#25「霧の魔人……弱点ないじゃん」
階段を降り切った最上ティアは腕時計を見た。
ダンジョン深度測定機能がついているその腕時計に表示されている深度は34。
国洞20号における、過去のシーカーが到達した最深記録地点である。
この階層もこれまでと同じように東南アジアの遺跡を思わせる雰囲気だ。
苔むした石像や崩れかけた石造りの建物が並び、まるで何百年も誰にも触れられていないような静けさに包まれている。
これまでと違う部分もある。
通路の幅がかなり広く天井も高い。そしてまるでコンサート会場のスモーク演出のような濃い霧が立ち込めていてとにかく視界が悪かった。
――――でもこの霧って、もうすぐ消えるんだよね。
この階層に現れる“霧の魔人”について、ティアは予習済みだった。
過去に挑んだシーカーと“霧の魔人”との戦いがネットにアップされているので、それを観てから潜っていたのだ。
しかしティアが得意とする「敵の弱点を見抜く」「敵の動きを読む」に関しては映像を観ただけではダメだ。実際に目の前にいないとわからない。
……そして、はじまった。
霧が一箇所に向かって動きはじめる。
それはまるで巨大な何かが、周囲の空気ごと吸い込んでいるかのように。
立ち込めていた霧が集まる事で視界もよくなってくる。
渦を巻いている霧の下にはロングソードが転がっていた。
それは人間は扱えないあまりにも巨大な鉄の剣だった。
渦はやがて巨大な人の輪郭を形作っていく。
まるで鬼のようなスケールの霧でできた白い巨人は、ロングソードを拾い上げた。
「おめーら、“霧の魔人”出てきたぞー! ってかさ、なんで霧が剣みたいな重いもん持てんのか謎すぎね?」
ティアは鞘からレイピアを抜いて、“霧の魔人”を観察しはじめた。
どう動くのか、どこが弱点なのかを探る。
“たしかに謎だ”
“でっけえ”
“3メートルくらいある?”
“もっとあるかも”
“魔人もデカいけどロングソードもイカれたデカさ”
“ティアっちの観察タイム”
“あの霧の体は剣が効かないんだよな”
“以前挑んだシーカーの魔法攻撃も駄目だった”
“どうやって倒すん?”
“ティアさんには「読み」があるから大丈夫でしょ”
“こいつを倒せば記録更新はすぐだー!”
これまでのティアの戦いを観てきた視聴者は、心配する声も多少はあったが基本的には楽観ムードだった。
しかしティアは眉を歪ませて、あきらかに困惑した表情だ。
「う〜ん、あのさぁ……」
10メートルほど先にいる“霧の魔人”には目も鼻もない。
そのただ霧が集まっているだけの顔を、ティアはじっと見つめた。
「……こいつがどう動くかとか、弱点がどこかとか全然わからない。つーか、弱点とかないっぽし」
その言葉にコメントは驚きの反応を示す。
“????”
“弱点がない?”
“勝てないと先に進めない、でも弱点はないって……”
“無理ゲーじゃね?”
“無視して下への階段目指したらよくね?”
“ティアさーん! そいつはスルーしましょー!”
“過去のシーカーそれやって無駄だった”
“下への階段はない”
“霧の魔人倒さないと階段はたぶん出てこない”
ティアはレイピアを握った右腕をまっすぐ後ろへ伸ばした。
剣先は背後を向いている。
そしてそのまま地面を蹴り、“霧の魔人”へ向かって走り出した。
“え?”
“ちょ”
“いやいやいやいや”
“やけっぱちだめー!!!!”
“無茶すんな!”
“オワタ”
“止まって!!!”
誰もが無謀な突撃だと思った。
しかし彼女の顔には勝利を確信した者の笑みが出ていた。
「動きも弱点もわからないけどさ……でも、あーし、わかったよー!」




