誰しも答えを求めるものだ。
〜投稿
sideデザール
小隊同士で模擬戦まであと二日を切った。
それぞれの小隊も模擬戦に向けて、訓練の成果を出そうとする準備期間。
小隊長格の全員は上級騎士たちに育成した成果を披露する日でもある為、重要な日が近づいている。
書類などの処理をさっさと終わらせると、最後まで残っていたコルンとの、鍛錬に付き合う。
「はぁ!」
「まだ動きが遅い…」
コルンの動きは初めの頃よりは断然に良くなっているが、動きはまだ踏み込みが遅い。
その為、教え側の俺からすれば容易く木剣を吹き飛ばす。
「はぁはぁ」
「…今日の鍛錬はここまでにしよう。それまでに何か聞きたいことがあるか?」
コルンは少しずつではあるが俺が前世で学んだ剣術を覚えて強くなっているのだが、悩み事でもあるのか、分からないがそれが鍛錬でそれが影響して、重要なところで鍛錬になっていない。
聞くにしても、どう話せばいいのかわからない俺としては、聞くのに遅くなり過ぎてしまったが、ようやく口に出せた。
だが、コルンは黙ったままだった。
「…」
「何もないのか?」
もう一度、俺はコルンに問うが何も喋らなかった。
こういう時は何度も聞くべきか、敢えて聞かないのどちらかだ。選ぶとすれば、前者だが…悩ましい答えだ。
「デザール隊長」
「急に改まってどうした?」
コルンは迷いながらも真剣な目で口を開いた。
「デザール隊長は…その…スラム街出身なんですか?」
「…あぁ」
コルンが聞いてい来たのは俺がスラム街出身者なのかという質問だった。
鍛錬の事ではなかったので、少し驚きはしたが、俺はその質問に率直に答えた。
「形式上は平民という扱いになってはいるが…俺はどこで産まれたのかもさえ、わからないスラム街の出身だ」
「そう…ですか」
身分は明らかに平民よりも低いとされている下民と言われた階級だ。
そんな場所から這い上がり、平民まで地位として生き、今では光龍騎士団の中堅までなった。
本来ならそんな這い上がり人生などこの世界では、不可能に等しい事だ。
「では、どうして…そんなに戦いに心得があるんですか?」
「…どうしてか」
その質問はどう答えるべきか、悩んだ。
俺がここまで生きれたのは前世の記憶があるから、自身がどう行動すべきかを考える力と知識があったからできた事だ。
だが、前世の知識があったところでその時までの体は小さな身一つだ。沢山の失敗を犯し…死ぬ思いを何度もした。
何度もそれらを繰り返しながらも耐え忍び、考え続けた。そして、たどり着いた答えはーー戦う事だった。
「生きる為には、戦うしか無かった。だからこそ、強くなる為にできる事を考えて、行動し続けた…というのは答えになるか?」
前世の記憶があったという与太話など信用などされないだろうと考えた故の答えだった。
「分からないです」
「…」
「貴方の強さは…異常です」
「異常…か」
コルンは俺の強さは異常だと、言われると…何処か納得出来るところがあった。
同世代よりも数倍の考える力があり、戦える力が元よりあった。
前世の記憶があるとは言っても、学べる場所もまともに無い場所からすれば、ずば抜けた知識と力の両方を持つ者なんて、客観的考えれば異常な存在だ。
「そんな異常だと、思うなら…何故、俺に学びたいと言ったんだ?」
「それは…」
今度は俺がコルンに問う。
何故、『俺に学びたい』と言ったのかを…。
理由なんて、単純だったろうが…今のコルンには、悩ましい問いになっているだろう。
『学びたい』と言ったはコルン自身であるからだ。
俺に話すその前に何があったのかは、知らないが、悩みを晴らそうとして、話した。
だが、答えはさらなる悩みの種を作る結果となってしまった。
「答えが出ないのなら…いまはそれでいいと俺は思う」
「え?」
コルンは俺の言葉を聞いて、少し驚いた顔をするが俺はそのまま話を続ける。
「失敗は出来るうちに経験するべきだろう。これはまだ、鍛錬の段階であって、失敗をしてもまだ見直す時間がある。その失敗で何が原因だったのかを知るチャンスにもなる。大切なのは、次はどうやって行動に移す事だ」
「…はい」
どうやって他人の悩みを解決してあげるにしても、それは本に書かれただけの知識だけでは、解決は出来ない。
それは人と関わり合う事が多くなった今だから言える俺自身の答えだ。
「但し、ただ強いだけでは、なにも得られない事もある。それが思いもしない最悪の結果を招く事だってあるからな」
「…」
「慢心しない事が特に大事だろう…。一つのことに集中し過ぎれば、大事な事を見落とすことだってある。だから、時には立ち止まって、悩んで考えるべきだ」
「…そんな経験があったんですか?」
「あぁ、あった」
前世で、習っていた剣道で失敗した事だ。
あの時の俺は『俺が強ければ次の仲間に繋げられる』という精神だった。それが大きな間違いだった。
誰もが次の仲間に繋げる為に努力を惜しまないからこそチームであり、チーム戦だ。
チームになるという大事な事を理解していないからあの場の誰も俺に近寄らなかった。俺が無表情であっても、あの時は必ず、誰かは声をかけてくれていた。
俺は知らずに自身が変われる人生最大のチャンスを見逃していた。
仲間に次を託すのは当たり前の事だ…その当たり前をわかっていなかったから俺は失敗したのだ。
『人は変わる事が難しくても変えていくことの出来る生物』と、ある者は言った。
なら、それが出来なかった…俺は前世は一人のまま、やり続けてしまった。もっと他人と関わればもっと何か大きく変わっていたはずだ。
だから、あの時、あの人は俺を怒鳴って当然だった…。
仲間の為でなく、本当は自分だけを良くする事だけを考えていたから…忌み嫌われ続けた。
チャンスを棒に振る様な事をしてしまった時点で後戻りなんて出来るわけがないのだから。
「失敗が出来ない状況なのは、理解できる。でも、失敗を恐れ過ぎれば、前には進めなくなる」
「!」
俺は前世とは、真逆の人生に何度も悩まされている。
他人と向き合って話し合う経験なんて、前世と比べれば多い方だ。
必要な時以外しか、話さなかった前世と必要な時以外にも話し合う事が増えた今は…経験の無さに戸惑うばかりだ。
立ち止まったところで悩みは増える一方なら、一つでも減らせればいいと思いながら俺は歩みをやめなかった。
「別に俺の言葉で納得なんてする必要なんて無い。俺も納得出来る言葉をいつも持っているわけでは無いからな。これはあくまでも俺の考え方だ」
「…」
そう…これはあくまでも俺の考え方であって、悩みの大きさは人によって違う。
さらに付け加えるなら、解決するのは結局は自分自身と難題だ。
「…今日はもう休んで、ゆっくりと答えを出すといい」
「はい」




