#47 深度25 スライムキング
スライムキングを倒したときにしか採取できない特殊な液体を求める江成彩音と、匿名掲示板の安価でスライムキング討伐を決めた最上ティア。
そんな二人はついに、スライムキングのいる深度25へと到達した。
江成彩音は慣れた足取りで、下へさらに潜るルートからは外れたスライムキングがいるという場所へティアを案内する。
「この国洞1号のスライムキングは討伐例があります。討伐から1ヶ月後にはまた現れていたそうです」
「その時に倒したシーカーはどうやったん?」
「主に魔法を……凍結魔法で凍ったゼリーのようにして破壊したそうです……ですが私は魔法が苦手で……」
「彩音ちゃん魔法苦手なん!? 仲間じゃん! もしかして実はAVに出てたりしない? ワイセツなコンテンツに関わってたりしない?」
「ふぁへっ? で、出てないです! ワイセツなコンテンツって……BL同人誌描いて即売会で販売しているくらいで……そこそこ描写はハード系ですが……」
“wwww”
“それだよ!”
“原因発覚”
“彩音ちゃんまさかの腐女子www”
“ダメだ腐ってやがる……”
“ハード系って……www”
“ワイセツコンテンツが魔法に悪影響説がさらに信憑性増してて草”
“ティアっち彩音ちゃんとがっちり握手しとるw”
“ティアさん仲間ができてよかったですねw”
ふたりは小さな横穴に入った。
そして、その穴を抜けた先の袋小路になっている巨大な空洞にはスライムキングがいた。
半透明の緑色で、奈良の大仏が暴飲暴食を繰り返したような巨大ででっぷりとしたスケール感は、まさにスライムの王様と呼ばれるにふさわしい。
ティアはスライムキングをじっくりと観察する。
「近づくと体の一部を伸ばしてきたり、体の一部を飛ばしてきたりするんだね。弱点は……ゼリーみたいな体の中心にある小さい石……心核なんだ。ドロップアイテムの心核を壊しちゃうからシーカーにとっては戦う意味ないモンスターだねー」
「見ただけでそこまで……はい、倒すにはあの心核を破壊する必要があります。ただ巨大な体の奥にあるので剣では心核に攻撃を届かせるのが難しいんです」
「動きは読めるからスライムキングの攻撃は大丈夫。あとは実際に斬ってみて確かめたいかも。行ってくるねー」
ナイフケースから取り出した魔剣ビヨンセを7メートルほどに伸ばしたティアは、スライムキングに向かって走った。
スライムキングは分離させた体の一部をティアに向かって放った。
ティアはそれを華麗に避け、さらに伸びてきた体の一部もビヨンセで斬り払った。
“すげー、あのスライム弾かなり速かったぞ”
“やっぱ、かっこいいなあ”
“このままいけそうではあるけど……”
“ビヨンセの長さでも心核には届かない気がする”
“でかすぎて心核がある体の中心が遠い”
“心核の高さもけっこう上の方だよな”
スライムキングのすぐそばまで来たティアは、魔剣ビヨンセで水平に斬り付けた。
斬られた箇所はパカっと開くような切れ目ができたが、それはすぐに元に戻った。
ティアは大急ぎで逃げるようにして江成彩音のいる場所にいく。
少し肩で息をするティアに江成彩音は「どうでしょう?」と尋ねた。
「えっとね、斬った場所の傷がもっと大きく開いて、元に戻るのにもう少し時間がかかるんなら、斬り続けてスライムキングの体内に入っていくとかの方法もあるのかなって思ったんだけど……きびちぃわ」
「そうですか……では、次は私が戦ってみます」
江成彩音は腰からブーメランを引き抜いた。
左足を前に出し、木やプラスチックではなく鉄製と思われるブーメランを構える。
「いろいろな武器を試した結果、上位のブーメランスキルで威力と回転数を上げれば、スライムキングの体内を進んで心核まで届くことがわかったんです。でも、当てることはできても破壊できませんでした」
「そうなんよ! ブーメランスキルめっちゃ弱いんよ! っていうかブーメランそのものが弱いの!」
「なので今回私が持ってきているのは……切れ味の鋭い剣にも匹敵する威力を持つと評判の、世界最強のブーメランです」
江成彩音は腰を落とし、手首のスナップを利かせてブーメランを投げた。
「きっといけます! なにしろ、このブーメラン高価なんで!! 24回ローン組んでるんで!! これのせいで毎日もやしばっかりです!!」
投げられた最高級ブーメランは、ヒュンヒュンと高速回転しながら弧を描いた。
スライムキングの体に食い込むと、まるで回転ノコギリのようにゼリー状の体を削りながら、回転を保ったまま奥へと進んでいく。
「お願いー! 心核を壊してー!」
「いけんじゃね? これ、いけんじゃね?」
最高級ブーメランは小さな心核へと向かい、そして当たった。
しかし心核は壊れず、回転が弱まったブーメランは、スライムキングの体内に取り残された。
へなへなと両膝を地面につけた江成彩音は今にも泣きそうな顔をしている。
「あ……あのブーメランは24時間くらいで溶けてなくなってしまいます。もう売ることもできなくなりました……」
“ああああああ”
“24回ローンが……”
“かわいそうに”
“かなり硬い心核っぽいね”
“ティアさんが作ったロングソードブーメランなら?”
“持ってきてないだろうし、そもそもアレ危険すぎるから……”
“さっきのブーメランが切れ味の良いソード並ならロングソードブーメランでも無駄かも”
ティアはナイフほどの大きさに縮めた魔剣ビヨンセと、鞘から出した聖剣ブリトニーを交互に眺めた。
「あーしの魔剣ビヨンセを貸してブーメランスキルで投げてもらったらどうかなって思ったけど、ビヨンセも威力自体はそこまで強くないんだよね。聖剣ブリトニーは強いけど突きの武器だから回転してもスライム内に侵入できなそうだし……う〜ん」
悩みながら何気なくこの空洞の天井を見たティアは江成彩音に尋ねる。
「ねー、彩音ちゃん。この場所の上の方へ行ける通路とかってあるー?」
「え? はい、私たちが使った横穴とは別の小さな横穴があって、それでスライムキングより高い場所へ出ることはできますが……」
ティアはお尻をぺたりと地面につけている江成彩音の前にまわり、少し膝を曲げて彼女の両肩に手を置いた。
「あーしがなんとかできるかも! 彩音ちゃんの協力があれば!」
江成彩音の大きな目が、ぱちりと一回まばたきをした。




