#06「覗くなよ? カラダ洗うんだから」
グォアアアアアア……グァァァ……ガァ……ァ……。
脳天にレイピアを突き刺されたSSS級ドラゴン・ヴァルディアスは断末魔の悲鳴をあげると完全に動きが止まり、そのまま彫刻になったかのように息絶えた。
――――あーし、マジつよつよ!
レイピアを引き抜いた最上ティアはドラゴンの首を滑り台のようにして降りてくる。
“マジでひとりでSSS級ドラゴンを倒しやがった”
“こいつの倒し方ってこれが正解なん?”
“普通は無理、針の穴を通すような精度で刺さないといけない”
“過去の討伐例ではとにかく大人数で時間かけて削ってた”
“こんなダンジョンシーカーが存在したのか……”
“海外ニキがもう動画や画像の拡散はじめてる”
“同接80万オーバーwwww”
“海外勢に見つかって一気に伸びたな”
“誰なんだ? こんなのが無名のはずないだろ”
“でもただの過疎配信者でチャンネル名は「アゲぽよギャルさんぽ」”
“謎すぎる”
“死んでも立ったままはドラゴンの王者って感じだなー”
パラパラと、何かが崩れる音がした。
黒い鱗が砂になり、骨が崩れ、ヴァルディアスの巨体そのものがダンジョンへと還っていく。
倒してからわずか数分後、そこには何も残っていなかった。
ただ一つを除いて。
ルビーのように赤く輝く小さな球体だけが、地面に転がっていた。
それを拾い上げて眺めているティアのもとへ、泉の近くに退避していた三人の男たちがやってきた。
一番最初に会った髭面の中年男がティアに話しかける。
「それはヴァルディアスの心核だ。ひとりで倒したあんたが手に入れる権利がある」
「綺麗すぎて宝石かと思ったわ! 何に使うかわかんねーけど、レアドロップして帰ろうと思ってたからラッキー!」
「……俺たちは紅鯨団って国内でもそれなりに上位のギルドだ。そんな俺らがまったく歯が立たなかったあの怪物をひとりで……信じられねぇ。あんた、いったい何者なんだよ?」
ティアはそんな事よりも全身が粘性のある液体で汚れている事が気になっていた。
「っていうかさー、ドラゴンの頭刺した時にこのネバネバがあーしにかかったんですけど? なんなんこれ? めっちゃ気持ちわるー」
「ヴァルディアスが吐いていた火炎の燃料……オイルみたいなものだろうな。身体に害はないとは思うが」
「いやいや、むっちゃ不快だし! かゆくなりそうだし! おっさんたちはドラゴンが塞いじゃったって穴をなんとかしてよー、あーしは泉で服とカラダ洗ってこのベタベタ落とすからさ。絶対に覗き見とかすんなよ? わかった!?」
「お、おう……いや、はい、わかりました」
“なんか話し合いしてる?”
“もっとドローンが近づいてくれたらいいのになぁ”
“SNS見る限り紅鯨団は確定っぽい”
“紅鯨団の3人は岩が積み上がってる壁の方に行ったな”
“あそこに坑口があるとか?”
“なるほど塞がれてたから戦うしかなかったのか”
“あれ? 女だけ泉に向かっていってるぞ”
“????”
最上ティアはAV女優だ。カメラの前で素っ裸になる仕事をしている。
だからといって、どこでも誰の前でも裸になれるわけじゃない。
仕事だから、裸になれるのだ。
仕事ではない場所で見知らぬ男たちに裸を見られるのはまた別の話だったので、覗き見をするなと忠告したのだった。
“おいおいおいおい”
“上半身のプロテクター外して上着脱いでる?”
“え? え? え?”
“こんな時に水浴び? なんで?”
“ドローンもっと寄れ!”
“なんかドローン動き始めたっぽい?”
戦いが終わり内臓AIがもう危険ではないと判断した配信用ドローンが、ゆっくりとティアの背中に向かって降下していく。
はやく不快なネバネバから解放されたかったティアは目出し帽はかぶったまま、大急ぎで服を脱いだ。
上半身は黒のブラジャーだけになり、次にベルトを外してズボンをおろす。
現れた下着はTバックだった。
完全に小麦色の尻が丸見えになっている。
撮影に行く時は尻にパンツのラインがつかないようにと彼女はTバックにしていたのだが、それに慣れすぎてしまいプライベートでもTバックを愛用していたのだ。
“REC”
“REC”
“REC”
“録画中”
“えっど”
“Tバックwwwww”
“なんて形のいい尻なんだ”
“どうしてそんなにこんがり焼けてんだよwww”
“日サロ? まじでギャルなのか……”
“ぬるぬるテカテカでエッッッすぎる”
“オイルとかローション的な……”
“どーすんだよこれwwww”
“クビレがすごいから尻の丸さが強調されとる”
“全世界がリアルタイムで視聴してるケツwww”
“なにもかもが伝説の配信だ”
ティアの丸出しのお尻にドローンがゆっくりと近づいていく。
いくら最近の配信用ドローンの静音性が上がったとはいっても、さすがにかなりそばまで寄るとその音が耳に入ってくる。
ティアは振り返り、自分の尻の前にドローンがいる事に気がついた。
ポータルを超えて自分に付いて来ていたとは思ってもなかったので一瞬固まる。
「は……はえ? ま? ちょ…………っ!」
彼女はドローンをガシっと両手で掴むと背面のスイッチを押した。
『このライブ配信は終了しました』
こうして最上ティアは、100万人以上にその鮮烈な戦いっぷりと見事なお尻ぷりぷりを生視聴されてしまったのだった。
……そして、謎のギャルシーカーの特定作業がネット上ですぐにはじまった。




