#37「白馬じゃなくて黒馬じゃん!」
白馬に乗った王子様が現れる。
それはティアが見た乙女チックすぎる恥ずかしい夢だが、正夢になってしまった。
彼女の目の前のセリックという少年は自分を王子だと名乗ったのだ。
“第一王子って……”
“エーテルシュタイン王国ってどこだっけ?”
“ヨーロッパの小国だよな、国土は狭いけど資源が多くて豊か”
“なんで王子様がこんな場所に?”
“ティアさんに会う日を夢にまで見てたって言ってたよな”
“っていうか日本語ぺらぺらすぎ”
“画像検索したマジでエーテルシュタインの王子だよ”
セリックは自分のことをティアに話した。
彼の国の王族は伝統的に狩猟を行う。そしてセリックはキツネやシカを狩ることよりもポータル内でモンスターを狩る事を好んだ。
現在12歳の彼は王子であり、ダンジョンシーカーでもあった。
彼は日本文化に興味があり、ずっと日本語を学んでいた。そんな日本からSSS級ドラゴン・ヴァルディアスをソロ討伐した女性シーカーが現れる。
その戦いの映像を観たセリックは、最上ティアに魅了されてしまったのだ。
「ですが……実はティアさんのことは詳しくは存じ上げません。僕はよくない情報に毒されないようにとインターネットなどの使用は許されていません。従者が用意してくれた映像くらいでしか知らないのです」
「え……あ……そ、そうなんだ」
「その映像のティアさんは本当に強くて……美しくて……」
“いまどきネットに制限あるって厳しすぎる”
“まあ変な思想に染まる可能性はなくなるけど”
“つまりティアさんの本業を知らないのか……”
“知ったらどうなるんだろ?”
“AV女優だって立派な職業だけどな”
“でも衝撃度はすさまじいだろう”
“しかも無菌状態で育てられてるわけだし”
“王子様なのに従者とかいないでひとりなの?”
「それで、なんで都洞15号にいたん?」
「我が国の大使館に訪問した際に抜け出しました。日本のダンジョンに入ったら、もしかしたらティアさんとお会いできるかもと……ずっと計画していたんです。ですがモンスターに脚を負傷させられてしまい、、それで途方に暮れていました」
「いやいや、それマズイっしょ? たぶんめっちゃ探されてるよ! たぶんゴミ箱の中まで探されてるよ! じゃあもう会えたんだし帰るぞ!」
ティアは腰を屈めて、セリックに背中に乗るように促した。
シーカー必須のパッシブスキルによる身体強化のおかげで彼女は少年くらいならば背負って歩くのは問題がなかった。
「ちゃんと掴まれよー、じゃあ立つぞー、よっこらせっく……なんでもない!」
「申し訳ありません。憧れのティアさんにこんな馬のような真似をさせてしまうなんて……」
「気にすんなよー、怪我してんだか……ら……はっ!?」
その時……最上ティアは気がついた。
――――たしかにあーしは白馬に乗った王子様と会う夢を見て、それは現実になったけどさ……もしかしてあーしは王子様と出会うお姫様とかじゃなくて白馬だったって事? 絶対そうだよね!? 白馬にしては黒いけど!
セリックを背負ったティアは自分が歩いてきた道を戻った。
すると、前方に二足歩行のオオカミ……ワーウルフが現れた。
「王子様ー、戦うから下ろすよ」
「あ、待ってください! 僕の魔法で倒せますのでそのままで結構です。あの程度のモンスターにティアさんのお手をわずらわせるわけにはいきません!」
セリックはティアの肩に伸ばした右腕を乗せた。
ティアは自分の右の頬に、ひんやりとした冷気を感じる。そしてセリックは右手から冷気魔法を放ち、命中したワーウルフを凍らせた。
ティアは魔法が使えない。
それでも、セリックの放った魔法が並外れたものだということは理解できた。
「だよね、王子ひとりでここまでこれたんだもんね。でも魔法すごくね?」
「はい。魔法の先生は、世俗的な情報……特に猥褻な情報に触れずに育ったことが僕の魔法の扱いにいい影響を与えているのではないか、と言っていました」
「ワイセツな情報に……触れずに……」
――――ちょっと待って!? それマジの話? ワイセツって魔法にダメなん? あーしワイセツコンテンツど真ん中だよ! どんなクソ審判でもボールって間違えないくらいストライクな18禁だよ!
ティアはがっくりと肩を落として、うなだれた。
セリックは「どうしましたか!?」と心配そうにしている。
“www”
“wwwwww”
“まさかそんなワナがw”
“いや、そんなわけ……あるの?”
“ティアさんすげえ顔していて草”
“ああ、でもそういう説あるよな”
“可能性はあるけど、現代社会じゃ検証できないんだよね”
“猥褻コンテンツ完全遮断とか、現代じゃ実験できねえw”
“30歳までに経験ないと魔法使いに……”
“ティアっち、魔法絶望説wwwwwww”
“じゃあ俺も魔法だめじゃん”
“俺も……”




