開放された者と変わらなかった者
院長と戦う前――
「わかった、なら、お前が院長を殺せ」
「っ!……わかった」
俺はそう言うと、三本目のナイフをギルに渡した。
ハッキリ言って、目の前の少年は殺せるかどうかと聞かれると難しいと俺は思っていた。俺がギルという少年に言った事は言わば、人殺しを手伝えと言った様な者だ。
人は同族殺しに禁忌感を持っている。しかし、俺は生きる為に人殺さなければ生きれないスラム街で育った俺からすれば自由になりたければ、前に進む為に道を切り開かねばならない。
俺はナイフを持って少し悩む様な顔をしているギルにダメ押しと言わんばかりに言う。
「お前だけが助かるわけじゃない…レナを救う為でもある。殺しは確かに悪だ…だが、この脱獄の時点でその覚悟は必要だった」
俺はレナには言ってはいなかったがこの作戦が必ずも成功するとは思ってはいなかった。それ以前に時間がなさ過ぎて、俺はレベル上げに集中する他無かった。仮に説明したとしても同じ結果だろうが…。
「強さは己の覚悟で決まる。なるのを待つのでは無くて、なる為に自身が動かなければならない。例え力が無くとも…やるとやらないには明確な違いが出る。最後に決めるのはお前だ。そのナイフを持ってどうするかはお前次第だ」
「…」
言うだけの事は言ったがハッキリ言うと期待はしていなかった。ただ、戦ってくれる可能性に賭けただけだ。
現在
「うぐ、おぇええ」
ギルは人を殺した事による拒絶感に襲われて嘔吐をしていた。
俺からすれば嘔吐する理由は分からなくも無い。俺も初めて人を殺した時も嘔吐をしたから、その苦痛に理解をする。
「ごふっ…」
刺された男は瀕死の状態で口から吐血するのを俺は見ると身体の痺れが薄れている事に気が付き、そのまま立ち上がり、男の前に立つ。
「ば、けもの…め…」
「…俺が化け物?」
俺は少し気になった。あの時、男は先ほどと同じように俺を「化け物」と言って動揺して自暴自棄になった事が気になった。
「…ばけ、モノ…感情の…無い化け物が…!」
男は瀕死の状態で最後に俺を見て恐怖しながら最後を言い残し、息を引き取った。
俺は男が言った感情の無い化け物と言われて、何かが傷付く感傷に至った。また、前世の俺を思い出してしまった。前世の周りの人達が見た俺の印象を口にしていた言葉を…。
『まるで人形だ』『アイツ笑わないよな』『私、あの人と組み手したけど怖かった』『顔色一つ変えられないのかよ…』『その顔はなんだ!私への失望か!』
『少しは笑ってください』『笑えない奴がここに来るなよ』『何でそんな顔でいられるんだよ』……『感情が無い人形』
表情を失った俺はずっと周りに迷惑をかけていた事を思い出した。この表情を失った俺には生きる理由があるのかと悩まされた。
必死で作った表情を見せた時の祖父母達には泣かれてしまい、感情を出そうにも出せずに恐怖の対象となり、誰もより付かなかった…。それでも尚、コミニケーションを取ろうと武道の世界に入れば、変わるだろうと思い、祖父に頼み込み武道の世界に入ったが何も変わら無かった。それどころか顔色一つ変えられない俺は勝った相手を憎悪を与えてしまった。
独り立ちして、一人暮らしを始めた時はご近所付き合いしながら友好に付き合って来たが表情は死んだまま…感情の起伏が薄いと住んでいる場所から有名になった。就職した、先では仕事に励んだが、此処でも感情よ無い俺は表情が無いが故に余裕を示している様に見えたのか、多くの仕事を任され、それを一人でやりこなして行った。部下を持っても評価されようと俺は喜ぶ顔すらできなかった。
そして、極め付けは自身の部下からの毒殺によって死んだ。
俺は転生して、初めて人を殺した時、嘔吐した時、人間らしい表情が出来た事に喜びがあったが…結局何も変わっていなかった。
俺は…この世界でも感情の無い奴と言われてしまった。
俺は世界が身体が変わっても表情が死んでいたのか…あぁ、なんだ、結局…何一つ変わっていなかった。
いや、俺は唯の殺戮と殺しを強要した殺戮人形に変わっただけだった。
俺はこの大帝国の悪役らしい姿になってしまったらしい…俺はこの世界でも表情は戻ら無かった。残ったのはこの手で殺して来た血濡れた手だけだ。
あぁ、本当に悪役らしい……。
sideギル
俺は院長を刺した事に嘔吐していた。そこに達成感がある筈なのに何故か罪悪感に陥っていた。
少し、顔を上げると手伝ってくれていたデザールと言う奴は顔色を変えずに向かい院長に何かを言われ、院長はそのまま目の色が真っ黒に染まった。直感で分かった…院長が死んだ事を理解した。
生きる者が生を失った時、生き物の目の色がまるで影が覆い被さった様になるという事を俺は初めて知った。
俺はまた、嘔吐しそうになるが必死に耐えながら立ち上がり、デザールの元へ向かう。
「……孤児院から出るぞ…」
「…あ、あぁ…」
俺は背中越しのデザールから言われて出る為にデザールの後に続く…。
デザールの横に立つとデザールは顔色一つ変わっていなかったが何故か、哀しそうな感じをした。
だが、俺は燃え盛る孤児院内を素早く出る為にその考えを一度置いておきながら孤児院の出口に向かった。
sideレナ
私は気がつくと、孤児院の外の木にもたれかかる様に眠っていた。
院長に暴力を振るわれて痛い身体を無理矢理動かして、ここにいないギルを探そうとふらふらと孤児院に向かおうとするが孤児院から誰か出てくる。
「レナ!目が覚めたのか!」
出て来たのは血で汚れたギルと傷まみれのデザールが何かを背負いながら走ってが孤児院から出て来た。
「ギル…良かった…!」
「当たり前だろう!」
私はギルに飛び付いて、抱きしめる。
ギルが無事だった事に安心して、涙が溢れギルも強く私を抱きしめてくれた。
「ゴホン」
「「あっ」」
私はすっかりデザールの事を忘れていた。
「さっさと此処から出るぞ…」
デザールは呆れた目でそう言うと孤児院の敷地から出る為走って行く。
「よし、レナは俺が背負うから乗れよ!」
「え、うん」
ギルは私を背中で背負うとデザールの後を追う。
そして、私は燃え盛る孤児院を少し見ながら孤児院の敷地を出た時、私達はやっと決められた未来へと進む牢獄という鳥籠から解放された事を理解した。
私はその後、目から涙が溢れんばかりに出てきた。
今を思い返せば、この鳥籠の真実を知ってから自身の気持ちを押し込めて来た。バレた時も涙を流したが今流れる涙は苦しい涙では無い…これは喜びの涙だと、理解しながら私はギルの背中越しで呟く。
「ギル…ありがとうね…私を助けに来てくれて」
「当たり前だろう…俺もありがとうな…レナ、生きていてくれて」
ギルは照れるのを隠しながら私を背負いながら走る。
そして、一番ありがとうを言わないといけない人が目の前に走っているデザールだ。
「協力してくれて、ありがとう…デザール」
走っていて聞こえ無かったかも知れないがそれだけは今すぐに伝えたかった事だ。
私はその前に眠りについた。
次で一章を終わりたいと思います。




