#14「カタツムリにはシオだっけ?」
「このカタツムリ、デカすぎてキモッ! っていうか蝶だろうとエビだろうとデカすぎたらキモいけどさ」
最上ティアの前には、トラックほどもあるでっぷりと太った巨大なカタツムリがいた。
大きな殻を背負い、その表面にはひび割れのような模様が走っている。
二本の長い触角の先には黒い目があり、ぬらぬらとした粘液を地面に垂らしていた。
“ジャイアントスネイルだ”
“珍しいのが出たー!”
“かなりの大型種だな”
“これってレイピア効くか?”
“殻はかなり硬かったはず”
“攻撃力はそこまでだけどとにかく倒しにくいやつ”
“ティアちゃん動かないでじっと見てる”
“ときどき暗殺者みたいな顔になるよな”
“笑顔もいいけど真剣な顔も好きー”
ティアはジャイアントスネイルをじっくり観察した。
そこを突けば倒せそうなポイントは把握できたが、厚い肉のせいでレイピアの剣先を到達させるのは難しそうだった。
大きすぎるのだ、もう少し小さければ一撃で簡単に倒せただろう。
「たしかカタツムリとかナメクジってシオで縮むよね? シオならまあまあ出せるけど……いやいや、ダメかっ!」
“ダメに決まってるww”
“笑”
“何のシオだよwwww”
“そっちの潮じゃねーよwww”
“モンスターも困惑するわww”
“wwwwwwwwwwwww”
“塩分はあるかもだけど……”
“さすがに足りないwwwww”
“現実にはモザイクなんてないぞ!”
“永久BANされたいのか!?笑”
ティアは少し道を進んでから振り返った。
ジャイアントスネイルはのろのろと後をついてくる。
「なんか思ったんだけどさ、倒す必要なくない? キモいしメンディーからスルーするわ。つーか腹減ってきたからどっかでもぐもぐタイムにしまーす! くっそ不味い携帯食だけどねー」
“でもそいつの心核は価値ありますぜ”
“ジャイアントスネイルの心核はめっちゃ貴重食材らしい”
“食えるの? ドロップアイテムを?”
“あのカタツムリの心核は素材というよりは食材”
“うますぎて飛ぶって聞いた事ある”
“あーたしか中東の石油王が食べたとか”
“一食分で億超えって噂”
“気持ち悪いけどよく考えたらエスカルゴってあるしね”
“食ってみてー”
“ジャイアントスネイルの心核はすぐに腐る”
“腐るからその場で食うしかない究極のダンジョン飯”
「マ? そこまでうまいん? そんなん聞いたらなんか俄然やる気が出てきたんですけど! おめーらパチこいてねーよな?」
ティアがレイピアを抜いた瞬間にぐーっと腹の虫が鳴った。
和牛ステーキみたいなのか大トロみたいなのか、どんな味がするのかを想像しながらジャイアントスネイルへと向かっていく。
そして、ジャイアントスネイルの正面に立った。
次に何が起こるかなんて、もう分かっている。
――――むっちゃヤダけど、他に方法ないしなー。
ジャイアントスネイルが大きく歯のない口を開ける。
パクっ!
ティアの上半身は飲み込まれた。
“ふぁっ!!!???”
“食われた!?”
“ええええええええええええ”
“貴重な煮卵が……”
“わざと……だよな?”
“食われたというより食われにいったというか”
“大丈夫?”
“内部から刺すつもりじゃね?”
“でも普通そんなことできねーよ!”
“ティアならやりそうなのが怖い”
“たぶん消化されるまでに倒せるのが分かってるのかも”
“分かってたとしてもすげえ勇気……”
“食い意地とんでもねぇな”
デニムのミニスカートの下半身が巨大カタツムリの口からはみ出ている。
ティアの長い脚はバタバタと激しく動いた後にだらんと止まった。コメント欄には心配する書き込みが大量に流れる。
その次の瞬間、フライパンの上のバターのようにジャイアントスネイルがドロドロに溶けていく……殻だけを残して。
「ぶはぁぁぁぁ! 空気のこと考えてなかったぁぁぁぁ! 息できなくて死ぬかと思ったわ! 三途リバー見えたわ! あっぶねー!!!」
ティアは両手を膝の上に置いて、ぜえぜえと荒い呼吸をしている。
“アホやwwwwww”
“最上ティアの弱点・酸素がないと死ぬ”
“消滅したって事は完全に倒してはいるのか”
“体内に入ったからって一撃では倒すのは普通はできない”
“心配したー!!”
“ジャイアントスネイル討伐映像ってなにげに貴重”
“飲み込まれてる時なんかヤバイ扉が開きかけた”
“俺も……”
“ようこそ、VOREという丸呑み倒錯フェチの世界に”
そして上半身ぬるぬるのティアは、マンゴーサイズのジャイアントスネイルの心核を拾い上げて高く掲げた。
「よっしゃー! 取ったどー!!! じゃあ次は料理配信だー!!! 料理できねーけど!!!」




