#02「謎解きとかダルいからパス」
最上ティアはゴブリンをあっさりと撃退し、柄にラメ入りテープを巻いたレイピアをデコりまくった鞘に戻す。
「はい、おわりー! 楽勝すぎね? っていうかあーし、最近暇すぎてダンジョン潜ってばっかでそこそこ強くなってね?」
キカタン(企画単体女優)である彼女はデビュー当時にくらべスマホに届く仕事の連絡はめっきり少なくなっていた。
若い子が続々と業界に入ってきたり、そもそも弱小だった所属プロダクションの女優たちが大量に引退したせいでバーター(抱き合わせ)での仕事が貰えなくなったなど理由は沢山あった。
仕事が減って“ひまぽよ”になったティアはなにか趣味でも持とうかと考え、ふとダンジョン配信の存在を思い出し、ゲーム好きだったのもあり1年ほど前からソロで潜っている。
(そもそも最上ティアという女優名も、好きなハクスラゲーから連想して自分で決めたものだ)
配信ではAV女優・最上ティアだというのは隠している。
さらに商売道具である身体に傷をつけたくなかったので、全身を軽量プロテクターで固め、顔には目元だけが出る黒いマスクを着けていた。
モンスターを討伐するというテイで実態は「おっぱい配信」だったりする人気女性配信者がいたりするが、露出ゼロの最上ティアは真逆でセクシーさのかけらもない。
「やっぱダンジョンマジさいこー! ちょっとメンブレしかけてたけど、もう忘れてきたしっ! やっほー! モンスター出てこーい!」
仕事の激減以外でも最近かなり落ち込む出来事があった。
帰省時に自分がAV女優をしているのを親友に話したら、いつの間にか親と兄弟、そして地元の友人たちにまで知られてしまったのだ。
カメラの前で性行為を披露するAV女優という肩書きが世間からどう見られているかというのは彼女はよく理解していた。
しかし実際に、父に激怒され、母に泣かれ、妹は会ってもくれず、友人たちからは距離を置かれてしまうというのはこの仕事が好きとはいえ、かなりキツかった。
仕事が減って将来が見えなくなっていて、帰る場所もなくなっている。
そんな現実を非現実的なダンジョンにいる間は忘れる事ができた。
「……まあ、いいや、ダンジョン楽しいし、今日も見てる人いるし。なんか腹減ってきたからそろそろ帰ろっかな。でもお土産にレアドロップしたいんだよね……ん?」
壁に妙に怪しいひび割れを見つけた。
ティアはそれを「うりゃ!」とカカトで蹴る。
すると壁が崩れて、中から小さな石像が現れた。
石像のおでこには5個のボタンのような突起があった。
石像の後ろの壁には首都圏の路線図のような複雑な線が彫られている。
「これ絶対なんかあるっしょ。隠しアイテムとか? たぶんさ、このイミフすぎなヒント使って順番通りに押したりするんだろうけど……ま、シカトだな」
彼女はゲームの場合、制作者サイドの「さあ謎を解け」という意図をガン無視する。
考えると頭がイガイガしてくるので総当たりで押していくタイプなのだ。
中腰になって5個のボタンを順番を変えて押していく……が何もおきない。
「あ〜もう、なんなん? ダルすぎね? うんこ気ばってるみたいな面白い顔しやがって」
ちょっとイライラしてきた彼女は石像の頭を軽く小突いた。
カチッ。
「ええっ、何の音? トラップ? ヤバくね? なにかくんの? ごめんごめん、よく見るとイケメンじゃん! なでなででなで、痛いの痛いの飛んでけー!」
カチッ…………カチッ…………カチッ……カチッ。
カチッ……カチッ…カチッ…カチッ。
時計の針が動く時のような音のその間隔がどんどん狭くなっていく。
そして最後に「ガギッ!」と一際大きな音を出して止まった。
ティアは石像の謎を偶然解いたのか失敗してしまったのかは不明だが、いきなり仕掛けが発動した。
そこにあるはずだった地面そのものが足元から消え、彼女はふわっと浮かぶような感覚になり、その直後――胃が持ち上がった。
「びぎゃあああああああ! やだやだやだ! 死ぬ死ぬ死ぬ! マジ無理だからぁぁぁぁぁぁ!」
最上ティアは、奈落の底へと落ちていく。
そして今日の生配信で、はじめてコメントが書き込まれた。
“は? 落ちてったぞ”
“うそ……まさか死んだ?”




