第八十五話 実はおっさんはウナギが苦手なのだ。昔、激安ウナギをスーパーで買って食べた時に、あまりにも泥臭過ぎて、それから苦手になってしまいました。
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「で、君は誰だ?」
上空に浮かんだ飛空挺からフックが落ちて来て釣りあげられちゃった俺は、目つきの鋭い深い藍色の髪をした性別がよくわからない人の前に引き摺り出されていた。
ううん、なかなか刺繍の凝った作業着を来ている。良いセンスだ。サイドから三つ編みを垂らしているのはシュリさんと同じだな。流行りの髪型なのかな? それとも、身分を示しているのだろうか。
どうやらここは飛空挺のブリッジのようだな、まわりは透明な素材で出来ているお陰で外が丸見えで景色がとても良い。周りにはアテナさんと同じ格好をした軍人さんがいっぱいいる。完全に審問されているね。うふん、興奮してきちゃった。
「どうもどうも、俺の名前はモズタロー、しがないスライム乗りさ。人呼んで、荒野のスライムライダーとは俺のことさ。おっと、サインはしない主義だ、悪いが遠慮してくれよ!」
自己紹介は大切だからね。第一印象は人間関係を構築する上で重要だから、自分の特徴をしっかり伝えないとね。ついでに、ウインクをバチコーン! と発射しておこう。あ、避けないで!
私の指示で引き上げられた大男が意味不明な自己紹介をした。まず間違いなく帝国人ではないだろう。スライムライダーとはどのような職業なのだろうか。いや、この大男がどこから来たのかを探るのが先決だろう。しかし、この世界にもサインという文化が存在していたのには驚きだ。ロス帝国の外の文化が気になる。
「私はミューゼルブルー=モラ・ニュートン。まあ、眼下に見える流された国でしがない研究者をしている。それで、君はどこから来た? 目的は? どれだけ流れてきた? スライムライダーとは何だ? 少なくともスライムに乗っている様には見えないが」
しまった。焦って一度に複数の質問をしてしまった。私らしくないな、まったくこの状況で、私からも余裕が失われているようだ。
「あれ? 運担当? あちゃ~、運担当がどっかいっちゃたな。ごめんごめん、今俺はただのライダーだな、愛騎がどっかいっちゃたみたいでさ。まあ、そのうち戻ってくるだろうから、その時にでもスライムライダーの神髄をお見せしようかな。えっと、あとなんだったかな?ああ、場所ね、俺はあっちから来たよ」
なんて、不親切な男なんだ。自分が流されてきた方角を指差すだけでは何も分からないではないか。私の方がおかしいのか? 普通は地名などを答えるだろう、いや、地名を言われても私がわからないと知った上での発言なのか?むぅ、中々手ごわい様だ。自分の情報を簡単に渡す気はないと見える。
軍人達を嗾けるか? いや、悪手だな、このモズタローがどれだけの力を持つかわからないが、私達よりも1.5倍ほどの体格があるのだ、暴れられると厄介なことこの上ないだろう。都市を砕いた洪水に平然と流されて来たのだ、この男には何かがあると考えて間違いないだろう。
友好的に接して、信頼を得るべきだろう。はぁ、まったく面倒だ。
この飛空挺『オリンピック』には私と私の手足となる者だけが乗り込んでいて良かった。これで、他の王族が乗っていれば愚かな選択を取ったかも知れない。
ガオシャーン!!!
その時、飛空挺の装甲を破り、何かが侵入してきた。私達全員に緊張が走る。
「オマタセッ」
「あ、運担当! どこに行ったの? 心配したじゃないか」
それは暗銀色にぬるりと輝く、巨大グミの様な形状をしたスライムだった。どうやら、この男の愛騎なのだろう。まさか、本当にスライムに乗る職業が存在していたとは思いもよらなかった。
しかも、上空数百メートルにあるはずの飛空挺へと飛び込んできたのか、おそるべき跳躍力を持ったスライムの様だ。
「こらこら、飛空挺の装甲を壊したらだめじゃないか。すいませんね、ミューゼルブルンさん、でしたっけ? 私の愛スライムは凶暴なもので」
「プルリン♪」
このウンタントーと呼ばれたスライムは凶暴なのか……確かにドラ○エに登場するスライムに比べると愛嬌に乏しい。魔物なのだろうか、まあ、その点については、私はあまり興味がないから置いておくとしよう。あと、長い名前だから、ミュゼでいいぞ。
そのスライムはぬるりとモズタローに巻き付いたと思うと、次の瞬間には美しい銀色のマントへと変貌していた。これは、……もしやスライム状の自律魔道具なのか?なんと、ぜひとも研究したい。
「あ、じゃあ、俺はこの辺で失礼させてもらいますね」
待て待て待て待て! どこへ行くつもりだ! ちょっと、待ってくれ、帰らないでくれ! 話を、話を聞かせてくれ!? ……モズタローの予想外過ぎる動きが続いたせいで、私の冷静さは著しく失われつつある。周りの軍人達や研究者も状況についてないのか、呆けているではないか、役に立たない連中だ。
なんて自由な男だ! あれだ、下ではまだ水が引いていないぞ!? それでも平然と下へ戻るつもりなのか! ……戻るつもりなのだな。は? これくらい別に無問題?あ 、だから、そのスライムが空けた穴から外へ出ようとするんじゃない! あぁ、もう、すまないが拘留させて……は? 乱暴? エロ同人!? ……へぁ? しないぞ! そんな乱暴などするか!! 貴様は私を何だと思っているのだ!? ……エロ同人が存在する?
数十分ほど押し問答をした結果、なんとか大人しくすることを承諾してくれた。……疲れた。私も人の話を聞かない方だが、相手にするとこれほど面倒だとは思わなかった。これからは自重することにしよう。
ともかく、これからのことを、<<<ザッパーーーン!!!!>>>、またか、今度は一体何だと言うのだ。
巨大な生物が水しぶきを上げながら水中から飛び上がってきた。
「うわぁ、大きなアナゴだなぁ、いやウナギかな? これもう、わっかんねぇなぁ」
モズタローのそんな声が、妙に耳に残った。
巨大な蛇の様な魚は、私達が乗っている飛空挺『オリンピック』からやや離れた位置に浮かぶ、皇帝と七王家議会の有力メンバーが乗り込んだ飛空挺『ブリタニック』に向かい飛びかかっていったようだ。空中に浮かぶ飛空挺を餌とでも間違ったのだろうか。
あの巨大魚は大氷河の内部に氷漬けのままに生きながらえた魔物だろうか、それとも、この洪水に乗って人を喰いに来ただけの慮外者なのか、そんなどうでもいい事を考えていた。私の記憶に間違いがなければウナギだろう。久しぶりに鰻丼が食べたいものだ。完全栄養ペレットは私の様なズボラな者には便利なのだが、それだけではさすがに飽きると言うものだ。
しかし、アナゴやウナギがこの世界にはいるのだな。海は非常に危険だが、ぜひとも海産物を手に入れたいものだ。周囲の軍人達はまるで巨大な海竜を見たかのような、脅えた瞳をしている。中には腰が抜けている者、泡を吹いている者、失禁している者と、その脅え方は人それぞれのようだ。
ガブッ! ブリュンブリュンブリュン!!??
勢いよくブリタニックに喰いついた巨大ウナギは、その体を思う存分躍動させている。まずい、装甲こそ喰い千切ることができなかったようだが、あのままではブリタニックの浮力が持たない、墜落してしまうぞ。
「ブリタニックがまずい! ええい、砲撃班、ブリタニックを避けてあのデカ物を狙え! あれだけでかいんだ、簡単だろう!! 早くしろ! 全員、呆けるんじゃない! 状況は動き続けているぞ!」
私は声を上げ、未だ動揺する艦内の者に指示を飛ばす。
「「「「「了解です!」」」」」
正気に戻った者達が順次指示を復唱し、すぐに砲撃の用意が整う。前方魔術砲16門の一斉砲撃を行うようだ。私はこの飛空挺の管理者であるが、艦長と言うわけではないのだ。最終的な判断は艦長が下している。
艦長は私が選んだ人物だ、動力源であり魔術砲のエネルギーでもある魔石の保有量の問題があるが、最大火力で攻める決断を即下せる辺り、非常に有能だ。年若いものだったが、判断力の速さと正確さを買っただけはあったようだ。
ポン! ポン! ポン! ……
この気の抜けた音はどうにかならなかったものだろうか。魔術砲を作成してみたは良いのだが、消音性と威力を両立させた素晴らしいものに出来あがったが、このマヌケな音はいただけない。まあ、飛空挺の構造上、爆音が鳴れば内部に乗りこんでいる私達にも多大な影響があるのだから、仕方がないことなのだ。
「何だ、この音!? ロマンの欠片もない! そういえばタイタニックの砲もこんな音がしていたな。こんなんじゃ商品になんないよ~。ロス帝国人にとっては、この音が素晴らしいのかな? 体が小さいことで鼓膜とか耳の作りが違うのかな? こんなドンが膨らむ様な音が好みなのかな? ドン美味しいよね! 今度米が手に入ったらドンを作ろう、そうしよう」
モズタローが勝手なことを言っている。……タイタニック? 何で貴様がそれを知っているのだ!? それに米! 米があるのか!! ああ、この男に聞かなければならないことが増えた。もう、絶対逃がさないぞ。今は目の前の巨大ウナギに集中することにしよう。鰻丼にしてやろう。
「ピェエエエエエーーール!!!」
ウナギが鳴いた。ウナギはこんな声を出すのか、口はブリタニックから離れていないことを考えると、あの震えているエラ部分から発音しているようだ。魔術砲によって、痛みを感じたのだろうか、モルンモルンッと体を揺らしている。
「ピェエエエエエ!!」
ウナギが飛空挺に巻き付いた。噛む口はそのままに、体を巻きつけるとは中々器用なウナギだ。いや、ウナギは捕まえると腕に巻き付いて来るものだ。あの動きはウナギらしさを存分に発揮していると言えるだろう。
しかし、困った、これでは攻撃できない。ブリタニックに搭乗している人員などどうでも良いが、ブリタニックは私の子どもの様なものだ。なんとか、無事に確保したい。
「すまんが、モズタロー。スライムライダーとは空戦も可能なのだろうか? もし、可能であるならば、アレをどうにかしてもらえないだろうか? ・・・それなりの礼をする」
一縷の望みを懸けて、あのウナギを食べたそうに見ている大男に声をかけてみる。
「おっけー、うふふ」
なぜだ、二つ返事で了承してくれたはずなのに、信じられないほどイラつく。私の中で久しく忘れていた憤怒という感情が暴れ狂い激噴してしまいそうだ。ははっ、楽しい男だよ、君は。
さって、お願いされたことだし、がんばってみますか。
「運担当、行けるかい?」
「プリン♪」
俺は運担当が空けた穴から空へと飛び出す。しばらく、フリーフォールを楽しんでいると運担当が紙飛行機状に変形した。俺の脚は紙飛行機の上部に接着している。
下から瓦礫でも放り投げるつもりだったのだけど、運担当が空を飛んでくれるみたいだ。もともと薄っすら浮いていたから飛べるのも、ギリギリ納得かな。ふぅ、こいつも便利な奴だな。うちの人外勢は優秀で困る。いや、困りはしないか。
「なんだそれは!! すごい技術だ!! 研究したい!!!」
そんなミュゼとか言う人の叫び声が聞こえた気がした。
イヤッフゥーーーー、スズメで飛ぶのとは勝手が違う。おわ、落ちる、落ちちゃう~、これ、怖いよ! めちゃくちゃ速い! 何キロ、時速何キロ出ているの!? うおぉん、俺は人間ミサイルだ! ウナギ! 待っていろよ! 今、食べに行きます!!
次回、モズタロー対ウナギ




