#11「ケツ、ギネス認定されんじゃね?」
最強のドラゴンを倒したのが大人向けビデオの女優だと判明し、その衝撃はとんでもない勢いで広がっていった。
これが会社員だったら、ここまでの盛り上がりはなかったかもしれない。
AV女優で、さらに煮卵みたいなケツが正体判明の決め手だったのがネタとして扱うのに面白おかしすぎた。
「あーしのケツ、世界で一番見られたケツってギネス認定されんじゃね?」
ネットを巡りながら最上ティアは独り言を呟いた。
匿名掲示板やSNSには最上ティアの名前が溢れまくり、自身の配信チャンネル「アゲぽよギャルさんぽ」の登録者も猛スピードで増え続けている。
仲の良いAV女優たちから通話着信やメッセージがガンガンくる。
それらにいちいち対応するのもダルかったので、ティアはスマホの電源を切った。
まさか……と思いカーテンを少しだけ開けて外を見ると、自宅マンションの下にはどうやってここを探し当てたのか記者らしき連中が張っていた。
「うわっ! マジ!? 明日のゲームイベント無理じゃん? 振り切って逃げても会場でバレたら騒がれる? ゲーム会社の人とかゲストの声優さんに迷惑かかるからいけねーじゃん! いやいや、諦めねーからっ!」
ティアはメイク用品と服をお急ぎ便でネット注文した。
そして翌日の午前に、それらが届く。
ドレッサーの前に座るといつものギャルメイクとは違う化粧を始めた。
まずはトーンアップ系の下地を薄く伸ばし、焼けた肌の色を少しだけ明るく整える。
その上から明るめのファンデーションを薄く重ねた。
眉は細くしすぎず、自然な形に整える。
アイラインも控えめにして、まつ毛は軽く上げるだけ。
チークをほんのり入れて、唇には淡いピンクのリップ。
仕上げに洗い流せば元に戻せる黒のカラーワックスを髪全体になじませる。
金髪は綺麗な黒髪へと変わった。
服はギャル化してから一度も着たこともないような、上はブラウスにカーディガンを羽織り、下はシフォンプリーツスカートの清楚系の格好だ。
ティアは姿見の前で変な笑い顔になった。
「自分で見てあんた誰よ……って感じ。よし! これで絶対にあーしだってバレないっしょ! たぶん!」
マンション正面のエントランスから堂々と出ると記者は身構えた。
しかし最上ティアではなかったとすぐにガッカリしたような顔になる。
変装は成功だった。
しゃなりしゃなりと記者の前を歩くティアはすまし顔だが、内心はかなりドキドキしていた。
そしてイベントを心ゆくまで楽しんでから物販コーナーの列に並んでいる時に、自分のすぐ前から「あの煮卵の」とか「最上ティアが」という言葉が聞こえてきた。
――――その煮卵はすぐ後ろにいるっつーの。
こうやってリアルで会話に出ているのを実際に聞くと、ネット上でバズりを見ている時よりも自分が信じられないくらい騒がれている事実を実感できた。
両手に限定グッズを入れた紙袋を持って上機嫌のティアは、イベント会場近くの駅前広場のベンチに腰掛けた。
老若男女、日本人に外国人、駆け足の人ゆっくり歩く人……様々な人々が自分の前を通り過ぎていく。
――――通り過ぎる人たちはここに座ってるあーしが誰なのか気にもかけてない。
SSS級ドラゴンを倒す映像が多くの人に観られ、さらにその影響で自分の出演AVも多くの人に見られ、ギャルの姿をした「最上ティア」は今や有名人だ。
バズってからの彼女の一番の心配は、今後普通の生活が今後送れなくなるのでは……という事についてだった。
最上ティアは、所属事務所と「パブ制限あり」の契約を結んでいた。
パブとはパブリシティの略であり、彼女は雑誌やテレビなどマスコミ媒体への出演をできる限り抑える取り決めをしていた。
彼女は、目立つことそのものが嫌いなわけではない。
ただ、「あれ、最上ティアじゃない?」と私生活で注目されるような状況は、そもそも望んでいなかったのだ。
けれど今の姿なら、いくらネット上で話題になろうとも関係なく行動できる。
そのことに気づいたティアは、ひとつの決断をした。
――――外に出る時は山寺佐紀、ダンジョンとAVは最上ティア。これでよくね?
ティアはバッグからスマホを取り出した。
そしてAV女優用のSNSと配信用チャンネル「アゲぽよギャルさんぽ」に、次回のダンジョン配信の予定を同時に投稿した。




