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#38「おねショタとかマジでないから!」

ヨーロッパの小国・エーテルシュタイン王国の第一王子、セリックを背負ったティアは都洞15号から脱出するために歩き続けていた。


肉体は常時発動《パッシブ》スキルで強化されているとはいえ、足場の悪い山岳地帯のダンジョンでは何度か石に足を取られそうになった。

さすがのティアも、疲労が蓄積していた。



そこで周囲にモンスターの気配がないことを確かめてから、ティアは休憩することにした。


背中から下りたセリックは、何度も落ちかけるまぶたを必死に持ち上げている。



「あの、ティアさん。少しここで寝させていただいてもよろしいですか? ずっとモンスターの襲撃に備えて起きていたので……」


「なんだよー、だったらあーしにおんぶされながら寝てればよかったじゃん」


「そんなことはっ! さすがにっ!」


「わーったよ、じゃあ起こしてやっからちょっと寝な」



セリックはなだらかな斜面で横になって目を閉じると、すぐに寝息をたてた。

ティアは彼の寝顔を見ながら、もし弟がいたらこんな感じなんだろうか? いやこんな良い子のはずはないか……などと思った。


そしてティアが自分の脚をマッサージしていると、熟睡しているセリックが寝言を言った。



「ティアさん……僕の妃に……」


「…………はい?」



王子のその寝言を聞いた視聴者たちが沸き立つ。



“王子様にプロポーズされてて草”

“結婚しろ! 国際結婚だ!”

“玉の輿きたああああ!”

“待て、相手は第一王子だぞ。玉の輿どころじゃねえ”

“ティアさん、王妃になっちゃうの?”

“いや、本人たちまだ出会ったばっかりだぞw”

“煮卵王妃……”

“必殺技が尿道オナデストロイヤーなお妃でいいのか?w”

“王子様がティアさんガチ恋勢だったの面白すぎる”

“王子の気が変わらないうちに動いて!!”

“とりあえず、つきあっちゃえ!”



ティアは少し場所を移動し、ドローンのカメラに人差し指を向けた。



「おめーらなあ、そのカプ厨脳なんなん? 子供じゃん? ぜんぜんそんな気にならねーし! そもそも……」



はじめての恋人が12歳とかありえない……と自分の過去の恋愛経験ゼロについてうっかり口を滑らせそうになったのを直前で止めた。



「おねショタっていうんでしょ? あーし詳しいよ。たしか……ええと、タイトルは『クソ生意気な黒ギャルメイドはショウ太郎様のいいなり玩具です』って作品に出たから! 12歳と24歳なんてロクなことになんないよ! いいなり玩具だよ!」



“いいなり玩具だよ! って言われても……w”

“最上ティアのおねショタ観が歪みすぎてるww”

“それ観た……めっちゃエロいやつだ……”

“珍しいドMティアさんの姿がやばい作品”

“いやいや、そうはならんだろwww”

“でも俺はティアさんが結婚したらショック受けるかも”

“王子様は失恋かぁ”



そんなやりとりを視聴者としていたティアは足音に気がついて振り返る。


そこにいたのは一つ目の巨人……サイクロプスだった。



身の丈は優に三メートルを超え、灰色の皮膚には無数の古傷が刻まれている。

肩にはティアの身体など簡単に押し潰せそうな巨大な鉄球が担がれていた。

鉄球から伸びる太い鉄鎖は、大きな手で握られている。


顔の中央にある巨大な眼球が、じろりとティアを捉えた。

しかし一瞥しただけですぐに斜面のほうに顔を向ける。



“おいおいおいおい”

“サイクロプス!?”

“とんでもないのがきた……”

“深層ボス並のやつだぞ、やっぱ都洞15号ってイカれてんな”

“ってか王子様まだ寝てるんじゃないのか?”

“王子狙われてる?”

“マズイマズイマズイ!!!!”



のんきなノリだったコメント欄が、一気に緊張と混乱に包まれた。



ティアは王子を守るために走りだしていた。

右手に聖剣ブリトニー、左手に魔剣ビヨンセを握って。

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