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エロゲ転移『エロゲ世界に迷い込んだ史上最年少の阿闍梨、断罪寸前の悪役令嬢を救ったら攻略対象全員の様子がおかしくなりました』  作者: 常陸之介寛浩✪書籍・本能寺から始める信長との天下統一


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第81話 本機構起動――王都が“正ヒロイン決定モード”に入ります

最初のダンスで王道を外されたあと、選定夜会の空気はむしろ濃くなった。


 九十九院霊真は、大広間の中央から少し外れた位置でその変化をはっきり感じていた。


 王子アルフレッド・ルミナス・エーヴェルシュタインは、最初の一曲を主役候補席から選ばなかった。

 リリアーナでもなく、

 ミレーユでもなく、

 セレスティアでもない。


 それは王都本機構にとって、明らかな“期待外れ”だったはずだ。

 王道の最初の分岐。

 最初の意味づけ。

 最初の“誰が中心か”の提示。

 それを王子自ら、儀礼のほうへずらしたのだから。


 ならば本機構が諦めるかと言えば、当然そんなわけがない。


 むしろ今、

 会場全体が少しずつ、

 だが確実に、

 もっと露骨な補正

 のほうへ入ろうとしていた。


「……来ますわね」


 ミレーユ・セラフィナが、静かな笑みを浮かべたまま小さく言う。


「はい」

 と霊真。

「かなり」


「その“かなり”が、だんだん恐怖の合図みたいに聞こえてきました」

 とリリアーナ・フェアミント。


 それはたぶん、今の夜会においてかなり正しい感覚だった。


 大広間の照明が、ほんの少しだけ変わる。

 楽師の旋律も、先ほどより一段ゆるやかで甘いものへ移る。

 人の立つ位置。

 語り合う距離。

 給仕がグラスを差し出すタイミング。

 その全部が、

 “誰と誰が並ぶと最も意味を持つか”

 を強調する方向へ寄り始めている。


 霊真には、床の下から伝わる脈動が少しずつ強まっていくのが分かった。


 王都本機構。

 学園地下機構やローゼンベルク家の婚約補助式を束ねる側にある、本来の演算中心。

 それが今、選定夜会そのものを使って、本気で“誰が正ヒロインか”を定めに来ている。


「……いよいよですわね」

 とセレスティア・フォン・ローゼンベルクが言った。


 今の彼女は、主役候補席・第一列という最悪に意味の重い位置へ置かれている。

 悪役令嬢として落とされることもできる。

 逆に、本命候補として押し上げられることもある。

 王都本機構にとっても、最も扱いに困る札だ。


 だが、その厄介さゆえに、今夜の中心の一人でもある。


 セレスティアの赤い瞳は、今はもう怯えより警戒の色が強い。

 実家イベントも、

 地下祭壇での役割固定も、

 そして王都高位サロンでの見世物化も越えてきた彼女は、

 この夜の悪意を最初から正面から見ている。


「王都が本気で“決める”つもりなら」

 と彼女は静かに言う。

「こちらも本気で壊すしかありませんわね」


    ◇


 その最初の兆候は、視線の誘導だった。


 王都の貴族たちが、今まではただ主役候補席の三人――リリアーナ、ミレーユ、セレスティア――を比較していた。

 だが本機構の出力が一段上がった瞬間、その“比較”がもっと明確な方向を持ち始める。


 まず、リリアーナへ向く視線が一気にやわらかくなった。


 それは単なる好意ではない。

 庇護したくなるような、

 守りたくなるような、

 王子の隣で一番“美しく選ばれそう”に見える光の当たり方だ。


「……っ」

 リリアーナが、小さく息を呑む。


 彼女自身も感じたのだろう。

 ただ見られているのではない。

 会場そのものが、自分を

“本来ヒロインっぽく”

 見せようとしている。


 淡い桃色のドレスの色味が、照明でさらにやわらかく見える。

 周囲の会話も、

 彼女の“庶民出身”“飾らない”“優しい”といった要素を自然に拾いやすい流れへ寄っていく。


「フェアミントさんは本当に愛らしいわね」

「ええ、王都にはない素朴さがありますもの」

「殿下のお近くにおいででも、変な気負いがありませんし」

「そういうところが、かえって……」


 王都の婦人たちは、もはや比較していることすら隠さなくなっていた。


「来てます」

 リリアーナが小さく言う。

「すごい来てます」

「はい」

 ミレーユが静かに頷く。

「本来ヒロイン補正が、かなり強くなっておりますわね」


「嫌です」

 リリアーナは本音で言った。

「かなり」


 その返しが少しだけ霊真っぽくなっていて、ミレーユがふっと笑った。

 だが笑っている場合でもない。

 今の王都は、本当にリリアーナを

 “正統派本来ヒロイン”

 として固定したがっている。


    ◇


 次に、ミレーユへの補正が強まった。


 今度は聖職側だ。

 大聖堂筋の司祭、神官見習い、王都の宗教貴族たちが、妙に自然にミレーユの近くへ寄る。


 それ自体は不自然ではない。

 彼女は聖女候補なのだから。

 だが今の会場では、その自然さが逆におかしい。


 誰かが彼女へ祈りの話を振る。

 別の誰かが、聖遺物反応や礼拝堂での噂をそれとなく重ねる。

 そしてその視線の先には、必ずどこかで霊真がいる。


 つまり王都本機構は今、

 ミレーユを

“清楚で神聖な、王都が祝福したい本命ヒロイン候補”

 として強めようとしているのだ。


「……ああ、これは」

 ミレーユが小さく息をつく。

「だいぶ来ておりますわね」


「どんな感じですか」

 と霊真。


「祝福される運命、とでも申しましょうか」

 ミレーユは微笑みを保ったまま答える。

「わたくし自身の心より、“王都にとって綺麗な意味”のほうが先に乗せられていく感じですの」


「かなり嫌ですね」

 とリリアーナ。


「ええ」

 ミレーユは頷いた。

「かなり嫌ですわ」


 王都は彼女を、個人として恋をしている少女ではなく、

 神聖に祝福されるべき清楚本命候補へ整えたがっている。


 尊敬も、

 揺れも、

 嫉妬も、

 個人的な好意も、

 そういう“あまり綺麗でない感情”は削り取り、

 ただ美しい聖女候補として見せたがっているのだ。


 それがどれほど腹立たしいか、今のミレーユにはよく分かる。


    ◇


 そして当然、セレスティアへの圧も来た。


 だがそれは、リリアーナやミレーユへの補正とは少し違った。


 王都本機構は、彼女をまだ定義しきれていない。


 悪役令嬢へ戻したい。

 だが、主役候補席・第一列へ上げるほど本命化もしている。

 その揺れが、そのまま圧として出る。


 つまり今のセレスティアには、

 悪役令嬢補正と主役候補補正が同時に来る

 のだ。


「本当に最低ですわね」


 彼女は涼しい顔のままそう呟いた。


 王都の照明は、深紅と黒のドレスをより際立たせる。

 高位令嬢としての華やかさは増し、

 同時にその美しさが“冷たくて危うい女”にも見えるよう調整されている。


 貴婦人たちの会話も露骨だった。


「ローゼンベルク様、本当にお美しいですわね」

「ええ、少し近寄りがたいほどに」

「でも今夜は、それがかえって惹きつけますわ」

「悪役らしくも、主役らしくも見えるなんて不思議ですこと」


 そこまで言うか、とリリアーナは思った。

 そしてセレスティアもたぶん同じことを思っている。


「……何なのですの、それは」

 とセレスティアは小さく言った。

「褒めているのか、落としたいのか、主役にしたいのか、どちらかにしてくださいまし」


「どっちもでしょうね」

 とルシアンが低く言う。

「王都本機構は今、あなたを“悪役令嬢として一度沈めるべきか、それとも反転本命として扱うべきか”で揺れている」


「聞いていて楽しい分析ではありませんわ」

「そうでしょうね」

「他人事みたいに言わないでくださる?」

「理論です」

「本当に腹が立ちますわね」


 そのやり取りに、ガイゼルが小さく肩を揺らした。

 だが笑える空気ではない。


 今の会場は、本気で三人へ別々の意味をかぶせて、

 その中から“正ヒロインらしい何か”を決めようとしている。


 本来ヒロイン。

 清楚本命。

 悪役令嬢から反転した主役候補。


 三強ヒロイン戦争。

 先ほど王都の若い令嬢たちが言っていたそれが、まさに会場全体の演算テーマになっているのだ。


    ◇


「……嫌です」


 最初にそう言ったのは、リリアーナだった。


 表情は崩していない。

 だが声は、本気で嫌そうだ。


「私、こういうふうに“選ばれそうな子”として見られるの、やっぱり好きじゃないです」

 一拍。

「それでローゼンベルク様が悪役っぽく見える位置へ押されるのも、ミレーユさんが綺麗に祝福される側へ押されるのも、全部」


 ミレーユが小さく息をつく。


「ええ」

 と彼女。

「わたくしもですわ。祝福されるのは結構ですが、それが“誰かに勝った綺麗さ”みたいに見えるのは不本意ですもの」


 セレスティアは、その二人の声を聞きながら赤い瞳を少しだけ伏せ、それから静かに言った。


「でしたら、なおさら付き合う必要はありませんわね」


「何にでしょう」

 と霊真。


 セレスティアは顔を上げた。

 その顔には、もう迷いより苛立ちが勝っている。


「ヒロイン戦争ごっこに、ですわ」

 と彼女。

「王都は今、わたくしたち三人を綺麗に並べて、誰がいちばん“主役らしいか”見たがっております」

 一拍。

「ですが、こちらが本気で争って差し上げる義理はありませんもの」


 その言葉に、リリアーナが小さく目を見開いた。

 ミレーユもまた、やわらかく微笑む。


「ええ」

 とミレーユ。

「本当にその通りですわ」


「私も」

 とリリアーナ。

「付き合いたくないです」


 その瞬間、三人のあいだの空気が少しだけ変わった。


 王都の期待する敵対ではなく、

 同じものを押しつけられている者同士の連帯へ。


 それはたぶん、本機構にとってはかなり嫌な変化だ。


 なぜなら、王都が欲しいのは“比較されて揺れるヒロインたち”であって、

 “比較そのものへ一緒に嫌な顔をする三人”ではないからだ。


    ◇


 だが王都本機構は、そんな程度で諦めるほど甘くない。


 楽曲がさらに切り替わった。

 今度は、明らかに次の導線を作るための旋律だ。

 照明も、主役候補席周辺と王子席周辺がわずかに強調される。


「……次、来ますわね」

 ミレーユが言う。


「はい」

 と霊真。

「かなり」


「もうその“かなり”で全部分かるようになってきました」

 とリリアーナ。


「ええ」

 セレスティアも低く頷く。

「次は、もっと直接的でしょうね」


 彼女の予想は正しかった。


 会場中央、王都の司会役たちが何やら短く打ち合わせを始めている。

 貴婦人たちの視線も、今度は三人から王子アルフレッドのほうへ戻り始めた。


 つまり次に来るのは、

 王子の動きで誰を前へ出すか

 という、もっと露骨なフェイズだ。


 選定夜会は、ついに本気で“正ヒロイン決定モード”へ入ろうとしている。

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