#48 深度25 ブーメランスキル
かなり狭い、階段のような穴を上へとあがった最上ティアと江成彩音は、巨大なスライムキングを見下ろす場所に出た。
そこは小さなバルコニーのようになっていて、ふたりでやっと立てるくらいのスペースしかない。
「あのう、ティアさん……いまから何を?」
「ここからブーメランスキルであーしを投げ落として! スライムキングの中に入って直接倒すから!」
「ええええ??? ティアさんはブーメランじゃないですよ!」
「あーしをブーメランだと思い込めば大丈夫っしょ! あーしも自分は生まれた時から実はブーメランだったのかもって思い込むから!」
“思い込むって……そんな……”
“無茶苦茶な理論すぎるwww”
“その大丈夫っしょの根拠は……w”
“彩音ちゃんが「なに言ってんだこいつ」って顔で草”
“まあ仮に失敗しても助かる方法は考えてはいるんだろうけど……”
“失敗したらボヨーンって跳ねるだけかも”
“つまりティアっちが武器になるってこと?”
ティアが考えた作戦はこうだった。
魔剣ビヨンセを伸ばしたティアを、江成彩音がブーメランスキルで投げる。
回転するブーメランとなったティアはスライムキングの中に侵入していく。
シーカー必須のパッシブスキルで三半規管も強化されてるから高速回転しても大丈夫……なはず。
ビヨンセではスライムキングの硬い心核が壊せない可能性が高いので、侵入後に聖剣ブリトニーで心核を突き刺す。
あーしと彩音ちゃん、大勝利!
作戦を江成彩音に説明してから、今度はドローンカメラに向かって質問をした。
「あのさ、これだと彩音ちゃんに手伝ってもらうからさー、ソロ討伐とは言えなくなるじゃん? マズイかな? ズルいかな? おめーらはどう思う?」
“別にソロ討伐しないといけないなんてルールないですし”
“そもそも今回の挑戦は義務でもないからティアさんの自由です”
“メインは最下層到達でスライムキング討伐はおまけだしねー”
“そんな戦い方できるのあなたしかいないしズルくない……笑”
“どちらかといえば罰ゲームに近い戦い方”
自分の心配は杞憂だったと思ったティアは、江成彩音に当たらないように両手に持っている2本の剣を真上に向ける。
「はい! じゃあ彩音ちゃん、やっちゃってどうぞ!」
「なんだか私、飛び降り自殺に見せかけた殺人をする人みたいな感じになってますけど……ではいきます!」
江成彩音は一応手首のスナップを利かせて、ティアを投げ落とした。
ティアはバレリーナのように、頭から足までを一本の軸にして回転しながら弧を描いて落下していく。
落ちながら左腕を伸ばし、魔剣ビヨンセを水平に構えた。
その姿はまるで、片側にしかプロペラのないヘリコプターだ。
「あーしは生まれたときから…………獲物を狙う、ブーメランだー!!!」
魔剣ビヨンセの刃がスライムキングを斬る。
そしてできた裂け目が塞がるよりも早く、次の刃が食い込んでいく。
スライムキングの中心への道が切り開かれていく。
スライムキングの心核に近づいてきた。
――――あと5メートル……4メートル……3……2……。
右手で握る聖剣ブリトニーの間合いに心核が入る。
ティアは回転しながら、心核の位置と自分の軌道を見極めた。
……そして心核を聖剣ブリトニーで突く。
ブリトニーの切っ先が心核を貫いた。
その直後にスライムキングのゼリーのような体が崩壊する。
スライムキングの体を構成していた液体は、空洞の底に池を作った。
“いったーーーーー!!!!!”
“マジでやった!”
“ウォーーーーー!!”
“SUGEEEE!”
“よくあれだけ回転しながら突けたな”
“魔法なしで本当にスライムキング倒しちゃったよ”
“倒されるとあんな感じで水みたいになるのか……”
“ものすごい勢いで水が蒸発してる”
“ティアさんも大丈夫っぽい”
液体になったスライムキングの体はほとんどが蒸発していたが、ほんの少しだけ濃い緑色の液体が残っていた。
これが江成彩音がどうしても手に入れたかったものだ。
液体はすぐに地面に吸収されてしまうので、江成彩音は灯油ポンプを使って大急ぎで液体をポリタンクに移している。
ティアはおかしな歩き方をして配信用ドローンに近づいてきた。
手で自分の口を押さえている。
「う……うぷ……お……おええ……」
ティアはドローン後部にある、配信終了ボタンの隣のボタンを押した。
『ライブ配信が一時中断されました』
画面は真っ暗になった。
『ライブ配信が再開されました』
中断から5分後、憔悴しきったティアが画面に映る。
「ちょ……朝食、全部リバースしたわ……。こ……この倒し方はマジヤバイから真似しない方がいいぞ……絶対にオススメしねーぞ」
“心配しなくても誰もやりませんがなw”
“ナイス中断判断”
“予想できた展開……w”
“運動会のぐるぐるバット競争みたいな歩き方だった”
“さすがに目が回るよなw”
“でもミッションクリアだねー”
“ティアさんおめでとー!!!”
江成彩音は、ポリタンクを詰め込んだ彼女には大きすぎるように見えるリュックを背負ってティアのところにやってきた。
「スライムキングの残留体液と取り込まれていた高級ブーメランの回収終わりました!」
これまでずっと思い悩むような固い表情だった江成彩音が、はじめて表情を崩し、笑顔を見せた。
「ティアさんのおかげです、ありがとうございました!」
「そっかー! あーしも彩音ちゃんのおかげでスライムキングのところにいけたし倒すこともできたよ、ありがとー!」
江成彩音はこれからダンジョンの外へと帰還し、ティアは最下層を目指してさらに下に潜っていく。
上行きと下行きのルートに分かれる場所で、江成彩音は深々と頭を下げた。
「現在が深度25で、過去の最深記録が深度42……最下層はそれよりもさらに深いわけで、まだまだ大変そうですね」
「まあねー。でも次はちょっと楽しみにしてる場所があるから、まずはそれを目標に頑張るよー!」
「楽しみにしてる場所?」
「深度31の温泉! めっちゃ疲れがとれるっぽいんだよねー!」




