#44 深度12 迷宮攻略法
ポータルに入ってからダンジョン内に転送されるまでの待機時間は30秒ほどだった。
――――なっが! 「Now Loading」長くね!?
これはダンジョンポータルとしてはかなり長い。
このことだけでも、国洞1号が相当に広いダンジョンであることがうかがえた。
待機時間を終えたティアの目の前には、巨大な鍾乳洞が広がっていた。
天井からは無数の鍾乳石が垂れ下がり、岩肌は湿り気を帯び、どこか遠くから水滴の落ちる音が響いている。
ティアは配信用ドローンを浮かべて配信開始を伝えるランプが点灯したのを確認すると、カメラに向かって正拳突きをした。
「押忍っ! 最上ティアだよー! まとめサイトとかでまとめられてるの見た人も多いと思うけど、今回は掲示板で決めてもらった国洞1号ダンジョンの最下層到達にチャレンジするぞー! 途中でスライムキングもボコすぞー! 押忍っ!」
配信予告はダンジョンに入る直前に行っていた。
それでもすでに数万人以上が視聴している。
“押忍!”
“押忍!”
“ティアさんキター!!!”
“ああ、日本武道館だから押忍なのねw”
“服!?”
“服が……”
“それよりもティアっちの格好……”
“ぴっちぴちだ”
“正直エチです”
“あのう……露出度高すぎません?”
“陸上アスリートっぽいけどサイバー感もある”
“セクシーだけどかっこいい!”
ティアはくるっと回って、ぴったりと身体に沿う黒いボディースーツを得意げに披露する。
大胆に露出した脚の付け根部分と、振り返った拍子に強調されるヒップラインに、コメント欄が一気に沸いた。
「イイっしょー? これって特殊な素材でできてるらしいよー! エゴサしたら「ティアの攻略はいつも中途半端」みたいなの結構見つけたんだけどさ! 今回は装備からマジモードだからね! もし失敗したら……ヌード公開してやるから!」
“いや……あの……”
“それはすでに……”
“ヌードどころか、なんというか”
“超辛党が激辛カレー食うくらい意味のない罰ゲームで草”
“でも本気なのは理解した”
“顔はマジモード”
“最下層到達って目標やっぱ高すぎない?”
“しかも国洞1号だもんな”
“国内で一番シーカーが潜ってるのに未達成の魔境”
“初挑戦で制覇はさすがに……”
さっそくティアはダンジョン内を歩きはじめた。
この国洞1号は挑戦者の多い有名ダンジョンなだけあって低層はかなり調べ尽くされていて、迷わずに安全に進める地図が存在していた。
ティアは分岐があるたびにスマホでデジタル地図を確認して、順調に深度を下げていく。
だが、順調だったのは深度11までだった。
深度12からは道が急に複雑になり、迷うことが増えてきた。
「あれれ行き止まり? あー! さっきのは斜め右下だったの? そんなんわかるかーい! このままだと深度20の野営ポイントにたどり着けなくない?」
“鍾乳洞内の通路は立体的だから地図で表すには限界がある”
“地図があっても大阪梅田の地下は迷うもんな”
“再開発中の渋谷もやばい”
“国洞1号は経験者がパーティーにいないと難易度爆上がり”
“ティアさん遭難するんじゃないのか?”
行き止まりから引き返してきたティアは、スマホの地図をしばらく凝視した。
そして何かに気がついたような顔をする。
「こういう地図って国洞1号に慣れてない人向けだからか、モンスターの出現場所まで丁寧に載ってんのね。あーし、今まではモンスターが出る道を避けて進んでたんだけど、そのせいで余計に迷ってる気がする。だったらもう、安全なルートにこだわるのはやめ! 多少モンスターが出ても、わかりやすい道を進む! 決めた!」
ティアは暗い横穴の前まで移動した。
スマホの地図によるとこの穴は200メートルほどまっすぐ続いていた。
けれどその道は、まるでカーナビの渋滞情報のように真っ赤に塗りつぶされている。
蜘蛛系モンスターが大量にいるため「通行は絶対に避けるべき」と地図に注意書きがあった。
さらに「未踏査ルート」であることをティアは視聴者に説明した。
“一匹ずつ倒していったらそれはそれで時間かかりそう……”
“蜘蛛ってことは網みたいな巣も張られてそうだな”
“未踏破なのに道がわかってるの?”
“レーザー測定器かドローンでも使って調べたんだろ”
“低層なのに未踏破ってだけでヤバさはわかる。そりゃ注意書きつけるわ”
ティアは腰に付けているナイフケースから魔剣ビヨンセを抜き出した。
剣を前に突き出すと、ビヨンセの剣身が七メートルほどに伸びる。
「ここを抜けるのが一番わかりやすいの。タラタラ進むのとかダルいし、一気に突っ切るからねー!」
横穴に突っ込んでいったティアは、長く伸びた魔剣ビヨンセを自分の前で円を描くように振る。
地面も壁も天井も、びっしりと蜘蛛モンスターで埋め尽くされた細い穴。
その中をティアは、剣をぐるんぐるんと高速で振り回しながら走った。
「うりゃああああああ!!!! ぐるぐるアタックー!!!!」
グシャ! ドギュ! ブシュ! ジャシャ! バシュ! ベシュ!
蜘蛛の群れを粉砕し、蜘蛛の巣を斬っていくその姿は、まるで横倒しにした巨大なミキサーが突き進むようだった。
“ゴリ押しにもほどがあるw”
“兵器だ……完全に兵器だよこれ”
“蜘蛛がスパスパ斬られて落ちてく”
“ついに殺戮装置となったティアさん”
“ゴリ押しに見えるけど剣を適当に回してるわけじゃないっぽい”
“大量の蜘蛛の動きを読んで微調整してるね”
“低層モンスターは大量に湧いてると危険だけど、まとめて蹴散らしながら進められるなら、この分かりやすいルート優先の攻略法アリだな”
“ドローンが追いかける映像、Tバックじゃないけどほぼ近いから常に……”
“後ろから見えるケツだけを目当てにやってたゲームを思い出す”
切断された蜘蛛の糸が黒いスーツに触れても、表面を滑るように落ちていく。
「このボディースーツ、マジでいいじゃん! 走りやすいし!」
ティアは200メートルのトンネルを抜けて、向こう側に到達した。
こうしてわかりやすい道を進むことにしたティアは、同じようにしてどんどん迷宮攻略を進め、深度を下げていく。
そして国洞1号に潜ってから6時間後。
ついに、野営地となっている深度20のセーフゾーンに到着した。
そこは、ダンジョン内とは思えないような場所だった。




