#36「そりゃ、放っておけないでしょ」
ティアは右手にブリトニーを、左手にビヨンセを握って、駆け出した。
ビヨンセはまだナイフサイズのままだ。
並んでいた二体のトロールが金属の盾を構える。
ティアはひるまず右手の聖剣ブリトニーを一体に突き出した。
刀身は盾をあっさりと貫通し、そのままトロールへと突き刺さる。
素早く剣を引き抜き、もう一体にも同じように突き刺す。
巨体はぐらりと傾き、次々に地響きを立てて倒れた。
“おおおおおおおおお”
“はやいっ!”
“やっぱブリトニーは国洞20号で相当鍛えられてるな”
“盾の向こうの弱点を一撃かよ”
背後からグリフォンが急降下してくる。
「これでっ! おわりっ!」
ティアは残る一体のトロールにブリトニーを突き刺す。
それと同時に、上半身をひねりながら左手のビヨンセを振ると刀身が一気に7メートルくらいまで伸びた。
三体のグリフォンの翼も爪も、ビヨンセにまとめて斬られる。
トロールは倒れ、グリフォンは落ちる。
谷道を塞いでいたモンスターたちは、あっという間に全滅した。
「左腕も右腕と同じように使えてるよ! ビヨンセだとトロールの盾は厳し目だったからブリトニーの突きでグサっと! 距離があって複数のグリフォンはブリトニーだと厳し目だったからビヨンセの薙ぎ払いでバシュっと! やっぱ二刀流、最高じゃん! めっちゃ映えるっしょ?」
聖剣ブリトニーを鞘に、縮んだ魔剣ビヨンセをナイフケースに納めたティアは、エクステでつけたウェーブのかかったブロンドの髪をかきあげる。
“ヤベえ……”
“なんだよそれ……”
“最初からビヨンセを伸ばさなかったのは警戒されるから?”
“だろうね、だからグリフォンは無警戒で飛び込んできた”
“相手に合わせて使い分けたんだね”
“ラストのトロール突きとグリフォン斬りのポーズがカッコ良すぎる”
“宮本武蔵的な攻守の二刀流というより攻攻の二刀流だったなw”
その後、ティアは転移ポータルを見つけて入り、次の「箱庭」に移動した。
抜けた先はさっきの場所にはなかった草がところどころ生えてはいたが、ほぼ同じような山岳地帯だ。
現れるモンスターを二刀流で倒しながらしばらく歩くと、小さな岩に腰掛けている男の後ろ姿が見えた。
ティアは驚く。
男……ではあったが、それはあきらかに子供の体格だったからだ。
“子供!?”
“こんなところにひとりで?”
“ここまでに出てきたモンスターを倒してきたって事?”
“ショートカットの女の子かも”
“パーティーからはぐれたとか?”
“何してるんだろう?”
ティアが小石を踏む音に気がついた少年は振り返った。
軽量のアーマーを身につけた華奢な少年は12歳くらいに見えた。
風にそよぐ茶色の髪は少しカールしていて、瞳はこのポータル内の空のような青色をしている。
その顔立ちはどこか気品のようなものを感じさせた。
彼はティアを見て目を大きく見ひらき、口をポカンとひらく。
――――おおおお! 美少年だ! でも外国人?
およそダンジョンに似つかわしくないこの少年にティアは驚く。
これが大人のシーカーだったらちょっと挨拶をして通り過ぎるだけだったが、こんな少年がひとりでこの高難度ダンジョンにいるのは誰が見てもおかしかった。
さすがに放っておくわけにはいかない。
ティアは身振り手振りでなんとかコミュニケーションをとってみようとする。
「ええと……ハロー? ハウアーユー?」
「最上ティアさん……ですよね……」
「おおっ!? なんだよ、日本語できんじゃん! そうだよー、最上ティアお姉さんだよー」
「信じられません……こんなことが本当に……」
少年は少し脚を痛そうにして立ち上がり、白い手袋をはめた震える右手を自分の胸に当てた。
それは品のある仕草であったが、同時に胸の鼓動を抑えているようにも見えた。
「エーテルシュタイン王国の第一王子、セリックです。僕は……僕はあなたとお会いできる日を夢にまで見ていました」
「…………はい?」
謎の少年は――――王子様だった。




