#26「ってか、ボスはこっちだし!」
「ちぇすとおおおおおおお!!!!!」
ティアは右腕に力を込めて聖剣ブリトニーを突き刺した。
それは“霧の魔人”ではなく、魔人が握っているロングソードに向かって。
ポキンッ!
ロングソードがどんな素材で出来ているのかは不明だ。
ただブリトニーが折れてしまった事からその硬さは相当なものだとはわかった。
刀身が半分になったレイピアを握ったまま、ティアは“霧の魔人”から逃げるようにして退がった。
予想外のティアの行動に困惑するコメントが流れていく。
"へ、はああああ!?"
“ロングソードに攻撃?”
"モンスターじゃなくて武器に?"
“なぜ?”
“あのう……ティアさんは何を……”
“煮卵様ご乱心”
“????”
“ブリトニーまた折れたぞ”
音もなく、“霧の魔人”がゆっくりと歩き出す。
巨大なロングソードが、ティアに向かって振り下ろされた。
ティアは剣の軌道を読むと、難なく横へ飛び退いた。
ザンッ!
剣が触れた瞬間、地面が深々と切り裂かれる。
その切断力は凄まじいが――遅い。
この攻撃の間にティアのレイピアの刀身は、合成されているヴァルディアスの心核による再生能力によって復活した。
「思ってたより硬くて折れちゃったけどぉ、これであーしの聖剣ブリトニーは次はロングソードを貫ける強さになってるよー!」
少し距離を取ったティアは右腕を上げ、以前よりも黒光しているレイピアの剣先を“霧の魔人”に向けた。
「この“霧の魔人”ってやつさ、動きも読めないし弱点も読めなかったじゃん? そこであーしは気がついたんよね。なんで読めないのか……それはこいつが《《モンスターじゃないから》》だろうってさ」
コメント欄が「え?」「は?」という文字で埋まる。
ティアは次は剣先を“霧の魔人”が握っているロングソードに向けた。
「この《《ロングソードがここのボスモンスター》》なんだよー! “霧の魔人”はロングソードにとって自分を動かしてくれる乗り物みたいなもんなの! ロングソードがモンスターだって気がついてじっくり見たら弱点もわかったし! あーしすごい!」
ティアは走り出した。
“……マジ!?”
“武器だと思っていたのがボスでボスだと思ってたのが乗り物!?”
“だれか一年戦争でたとえてー”
“ロングソードが魔法的な何かで霧の魔人を動かしてるのか?”
“ボスと武器が逆だったってことか……”
“衝撃的すぎる”
“霧の魔人”はまたロングソードを振り下ろす。
ティアはそれを避けて、地面を叩いた直後のロングソードにレイピアを突き刺す。
「言っとくけどぉ!! 令和のギャルはマジ最強だからぁ!! 霧の魔人とか一撃で倒せちゃうんだっつーの!!!!!」
聖剣ブリトニーの剣先が、巨大なロングソードの刀身を貫いた。
ギィィィィンッ!!!!
甲高い音が遺跡全体に響き渡る。
刀身に亀裂が走り、それは瞬く間に全体へと広がっていった。
……そして。
バキィィィィィィィィィィィンッ!!!!
ついにロングソードが砕けた。
地面に散らばったロングソードの破片が、ドロリと黒い液体へ変わっていく。
そして、そのまま地面に染み込むように消えていった。
「うわっ、なにこれ!? じゃあこのスライムみたいなのがロングソードに化けてたって事なん?」
すると今度は“霧の魔人”の巨大な身体を形作っていた霧が、内側から弾けるように崩壊した。
ドォォォォォォォォンッ!!!
大量の霧が遺跡中へと広がり、ティアの身体も一瞬で白い霧に包まれる。
そして最初にこのフロアに来た時と同じように、濃い霧が立ち込める遺跡の中で立っているティアの姿だけが残った。
「いやー、パないくらい強すぎてマジごめん! おめーら、あーしのこともっと褒めてもいいぞー! 崇めてもいいぞー!」
ティアはチン、とブリトニーをデコりまくりの鞘に納めた。
“なんか調子に乗りはじめたぞw”
“イキっても許される”
“崇めます!”
“未討伐だった霧の魔人はそもそもモンスターじゃなかったって……”
“衝撃的すぎる”
“過去の挑戦者は本当のボスには気が付かずに霧を攻撃していたのか”
“そりゃ気がつくわけないよ”
“ロングソードに擬態してたモンスターってなんだ?”
“黒いスライム……水銀っぽい感じだった”
“マジで倒しちゃったよ”
“ティアさん、カッケー!”
“今回のバトル、また世界中の研究家が検証しまくるな”
黒いボールのようなものがコロコロと転がってきてティアのブーツに当たった。
それはロングソードに擬態していたモンスターの心核だった。




