー!」と思っていた。
そして彼女は現在、その待機中と同じように体を動かす事ができず、耳の奥がツーンとする感覚になっていた。
「じゃあ、これって落とし穴っつーよりも、隠しポータルなん? あーし、助かったけどさ、でもどこにつながってんのよ?」
その答えは待機時間が終了してすぐにわかった。
ティアは、ポータルから吐き出された。
ヒュゥゥゥゥゥゥ。
バシャン!
ティアが落ちた先は泉だった。
「土だったらヤバかったじゃん!」
水面まで浮上してきたティアが頭上を見上げると、3メートルくらい上空に渦を巻くポータルが口を開けていた。
泉の近くにはひとりの男が立っていて、驚いた顔でティアを見ていた。
泉から上がってずぶ濡れのティアのところにその男がやってくる。
男は40歳前後で髭面、ボロボロの鎧が歴戦の戦士を感じさせる。
配信者ではなく、ダンジョンシーカーだというのは一目で理解できた。
彼の腕を見るとかなり深手の傷を負っているようだった。
「お……お前何者だ!? なんでここに!?」
「ぬるーく配信してたんスよ。でも隠しポータルに落っこっちゃってー、抜けた先の下が泉でマジ助かったわー」
しかしティアは自分が辿り着いたのは安心できる場所でない事にすぐ気がつく。
おそらくここはかなりの深層のボスフロアで、少し向こうでは巨大なドラゴンを相手に二人のシーカーが戦っていた。
戦っているとは言ってもほぼ防戦一方で、その爪や炎から逃げるので精一杯という感じだった。
「えっと、おっさんたちはここで何してんの?」
「俺らはここであのドラゴンに遭遇しちまったんだ。この場所につながってた坑道の坑口はあの野郎が尻尾を振った時に岩で塞がれちまった。俺はやられちまって戦線から離脱してたんだよ」
「あーしが見てもピンチって感じだけど、このポータルで逃げた方がよくね?」
「そのポータルはここに来た時から気づいてはいたが、真下が泉だから登る事ができねぇ、実質一方通行の出口だ」
男は太い眉毛を片方だけ下げて苦笑いの顔を見せた。
その目にはあきらめのようなものも感じられた。
「あれはヴァルディアス、SSS級のドラゴンだ。俺らもあんたも助からねぇ。全員ここで命を落とすんだよ」
「え……うそ……」
ティアはその場に崩れ落ちそうになった。
――――落とし穴じゃなくてポータルで助かったのに。落ちた場所が地面じゃなくて水で助かったのに。結局ダメじゃん! 詰んでるじゃん!
そんな絶望に包まれた彼女は、頭上のポータルから自分の小さな配信用ドローンが飛び出してきたことに気づいてはいなかった。




