強くなりたい故の選択。
sideコルン
早朝訓練を行う為に早く騎士団へ向かい訓練所で着替えを終え、廊下に出ると二人ほどの声が聞こえてきたので訓練所の窓を覗くとそこではデザール隊長とセラータ様が戦っていた。
「シッ!」
「ハッ!」
お互いに訓練用の木剣を持ち、一本で戦うセラータ様と二本を両手に戦うデザール隊長の戦いは見ているこちらが離させ無いほど凄いものだった。
「凄い…」
二人の実力はほぼ互角であった。木剣一本で舞うように戦うセラータの攻撃を二本の木剣で流すデザール。どちらも決め手の一撃を出させない攻防を繰り広げている為、お互いの決着が中々付かない。
「なんで二本も…まさか」
コルンは今更ながらデザールが二本の剣を抜いている事に気がついた。
(あの模擬戦はまだ本気じゃあ無かったというの!?)
デザールと会った当初は腰の横にサーベルをぶら下げて背中に中途半端な長さの短剣を持っていた。また、模擬戦でも武器はサーベル一本で相手していたので剣一本で戦い方であると思っていたが、違った。デザールの短剣もまた主要武器の一つだ。本来なら予備の武器だと、思っていたがそれは全く違った。デザールは元より、二本の武器で戦うのが本来のスタイル。
だが、五年前のオークジェネラル戦では、オークジェネラルの巨大に短剣の攻撃は効果が薄いと判断し、短剣は抜かずに一本の剣と魔法で対応していた為、デザールの二刀流戦術は軍内では一部の者しか、知られておらず、あまり知られていないのだ。逆に二刀流戦術を知っているのはよく訓練相手になるセラータかホウズキの二人だけだ。
「ッ!」
実力を未だ把握しきれていないコルンとしては、小隊長であるデザールとの差を思い知った。それと同時に互角に戦うセラータとデザールを見て、自身の実力が遠く及ばないを知った。知ってしまったのだ。
(今の私がセラータ様に仕えたところで役に立つことなんて無い。没落を恐れて、一番大事な事を忘れていた)
貴族社会で部下になるという事は自身が使えるということを証明しなければならない。特に武官は背中を任されるほどの実力を持つ者を部下に加えたいものだ。自身は没落しかけの貴族で実績が足りない。それに比べて相手は平民でありながら戦闘能力に文官もできる上にさらには五年前のピュルル大森林の魔物大繁殖元凶であるオークジェネラルを新兵でたった三人で挑んだ一人と比べられば下に仕えやすい平民を部下に加える方が良い。
(セラータ様のもとで仕えるにはまだまだ、実力が足りない…足りなさすぎる)
コルンは自然と拳に力が入っていた。自身の目に焼きついた上司兼小隊長の実力にコルンは到底及ばないと理解したと同時に強くならなければならないという焦燥に駆り立てられていた。
「…強くならないと」
コルンはそう呟くと、自身の木剣を持ってデザールとセラータがいる訓練所に向かった。
sideデザール
朝早く、鍛錬の一環でセラータとお互い魔力無しで本気で木剣で打ち合いの鍛錬を行う。
セラータの軽い一撃は容易く流すがすぐに違う一撃が迫ってくるせいで攻撃のペースを取られて、片手に持っていたサーベルを吹き飛ばされる。
瞬時に俺はまだ片手に残った短剣で一気に距離を詰めセラータの持つ木剣を絡めて動きを止める。
「はぁはぁ…相変わらず、貴方のその短剣技は凄い…」
「フー…そちらこそ、隙がない剣舞もな。魔力が入っていればもっと速いのだろう?」
「そうね」
セラータとのこの鍛錬は学ぶ事が多い。どれだけ剣を弾き、往なしても止まらない剣舞はかなり厄介だ。
それだけ彼女が使う剣舞は取得に難しいものであることが理解出来る。俺自身も前世で学んだ中で一番得意な小刀の剣術も何年もかけて鍛錬を繰り返して出来たものだ。
だが、俺はこの剣術をまだ実戦に生かせていない。前世で学んだ剣道は時代を戻せば殺し合うために生み出された剣術だが、現代は殺し合いなどはしない。
それを殺す技に…引いては実戦に持ち込むとなれば大きく違ってくる。だからこそ、鍛錬相手のセラータから学ぶ事が多くある。
技の使い所はタイミングとその時に使う技の判断力が大きく必要。これは前世の試合とは、変わらない…が、殺すと考えればセラータの方が圧倒的に技への判断力が高いと俺は見ている。
「ハッ!」
「ぐっ!?」
そんな事を考えているうちにセラータは持っていた木剣から手を離して攻撃を体術に切り替える。反応に少し遅れた右足に蹴りを入れられてバランスを崩しかけるも自身の体格を生かして耐えて距離を取って俺も体術に切り替える。
「…私との鍛錬で考え事って、余裕でも持たれた?」
「いや、普通に油断した」
お互いに拳を構えて、睨み合うが数秒経つとお互い構えを解いて地面に落ちた木剣を取る。
「今日はここまでにしておくか」
「そうね」
お互い小隊長の身だ。無駄に体力を使うのは後々、仕事に影響する為、今日の自主鍛錬を終える。
「もう一戦やりたいところだけど…」
「ん?」
「どうやら、観戦者がいたみたい」
セラータが指を刺す方向に目を向けると赤い髪の毛が特徴の女性が立っていた。
「そこにいるのは…コルンか?」
「はい」
コルンは名前を呼ばれると歩み寄って来て、俺の前に立つ。
「デザール小隊長。お願いがあります」
「あ、あぁ…何だ?」
コルンが真剣な目で俺に話し掛けてくる。何だろうか、異動は無理なのは彼女も理解している筈だ。
「その剣術を教えていただけないでしょうか」
「……はい?」
それはコルンが初めて俺に異動では無い申し出の言葉に驚愕した。




