#30「やったー! 南の島で撮影だー!」
撮影スタッフと出演者を乗せた飛行機は成田空港から南太平洋の島へと向かった。
ティアは仕事としてははじめての海外だった。
以前は南国の美しいビーチで撮影をするAV作品は多かったが、現在は減少傾向にあった。通貨としての円が弱くなってしまったのが理由としては大きい。
抜けるような青空に真っ白な雲。
コバルトブルーの美しい遠浅の海。
さらさらに砕けた珊瑚によってできている砂浜。
貸切で人が入ってこれないビーチでは、最上ティアの絶叫のような声が静かな波の音と混ざり合っていた。
「はい、オッケー! ティアちゃんおつかれさまー!」
モニターから顔を外した監督が大きな声で撮影終了を告げる。
砂浜に敷かれたシートの上で仰向けになって「はあ、はあ」と浅い呼吸をしている最上ティアへバスローブを抱えた助監督が走る。
「ティアちゃん、最高だったよ。これまでより一段階レベルアップしたって感じ」
「マジっすか、監督!? よかったー!」
ティアは立ち上がって浅黒く焼けている太ももやふくらはぎについた白い砂を手で払うと、眩しそうに海を見つめた。
「あーし、ぶっちゃけ最近有名じゃないっスか? そのおかげでAVも売れまくってるみたいだけど……観た人に「話題になってるだけでティアってあんまエロくないよな」なんて思われたらシャクだしねー」
「AVは本業、配信は趣味」と考えているティアには、AV女優としての矜持のようなものがあった。
これで予定していたシーンはすべて撮り終わり、あとは明日の朝に飛行機に乗って帰国をする。
スタッフと談笑していたサングラスにアロハシャツの男性にティアは近づいた。
「カマチョさん、今回は色々とお世話になりましたー! 今日のランチ食べたレストランも美味しかったよー!」
「ティアさーん、マタ仕事で会いにきてネー」
小太りでティアと同じくらい浅黒い肌の色をした現地人男性のカマチョは、コーディネイターを仕事にしていた。
食事やホテルや車両やこのビーチはすべて彼によって手配されたものだった。
彼はこの島を知り尽くしていて、必要なものならば何でも用意する事ができた。
カマチョは鼻をクンクンとさせてから風で揺れる椰子の木を見て「うーん」と唸る。
「ちょっとー、天気悪くなりそうネ」
「えっ? こんなに晴れてるのに? うそでしょー?」
そのカマチョの予想は的中し、夜中から強くなりはじめた雨と風は翌朝には暴風雨に変わり、帰国便は欠航となってしまった。
ホテルのロビーで退屈そうにしているティアのもとにコーディネイターのカマチョがやってきた。
「ツイてなかったネー、デモ明日には帰れると思うよー」
「めっちゃ暇なんスけど、どっかで遊べないスか?」
「マリンスポーツは無理だしー、カラオケとかビリヤードとか他には……あっ!」
カマチョは指をパチンッと鳴らした。
「ティアさんって有名なダンジョンシーカーだよネー? このホテルのすぐ近くにポータルあるけど潜りマスカ? ダンジョンの中だったら天気関係ないよー」
「マジ? それいいじゃん! でもあーし武器持ってきてないし、っていうかそもそも飛行機はナイフも持ち込めないけど。間違ってキャリーケースに入れてきちゃったダンジョン用ポーチしかないよ」
カマチョは親指をサムズアップして、歯を見せて笑った。
「私はコーディネイターだよー。どんな武器でもすぐに用意するよー。もし配信用ドローンもあった方がいいならそれもノープロブレムよ」




