理由。
投稿〜
「その剣術を教えていただけないでしょうか」
「……はい?」
俺は今までのコルンとは思えない発言に混乱した。頼み事をする時は事務作業と部隊の指揮だけしか、口を挟まない彼女が俺に剣術を教えて欲しいと頼み込んで来たのだ。
「私はこの後、仕事があるから失礼する」
「あぁ、わかった」
セラータはそう言うとその場から去って行き、俺とコルンだけがこの場に残る。
「…いくつか聞くが何で俺なんだ?」
剣術を学ぶ事は意識は何となくだが、理解は出来る。彼女は没落しかけの貴族だ。没落を回避するには強くなり武功を挙げるか何処か高い位の貴族の下につくものだ。学ぶにしてもその師となる人が優秀でなければならない。
「それは貴方が部隊長だからです」
「そうか…」
コルンが俺から剣術を学ぶ理由としては成り立たなくもない。
「それは今までの戦い方を変える事になるが?」
「構いません。二刀流または、そちらの短剣術を教えて貰いたいです」
「!」
その言葉に俺は驚いた。短剣術では無いが俺の小太刀の剣術に初見で気が付いたのはまだ三人と、数える程度しか、気付かれていない。一人目は帝国工房ミズガルズに店を構えるカグツチ工房の鍛治師と訓練を共にした事のあるセラータとホウズキぐらいだ。
「よく分かったな…」
「何となく出したけど、木剣を一本飛ばされた辺りから明らかに戦い方が手慣れている様に見えましたから」
「そうか」
短剣術もとい俺の小刀術を見抜いた理由を淡々と答えるコルンの俺個人の評価が少し変わった。今までの彼女は何かと、セラータに関わろうとして俺に従っていたがそれはあくまでも騎士団内の階級通りに従っていたからだろう。階級が違えばおそらく従っていたかですら怪しい。だが、今の彼女は俺を頼って強くなろうとしているのは理解できる。が一つ解せない事がある。
「それは第四小隊から異動を諦めると?」
他人から教えを乞うという行為はその人の下に仕えることを意味するようなものと同じだ。
「いいえ」
「…理解できないな」
コルンは横に首を振りながら応える。教えを乞うっておきながら異動も諦めていない。それでは、教える身に利点が一切無い。
前世で、ある人が言った『自分よりも下の者を育てる事は上に立つもの役目だ』と。しかし、それはあくまでも個人の考えであり、全ての人間がそれに従うかと問われると無理がある。せっかく育てた優秀な人材を失う事などもってのほかだ。
「そうでしょうね…セラータ様に仕えることが私の目標ですが、今のは私では力不足でしょうから」
「そうだろうな」
俺からみるコルン・キュアスという少女の評価は戦闘も事務作業の評価ともに優秀だと、認めている程の人材ではある。だが、セラータはおそらく彼女に仕えてほしいかと、問わればそれは無いと言うだろう。
何せ、セラータはこの五年間で俺が見てきた中では、勝手な考えかもしれないが野心を抱いていると推測している。理由は帝国政治についてよく調べ事をしたり、勉強をしているところをこの五年間よく見かけたが無論それだけの理由ではない。
それは帝国政治を勉強していた時、目に入った政治に穴がある事をポロリと口にしてしまったところをセラータに聞かれてしまった時の事だ。
『帝国憲法には穴があるな』
『凄いこと言う…』
『セラータか』
その時は一人で勉強をしていた時にポロリと呟いてしまい、その言葉に興味を持ったセラータが聞いてきた時が始まりだった。
『それで帝国憲法の何処に穴があるの?』
『あ、あぁここの『帝国憲法第二一二条国法の違法行為と見做される行動に処罰を与える』と書かれているがその罰や制裁については全く書かれていない上に帝国法を知らない者はある日突然に罰を与えられる事となってもおかしくない』
『そんな事はあり得ない』
『いや、罰には決めておかなければ最悪、虐殺も適応されるだろうな』
『そこまで行くわけ……いや、でも』
その後、その日の勉強はセラータの質問攻めで終わらせてしまうぐらい政治に深い執着心がそこにあった。帝国の政治には女性の介入は著しい。政治参加は出来ても未だに多くが男性が占めている為、政治参加をしてもいないものとして扱われてしまっている。
そう考えるとセラータは帝国政治に参加して何かをしようとしているのでは?俺は見ている。
セラータが仕えて貰いたい部下には、政治的影響力がある者か絶対に裏切らない者を部下にしたいはずだ。
「一つ聞くがそこまで強くなりたい理由は何だ?」
どちらにせよ、俺は剣術を教える事に抵抗は無い。しかし、教える以上は強くなりたい理由かセラータに仕えたいという理由を俺は知る必要がある。
「…ご存知かも知れませんが私の家系キュアス家は没落しかけの家系ですが、私が光龍騎士団に入団した事で没落を回避している状態です」
「…」
「没落を抜け出すには出世するか何処かの貴族に仕えるかのどちらかありません」
「貴族の階級は?」
「…準男爵です」
貴族での『準男爵』は俺が知ってる限り、騎士より一つ上だ。
「セラータの貴族階級は確か…」
「『侯爵』です」
セラータの本名はセラータ・ドラグラーツで貴族階級は『侯爵』階級的には第一位から次に並ぶ第二位…準男爵が侯爵に仕えるには、階級も政治的影響力が足りない、足りなさ過ぎる。だが、コルンにとっては滅多に無い近場にいる位の高い貴族に仕えるチャンスでもある。
「…貴族間はあまり詳しく無いが、それは険しい道であると理解しているんだな?」
「はい」
コルンは真っ直ぐな目で応える。
「…分かった。だが、俺が教えるのはあくまでも技であって、使い所は自分自身が見つけるものだと言うことを忘れないでくれ」
「ッ!はい!」
俺はコルンに剣を教える事にした。 理由としては、純粋に彼女の熱意に惹かれたからだ。それだけで十分だ。
「今から少し始めようか」
「はい!」
俺は剣を構え、コルンも同じように構える。
「まず初めに技を見せる」
「了解です」
俺はそのままコルンに向けて、前世で学んだ剣技を振るう。
『願わくば、俺自身の新しい生き方を見つける理由が見つけられる為に』




