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早朝鍛錬

〜投稿

sideコルン


 デザール隊長に教えを頼み込んでから次の日から始めた指導は本格的に始まった。

 昨日よりも打ち込みの早い一撃に吹き飛ばされかけるが足に力を入れて耐えきる。


 「戦いにおける技も大事だが、俺が一番大事にしているのは判断力だ」

 「はい」


 模擬戦でのデザール隊長は強化魔法を付与したわけでも無いのに確かに動きは早く、狙いもほぼ的確に狙ってくる。


 「戦闘は、一瞬の選択で自分が有利にも不利にもなってしまう。それ故に頭を動かす事が大切だ」

 「はい!」


 咄嗟の判断対応能力と応用力の高さはセラータ様に次ぐと昨日、出会ったホウズキというデザール隊長とセラータ様の同期である人が教えてくれた。


 「今から教えるのが俺の剣術だが、まずは剣を短い物に変えて貰うが構わないな?」

 「構いません」


 言われた通りにデザール隊長と同じ長さの中途半端な木剣を持つ。一応、木剣の長さはデザール隊長が持つナイフと同じ長さはある。


 「もう一つ言っておく事は三週間後に控えている小隊模擬戦までに二刀流を極める事は難しい…だから、今は短刀――短剣術の方をだけを教えることした」

 「わかりました」


 二刀流の剣術はどうやら教えてもらえないようだが、それは三週間でものにできないからである故だからこそ、仕方がない。その分、短剣術を学ぶ事が出来るなら十分だ。


 「では、これから短剣術を教える」

 「はい」


 デザール隊長の短剣術取得、個人指導が始まった。

 

―――


sideセラータ


 コルンがデザールに剣術を教わるのを遠くの部屋から見ている、セラータがそこにいた。

 今も必死にデザールから剣術を学ぶコルンの姿を見ながらある事を考えていた。


 キュアス家…没落しかけの貴族。その一人娘が光龍騎士団に入団した事でギリギリ回避して、存命している…だが、彼女が居なくなればそれは没落を意味している。


 「いつ消えてもおかしく無い家系…」


 自身に仕えたいと言い張るコルンに多少の興味を持っていた。だが、コルンの家柄であるキュアス家を調べてみると、メーデンが言っていたようにただの没落しかけの準男爵だった。

 セラータ自身としてはせめて、男爵の家系程度が仕えてくれるなら部下に入れるかを悩んでいた。

 上に立つ人間となりたければ部下にもそれ相応の階級や実力が欲しいものだ。

 幼い頃、自身に剣を教えてくれた師匠の影響で野心に持つ様になったセラータとしては、コルンは自分の部下にしたい方問われば、眼中にない。


 「…けど、彼女はデザールの部下」


 五年間背中を預け合った同期で形式上では、平民出身となっているデザールには興味があった。

 この五年間、セラータはデザールという青年の情報を集めていた。

 生まれはおそらくスラム街の何処か。父も母の名も顔を知らない。何処か躊躇いがある剣術もそれがなくなれば、おそらく達人級と思える剣術をどこで覚えたのかさえ、不明だらけの青年。だが、それらを目を瞑れば優秀な人材だ。

 彼は文字や計算の覚えが早く、武官としてだけで無く文官も両立出来る人材。

 セラータ個人の判断極め付けは、偶然図書室で漏らしていた政治について理解度の高さと改善の必要性があると知った時には、彼を部下にすれば、自身の野心に役に立つと思えた。

 だが、安易に引き込むには機会が必要となる。


 「彼女を利用すれば…引き込める?」


 位が高い貴族が平民を安易に部下にすれば、他の平民や家族も近寄ってくるリスクが発生する。

 だが、貴族が此処に関わってくれば、ある程度は違和感がないように引き込める事が可能だ。


 「…」


 デザールを引き込むためにコルンを利用するかを一人で考えた。


―――


sideコルン


 「ハァアア!」

 「まだ、少し遅い上にその距離では間合いには届かない」


 手に握られた中途半端な木剣の攻撃は当たらず容易く交わされ、首筋に木剣を突きつけられる。

 その後、何度も挑むがデザール隊長の様な素早さを出せない上に使っている中途半端な木剣の長さがいままで戦ってきた間合いと大きく違う上に敗北する。


 「はぁはぁ」

 「そろそろ、全員来る頃だ。その間は休憩しておくように」

 「はい…」


 何度も教えられた通りにやったが上手く扱えず、一本も取れなかった。


 「違う剣術をすぐには使えない。常に日頃から鍛錬と実戦で見出すしか、無い…。とにかく、焦らない事を勧める」

 「…はい」


 悔しいが、デザール隊長の言う通り。すぐに使えこなせるほど、学んだ剣術を使ったわけでは無い。あくまでも今回学んだのは隊長が使う剣術の基礎であって、まだ覚えなければならない事がこれから増える。今は焦らず、今回教えられた剣術を復習しよう。


 「俺はこの後、第五小隊に書類を渡してくる。個人鍛錬は此処までだ」

 「はい。ご指導、ありがとうございました」

 「…あぁ」


 デザール隊長はそれだけ言い残すと片手に木剣をもって訓練場から去っていくのを見届けた後、早朝の鍛錬で流した汗を拭く為に一度、室内へと向かう。


―――


sideデザール


 『はい。ご指導、ありがとうございました』


 コルンとの早朝鍛錬が終わって木剣をしまい、第五小隊に受け渡す書類を片手に廊下を歩きながら先程の感謝の言葉を思い出す。


 「ありがとう、か…」


 誰かにものを教える事自体、初めてでは無いものの…顔色一つ変えずに率直にかけられた言葉にあまり慣れていない自身がいた。


 「…」


 前世は、就職した仕事場では書類の処理について教える事があったが、剣術は初めてだった。

 なにせ、学生時代やっていた剣道で人に教えた事なんて一度も無かった。


 『■■先輩は強いけど、なんか怖いよなぁ』

 『だよな〜。この前、俺に教えようかと言われた時はヒヤッとしたわ〜』

 『あの無表情で教えられるのは怖いよね』


 表情を失った俺の周りはその姿に不気味に思われていた。それ故にいつも対戦相手は監督か一つ上の先輩とやるしか無かった。ただ、それでも表情が表に出せない俺が真面目にやっているのか、不審に思われていまう事が度々あった。だから、基本的に一人で鍛錬をする事が多かった。


 『■■…真面目にやってるのか?』

 『その上から目線を止めろ…腹が立つんだよ!』


 勘違いされる事が日が増えた事は心苦しくなる事は数えきれなかった。例え、感情が乏しい事を正直に言っても、根本的なものは何一つ変わる事は無かった。

 だからこそ、思う。今の俺は前世と比べると明らかに違う。

 前世の俺は話す相手など数える程度だったが、今は話す相手が少しずつ増えている。

 前世との『違い』に俺は複雑な気分になる。

 何故なら、自身の周りが変わっても俺、自身は何も変わっていない。

 これから先、前に進む度に俺は悩み続けるだろう。

自分自身にどう向き合うべきか、考えていかなければならない。


 「あ、デザール隊長!」

 「ミュアか…」


 自問自答をしていると前から歩いてきたのは、部下の一人であるミュアだった。


 「はい!おはようございます!」

 「あぁ、おはよう」


 青髪で素直な性格の少女で剣の実力は力任せな部分が多いが第四小隊では、コルンの次に強い騎士だ。


 「本日は戦闘訓練ですか?」

 「そうだな。他の小隊に負けないように鍛えるつもりだ…他の者にもそう伝えてくれ」

 「わかりました!」


 ミュアにそれだけを伝え終えるとすぐに第四小隊の部屋へと去っていった。


 「…この書類を第五小隊に渡して、戦闘訓練をしないとな」


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