#39「魔法とか別にいらねーし!×3」
王子に向かって一直線に走る最上ティアは、視線だけはサイクロプスを追い、動きの予測をして弱点を見極めようとしていた。
左手で握っている現在はまだナイフサイズの魔剣ビヨンセ。
伸ばしてからの斬撃はかなりの威力があったが、それでもサイクロプスの岩のような体の無数にある傷の数を増やすだけだとティアは判断した。
だから右手の聖剣ブリトニーで突いて、一撃で倒すしかない。
その場所は心臓ではない。
心臓を突いても倒れるまでのわずかな時間に剛腕で反撃されてしまう。
勝ち筋は見えていた。
祈るのは、動きが読めないセリック王子にはいまの場所で寝ていてもらいたいという事だけだった。
“サイクロプスは担いでる鉄球投げてくるぞ”
“鉄球なくても強い”
“あの重い鉄球を振り回せる腕力がそもそもヤバい”
“間に合うのか?”
“王子! 起きて!”
サイクロプスは右手で鎖をがっしり握りしめ、まるでヘリコプターのプロペラのように頭上で鉄球を振り回した。
ブォォォン……ブォォォン……ブォォォン……。
一回転……二回転……そして三回転目が終わってサイクロプスが放った鉄球がセリックを襲う。
「ビヨンセ! 出番だよ!」
ティアは左腕を伸ばし、左手で握る魔剣ビヨンセを伸ばした。
7メートルくらいになったビヨンセの剣先が地面に刺さる。
サイクロプスの鉄球はビヨンセの剣身に当たって、その軌道がズレた。
それは若干のズレだったが、それで十分だった。
鉄球はセリック王子のすぐ近くの地面にめり込む。
サイクロプスは鉄球に付けられていた鎖を手から離し、ティアに体を向ける。
ティアはビヨンセをナイフサイズに一瞬で縮めて、サイクロプスへ駆けた。
今度はビヨンセの剣先をサイクロプスの胸の中心部に向け、そして伸ばした。
当然、強靭なサイクロプスの肉体を貫くことはできないが……それで構わない。
サイクロプスは、剣先が胸に当たっているビヨンセを太い指の両手でガッシリと掴んだ。
ティアはビヨンセの刀身が地面と水平の状態になるようにしていた。
つまりビヨンセは現在、坂のように上がっていく細い橋となっている。
サイクロプスは剣を壊そうとして力を込める。しかしビヨンセは折れない。
ビヨンセの柄から手を離したティアは、刀身へ飛び乗った。
一歩、二歩。
刀身を蹴って跳躍する。
目指すは身長四メートルの巨人、サイクロプスの頭部。
「あーしはぁぁぁ!」
ティアは聖剣ブリトニーが握られている右腕を伸ばした。
「魔法とか……別にいらねーし! いらねーし! いらねーーーっし!」
ブリトニーがサイクロプスの一つ目に突き刺さる。
そしてそのまま深く差し込まれ、剣先が後頭部から突き抜けて出てきた。
“かっけーーーー!!!!”
“うおおおおおおおおお!”
“100%強がってるセリフだw”
“三回言ったwww”
“絶対に魔法使いたがってるw”
“ビヨンセを攻撃用じゃなくて突きまでの道具として使いやがった”
“王子を守ってサイクロプス討伐まで一連の流れで……すごい”
“サイクロプスが剣を握ったから足場になった”
“しかも握らせる事で腕を封じたのか……”
“これがティアの二刀流……”
ドスーン。
仰向けに倒れたサイクロプスが。その巨体を地面に打ちつけた。
サイクロプスの体は溶けて地面に還る。
体があった場所には、テニスボールサイズのサイクロプスの心核だけが残された。
すべてのモンスターは心核をドロップする。
雑魚モンスターはその心核が小さくて探すのも困難だったが、さすがにサイクロプスの心核はしっかりと大きく、すぐにわかる。
ティアはそれの回収は後回しにして、まず先にセリックを心配した。
鉄球が自分のそばの地面に落ちた時に目覚めていた彼のもとにティアは向かう。
セリックはおそらく「日本の礼儀」を意識したのだろうが、日本人から見ても深すぎるお辞儀をしてから話し出した、
「助けていただき感謝しきれません。ただのパワーで圧倒するのではなく敵を華麗に翻弄して圧倒する……僕はこんな戦いを自分の目で見る事ができて光栄です」
「君のそばから離れちゃっててごめんよー。配信観てる人が関係者に連絡を入れてると思うし、じゃあ帰ろっか」
「ティアさん……僕はあなたをシーカーとしてだけでなく……あの……いえっ、はいっ! わかりました!」
ティアはまたセリックを背負って進み、そして都洞15号から脱出した。
代官山にあるポータルの前には大使館や外務省の関係者が待っていて、セリック王子はすぐに病院に直行となった。
そして翌日、ティアはエーテルシュタイン王国の大使館に招待された。




