#31「ピストルってありなん?」
ヤシの木が激しく揺れるほどの嵐が吹き荒れる中、ティアは滞在しているホテルから車で5分ほどの場所にあるポータルに入った。
黒い岩壁に無数の小さな穴が開き、まるで巨大な軽石を削って作ったようなこのダンジョンの中は外の激しい雨音は全く聞こえず、静けさに包まれていた。
ティアはブルー系のチューブトップにダメージデニムという格好だ。
腰には、間違えて持ってきてしまったダンジョン用ポーチをつけている。
コーディネイターのカマチョが用意したレンタル配信ドローンを宙に浮かべる。
これから行う配信は1時間前に告知済みだった。
「ハロー! 最上ティアだよー! 今回はなな、なんと! 海外のダンジョンから配信してるぞー! ついに海外進出だぞー! あとこのおっちゃんはガイドのカマチョさんだぞー!」
「はじめまして、カマチョでーす! 好物はココナッツカレーでーす!」
彼女がAV撮影のために訪れていたこの南国の島では、国外からの旅行者はダンジョンガイドと一緒でないとダンジョンには入れないという決まりが存在した。
カマチョはそのダンジョンガイドの資格を持っていたので、ティアと一緒に潜る事になったのだ。
“キター”
“ティアちゃんー!”
“ハロー!”
“外国?”
“海外ってどこー?”
“ガイドが必要って事は米国領の島かな?”
“なんか陽気そうなオッサンだw”
ティアとカマチョはカレーの話で盛り上がりながらダンジョンを進んでいった。
そんなかなりユルいノリのふたりは遠くにモンスターを見つける。
緑色の毛の巨大な猪――キラーボアだ。
しかも一頭ではなく群れだった。
ティアは腰にさげている鞘からカマチョが用意してくれたレイピアを抜いた。
それはかなり作りが良く、刃はしっかりと研がれていた。
大きな牙を持ったキラーボアの群れが突進してくる。
ティアはその群れに突っ込んでいった。まるで車の列に向かって逆走する無謀運転の車のように。
「はい、そこー!」
レイピアに頭を貫かれたキラーボアが、土埃をあげながら倒れた。
残ったキラーボアたちがティアを取り囲み、いっせいに突進してきたがレイピアが閃くたびに大猪が一頭、また一頭と倒れていく。
ズブッ!
最後の1頭の首の付け根をレイピアが貫いた。
“おおおおおおおおお!”
“すげえ……”
“全頭の動きを見切ってたよな”
“メタクソかっこいい”
“あまりにアッサリでキラーボアが中堅モンスって感じがしない”
“背後からの突進も難なく避けるのヤバすぎる”
“あれ? レイピアがいつもと違う?”
“武器は持ってきてなかったのか、じゃあこの配信は予定外?”
「今日は聖剣ブリトニーじゃないからどうかなーって思ってたけどこれイイ感じだよー。問題なく倒しまくれそう!」
「ティアさん、すごいネー!」
現れたモンスターはキラーボアだけではなかった。
何匹ものポイズンバットが頭上を飛んでいる。
少量でも命を落とす危険性がある猛毒の牙を持ったコウモリだ。
ポイズンバットに襲われて全滅したギルドは意外と多く、小さいが油断できないモンスターだった。
「ティアさーん、ここは私に任せてくだサイ。ちょっとウルサイかもだから耳は塞いでくださいネ」
「えっ? うるさいって?」
カマチョは腹のあたりに手を入れた。
サーフボードが描かれた黄色いアロハシャツの裾から取り出されたのは、一丁の黒い拳銃だった。
パァンッ! パァンッ! パァンッ! パァンッ!
そしてあまりにも手慣れた動作で撃ち、ポイズンバットを撃ち落としていく
“!?”
“発砲したぞw”
“カマチョさんKOEEEEE!”
“動いてる標的に当てるって相当な腕前だな”
“元軍人?”
“日本国内だとありえない光景”
“スライド形状的にP320かも”
“SIG Sauer P320 Compactっぽいな”
“銃オタ湧いてきたなw”
ティアは手で耳を塞いでいたが、それでも耳の奥がツーンとするような感覚になった。
銃を構えているカマチョの顔はいつもの人懐っこい感じとは全然違っていた。
――――へえ、あんな真剣な顔もするんだ。
人って、やることによって顔変わるんだなー。
……まあ、あーしも人のこと言えないけど。
ポイズンバットをすべて倒し、ふたりはダンジョンを進んでいった。
カマチョの道案内でどんどん深く潜っていく。
そして通路のようになっている細い穴を抜ける直前、カマチョが足を止めた。
「この先は危ないよー。魔鉱石があるみたいなんだけど、上にいるモンスターがとても強いからネー。みんな全力で走って抜けてるよー」
ティアは通路の出口から、ほんの少しだけ顔を出した。
そこはこれまでで一番広い空間で、上空には3匹の飛竜が旋回していた。




