#29「パチ屋のイベント行ってくるー!」
開店一時間前。
大型パチンコ店「テラパーラー亀有」の前には、すでに長い行列ができていた。
店の前には、ティアの顔写真が大きく印刷された看板が設置されている。
『セクシー女優・最上ティア来店! 生誕祭! 来場者様プレゼントあり』
パチンコ店では「新規客獲得」を目的にAV女優を呼ぶ事が多く、このようなイベントは数少ない女優とファンの交流の場でもあった。
今日のイベントはティアがダンジョンシーカーとして有名になる前から決定していたものだったが、彼女がバズってから店側はポスターを作り直して宣伝も大々的に行った。
その情報が告知されてから、SNSでは「絶対に見に行く」「朝から並ぶ」といった投稿が相次いでいた。
やがて開店時刻になると入口の自動ドアが開き、客が次々と店内へ流れ込んだ。
開店からしばらくして、無数のパチンコ台とパチスロ台が並び電子音や玉の音が絶え間なく響く店内にスタッフに付き添われたティアが姿を現す。
その瞬間、あちこちから歓声が上がり、スマホのシャッター音が鳴った。
そしてマイクを握ったティアの姿を近くで見ようと、店内の一角に人が集まる。
「どうもどうもー最上ティアでーす! すっごい人が集まってるからマジびっくりしたよ。こんな事これまでなかったもん。っていうかさ、来場者プレゼントが味付け煮卵って何よ!? 卵じゃ生誕祭っていうより復活祭じゃね?」
ティアの意外な教養に、店内からは笑いと驚きの声が上がった。
「そこっ! なんかキモいからあーしを眺めながら煮卵舐めるの禁止! そもそも食うのも猟奇的だから禁止! もっとこう……ないのぉ? 煮卵以外にさぁ!」
ティアはその後、指定された台に座って実際にパチンコを打った。
スタッフや撮影担当者が近くで様子を確認するなか、一般客と同じように遊技を続けていく。
時折、近くを通る客に手を振ったり、カメラに向かってポーズを取ったりした。
――――みんな、最上ティアに会いたくてわざわざ朝から並んでたんだよね。なんか……こういうの、普通に嬉しいじゃん。
しばらくすると、店内放送が流れる。
それはファンサービスの時間が近づいたことを知らせる案内だった。
専用のスペースでツーショット撮影とサイン。
時間を区切りながら、一人ずつティアの前へ進んでいく。
ティアより若く大学生くらいに見える青年はかなり緊張しているようだった。
「ティ……ティアさんのこと知ってから作品も見るようになりました。いまは大ファンです。お、お聞きしたいのですが、なんでダンジョン配信始めたんですか?」
「普通にゲーム好きだからだよー。だってダンジョンってリアルゲームみたいで面白いじゃん? てか、なんでそんなに離れてんのよ? もっと近づいてツーショット撮ろうよ!」
男性だけでなく女性ファンもイベントには来ていた。
花柄のスカートを履いた女性は、「誕生日プレゼントです」と言って可愛らしくラッピングされたチョコレートをティアに手渡した。
「うわ! マジうれしー! 大事に食べるね!」
「あのう、私はティアさんが世界最強だと思ってるんですけど、ティアさんって自分が世界最強だという自覚はありますか?」
「う〜ん、他のシーカーと戦うわけじゃねーし、できない事も多いしなぁ。でも、もっと強くなりたいって気持ちはあるよー!」
ひとりひとりと会話を交わし、予定されていた滞在時間が終わる。
ティアはスタッフに付き添われて店を出た。
マネージャーと乗ったタクシーの中からティアは、見送ろうと外に出てきたファンが小さく見えなくなるまで手を振った。
「ティアさん、おつかれさま」
「楽しかったよー! パチンコは大負けしたけどー! あはは!」
「ところで、次の撮影なんですが……」
ティアは一時期仕事が激減していた。
しかし今は複数メーカーからの出演オファーが殺到していて、仕事を選べる立場になっていた。
「ティアさんの要望が通りましたよ」
「え? マジ? マジのマジ?」
「はい、海外です。南の島で撮影です」




