貴族
投稿〜
sideコルン
「よし、今日はここまでにしよう…」
夕方、まで続いた訓練はデザール隊長の言葉にやって終わる。
「全体敬礼!」
私の号令で全員がデザール隊長に敬礼して、本日の訓練が終わり、解散となる。
訓練が終われば、その後は一度汗を流すために水を汲む為に木製のバケツを持って廊下に出る。
廊下を歩きながら、今日の事を振り返ると見直す点を考えていると、背後から嫌みたらしい声をかけられる。
「おやおや?」
「ッ!」
この嫌みたらしい男の名はメルド・ズィール。
第一小隊の隊長格に選ばれている男だ。
「いつ消えるかもわからない貴族の…なんだったかな〜?」
貴族思想が悪い意味で強く、自身よりしたの下級貴族たちを含めたもの達を蔑む男。
「これはどうも…メルド上官」
「何だい。その目は?」
此処は面倒ごとにならないうちに去るべきだが、下手な断り方をすれば、何を言われるかわからない。
ここは、嫌味話から逸れる様に話すべき…。
「いえ、なんでもありません。デザール隊長に御用でしたら、部屋は西棟の奥にある九号室にいますが?」
「ふん…あの下賤な奴が私と同じ地位にいるとは、間違いだ」
メルドはデザールの名を聞くと不機嫌な顔をする。
それも当然だろう…なにせ、貴族思想の強い男であるメルドにとって、名のついた貴族が上に立つ事を当たり前と思い、それ以下の者が同じ土俵に立っていることに忌々しく思うのは、当然だろう。
「まぁ、貴様よりはマシか」
「何を――」
さっさとこの状況から去ろうとするが、メルドは私を見て、嫌みたらしい笑みを浮かべながら話す。
「なにせ、貴族でありながら平民…いや、もとを正せば、平民以下の下民に仕えるとは、貴族の面汚しだけで無く、哀れとさえ思える」
「ッ!」
メルドが口にしたその言葉に私は驚愕した。
デザール隊長が平民より下の身分であった事を初めて知ったのだ。
確かに、騎士団へ入団する者たちにも平民だけで無く貧民から抜け出そうと高望みしようと入団する者も多くは無い。
だが、貧民が入団出来たという経歴はこの帝国では、一度も聞かない。
何故なら、その殆どが入団前の試験で死ぬからだ。
まともな戦い方も知らない者は戦い方を教えて貰える貴族に勝てるわけも無い。
実力を測るためだけに用意された『的』の様な存在でしか無いのだ。
「どの様な卑怯な手を使ったのか知らないが、そんな下民如きに仕える貴族が滅ぶのも納得だな」
「ッ…」
「誰もいつ消えるかも分からないお前を誰が部下にしてくれるのだろうなぁ?」
メルドの嫌味はまだ続き、今度は私の家系を蔑む。
だが、メルドの言葉は事実でしか無い上に立場上は貴族であり、上官でもある為、ここは耐えるしか無いのだ。
そんな逃げたくもなる状況から意外な人物から救いの手が入った。
「それは『叡智』も大した『スキル』を持たない貴方が言える事?」
「なんだと! 誰にものーーっ!?」
「せ、セラータ様!」
第二級中級騎士であるセラータが立っていた。
「ピュルル大森林の第一戦で負傷してまともに戦果も上げる事なく後退した貴方と実力で戦果を上げたデザールの差はあると思うけど?」
「ハッ! 騙されてはいけませんよ。ドラグラーツ家の一人娘とあろう者が下賤な下民如きに肩入れするとは」
「その下賤な下民と同じ騎士階級でありながら、評価がデザールよりも下となれば…優秀な方を私は肩入れする」
「なっ!」
メルドはデザールよりも劣っているとキッパリとセラータに言われてしまう。
なにせ、デザール隊長はピュルル大森林で出現したオークジェネラルをたった三人で時間稼ぎをした一人でもある人物だ。
比べて、メルドは第一戦目で負傷して、撤退を余儀なくされたと記録されている。
「奴の『叡智』は未覚醒だ」
「未覚醒であっても、デザールが保有しているという真実は変わらない」
「ぐっ…」
セラータの言葉にメルドは苦虫を潰した様な顔をする。
それもそのはずだ『叡智』とは、産まれてすぐに取得しているかが決まってしまうものだ。
この世界に置いて『叡智』とは、神の祝福であり、その割合は百人に一人の割合で持っている。
但し、叡智にも階級があり、強い叡智となればその割合はさらに低くなる。
階級の低い叡智は鑑定眼を使えば、わかるらしい。だが、叡智が未覚醒というのは、未発見の叡智という可能性が高いのだ。
「まぁ、いまは全く関係の無い話は置いておくとして…貴方にひとつだけ言っておくことがあった」
「何ですかな?」
セラータは話を切るとメルドの元へゆっくりと歩いて近づいていく。
「貴方…いろんな小隊を回っては、威張り散らしてるのを聞いていた」
「酷い言い「もし」」
鋭い眼光でセラータは口を開く。
「私の小隊でも過ぎた事をするなら…その時は覚悟しておいて」
「「ッ!?」」
セラータがメルドに向けて放つ威圧を見て私は身体中が凍える様な寒気に震え上がった。
「あ、あぁ…思い出した。これから私はやらねばならない仕事があったな」
メルドは思い付いた言葉を吐いて、その場から蜘蛛を散らす様に去っていた。
取り残された私とセラータは去っていくメルドを見ながら立ち尽くす。
「これ、デザールに渡してくれる?」
「え、あ、はい!」
セラータ様は私に書類を託すと、目的を果たし終えたのか、メルドと逆方向の廊下へと去っていた。
「はぁ…」
私はほんの一瞬だけ緊迫したその場所で尻もちをついてしまう。
自身が仕えたいと思っている人には、決して見せられない姿をしている事に強く不甲斐なく、思った。




