#46 深度23 小さい研究者
明日に備えて寝はじめるシーカーが増える頃、国洞1号深度20のセーフエリアに入ってきた女の子はふらふらと進み、倒れるように地面に腰をおろした。
輪になって座っている15人ほどのシーカーたちに混ざっていたティアは、ベテランシーカーに女の子について聞いた。
「じゃああの子はスライムキングに詳しいって事?」
「まあ何度も懲りずに挑んでは失敗してるみたいだから、それなりにはよく知ってると思うぞ」
「ちょっとお話してくるー!」
ティアは立ち上がると、駆け足で女の子のところへ向かった。
女の子は大きなリュックを背もたれがわりにして脚を伸ばし、家から持ってきたと思われる手作りオニギリを食べていた。
「こんちわー! スライムキングのこと教えてー!」
「……はい?」
女の子は口元に米粒がついた顔をあげた。
上下ジャージ姿のダンジョンには似つかわしくない金髪ギャルが、彼女の疲れ切った目に映る。
「え? まさか……最上ティア……さん? 国洞1号の完全制覇に挑戦するとは聞いてたけど……」
「そうそう、今バリバリ挑戦中だよ! でさー、最下層に向かう途中でスライムキングを倒すっていうミッションがあるからどこにいるのか教えて欲しいの! っていうかさ、地図にスライムキングの場所が載ってなくてマジ使えないんだわ」
女の子は立ち上がった。
背丈はティアよりもかなり低く、145センチくらいしかないように見える。
華奢な体つきで、自動車整備士の作業着のようなつなぎを着ていた。
黒のボブで丸顔。
目がくりっとしている太めの眉の可愛い子だった。
「私はダンジョンアイテムの研究をしている江成彩音です。スライムキングの特殊な液体を手にいれる為に何度もこの国洞1号に潜っています」
「特殊な液体? そんなのどーすんの?」
「噛むと水分が補給できるアクアボールの原料が、スライムを倒したときに得られる液体なのはご存知ですか? 同じように討伐後のスライムキングが残す液体からも素晴らしい効果のアイテムが作れると思っているんです」
「げっ……アクアボールってスライムからできてたん? そっかー、でもスライムキングって強いんでしょ?」
江成彩音は少し肩を落とし、深くため息をついた。
「……はい。なのでスライムキングが残す液体は入手困難です。だから自分でなんとかしようと思っているのですが、なかなか……」
「じゃあさ! あーしをスライムキングのとこまで案内してよ! そのかわりにあーしが勝ったあとに残った液体持って帰りなよ!」
「もらっちゃって、いいんですか!?」
「いいよー、だってそんな気持ち悪そうな液体いらんしー」
こうして二人は一緒に行動してスライムキング討伐を目指すことになった。
ティアは明日は配信をすることを伝え、江成彩音は了承する。
「こんなとこで寝てたら疲れとれないよ! 彩音ちゃん一緒のベッドで寝よー!」
「え? え? え?」
ティアは江成彩音の手を引いて「たまねぎ荘」へと向かい、管理人に事情を話してひとつのベッドでふたりで寝ることになった。
「あの……ティアさん、ありがとうございます。何度もこのセーフエリアには来ていますが、ここで寝るのははじめてです」
「彩音ちゃんに出会えてめっちゃ助かったんだし、同じ女の子同士なんだから気にすんなー」
「そ、そうですよね。同性なら……一緒のベッドで寝てもおかしく……ないですよね」
体格のよい男が多いダンジョンシーカーのために用意されているベッドは大きめなので、女性ふたりくらいならばまったく問題はなかった。
そして翌朝。
ティアはジャージからボディースーツに着替え、配信用ドローンを宙に浮かべた。
「グッモーニン! 最上ティアだよー! 今日はこれからスライムキングを倒しにいくぞー! そして! そこまでの道案内をしてくれるのは、みんな大好きロリっ子美少女のあやねちゃんだー!」
「ロ……ロリっ子!? 一応20歳なのですが……。あの、みなさん、よ……よろしくお願いします」
大きなリュックを背負った江成彩音はカメラに向かって丁寧なお辞儀をした。
“おっはー!”
“おっはー!”
“スライムキング討伐楽しみー”
“ティアさん、朝からテンション高いですねー”
“ティアっちも、あやねちゃんもかわいい!”
“今日はソロじゃないんだねー”
“彩音ちゃん、セーフエリアまでこれるってなにげに凄くね?”
最上ティアと江成彩音はセーフエリアを出て鍾乳洞ダンジョンを下へ下へと進み、どんどん深度を下げていった。
セーフエリアのある深度20より深い場所は、これまでのような詳細な攻略情報が載っている地図がなかった。
しかし、江成彩音の頭の中にはスライムキングがいる深度25までの比較的安全なルートが出来上がっているので、道に迷わず進むことができる。
時々出てくるモンスターはティアが簡単に排除する。
そして現在は深度23だ。
ショートカットできるのは分かってはいたが、危険なので江成彩音ひとりだといつもは避けていたルートを今回は進んでいる。
そこに待ち構えていたのは、獅子の身体に翼と毒針を持つマンティコアだった。
ティアは魔剣ビヨンセの一撃でその翼を切り裂いて飛行能力を奪い、聖剣ブリトニーの突きで一撃で仕留めた。
「こんな強いモンスターを……ティアさんって、本当にすごいですね……」
「でもさー、深度20を折り返し地点にして帰るシーカーも多いのにさ、彩音ちゃんよくひとりで深度25まで行けるね」
「国洞1号にだけ何度も何度も潜っていますから、ここに出るモンスターに慣れているというのが大きいです」
「そっかー、うんうん! ねえねえ、それってブーメランでしょ? ブーメランがメイン武器なん?」
「はい、いまはそうですね」
彼女はリュックの下の腰部分のホルダーに手を伸ばし、湾曲した大型ブーメランを引き抜いた。
“ブーメランスキルかぁ”
“ティアっちもブーメランスキルは持ってたよな?”
“ブーメランとロングソードを合成した武器はひどかったw”
“なんでそんな微妙スキルを……”
“絢音ちゃんのブーメランかなり良いものっぽいね”
「何度かスライムキングに挑戦した結果、ブーメランでの攻撃が最も効果があるというのが私の出した結論なので、なるべく普段も使って慣れるようにしています」




