第八十六話 ヌタ
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のぉぉぉぉぉ!!! 潰れてしまう! 潰れてしまいますぞ!? なんて圧力だ! これは、この速度はまるで戦闘機だ。運担当、すごい奴だ。この戯けが!
<<ドパァーン、ゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォ!!!!!>>
あはんっ!! これは、まさかソニックブームか!? マッハ1を越えやがった! あ、ちょっと、自由に飛びすぎだってば! オスアナア大陸まで来ちゃっているよ!
「プルリン」
え、俺に制御しろって言っているのか? なるほど、俺の意思を汲んでくれているのか。無制御だからこの速度なのかも知れない。そうであるならば制御は俺の意地しだいという分けか。うおおおぉぉ、曲がれぇぇぇ!! バレルロール! 紙飛行機なのにバレルロール!? 俺は接着されているから落ちないけど、風圧が半端ない。
さっさと、戦場へ戻るとしよう。下手したら敵前逃亡と取られかねない行動をしてしまったな。作戦領域をオーバーしていないことを祈ろう。
飛空挺左舷後方、ウナギの頭発見!
運担当!とりあえず一当てしてみるぞ、突っ込め!
「プルン!!」
キーンという音を響かせながら空を爆走する俺を乗せた運担当。
凄まじい速さだ、気を抜くと意識が飛びそうだ。音の壁を突き破った時の衝撃はすごかったが、それより先は逆に静かな世界だ。体に絶えず掛かり続ける俺を押しつぶそうとする圧力の中で、ギリギリ意識を保ちながら手を突きだす。やることは簡単だ、運担当がウナギのギリギリを飛び、俺の手でひっかく、それだけだ。
「うおおおお!!!深く、切り裂く!」
ド、ヌルン、ドパァン!!
「ギェピィィィィーーー!!!!」
何だと!ウナギの体の触れた場所から何かが剥離した!? これは、腕が焼ける!! なんだ、このジェル状の物は!? まさかヌタなのか? 強い酸性を持つヌタを全身に覆っているのか!! くそ、腕がドロドロに溶けやがる。俺の魔術防護と再生能力を突破して溶解させてくるとは、厄介すぎるぞ!!
頭を強く引っかかられたせいか、ウナギは飛空挺を離し水中へ戻って行った。しかし、水中からこちらを狙っていることがわかる。諦めの悪い奴だ。
飛空挺のウナギが巻き付いていた部分から煙が上がっている。飛空挺の装甲が溶けているのか。運担当! 一度、飛空挺に戻ろう。相談タイムが必要だ。あのクールそうな性別不明の人物なら何か良い案が浮かぶかもしれない。
モズタローが凄まじい勢いで消えた。そして、消えた方角から一筋の光が走ったと思った、その次の瞬間にはウナギの頭の一部が弾け飛んだ様に見えた。どうやら、モズタローの攻撃がウナギに決まった様だ。
「……凄まじい。これほどの高速戦闘が、可能なのか。ははっ、私が作ったものなど、あれと比べたら御遊びの様に見えるだろうな」
ウナギがブリタニックを離し、するすると海中へと戻って行く。どうやら、急場は凌いだようだ。さて、どのような礼をするべきだろうか、とは言っても今与えられる物はほとんどないのだが。
「ただいま~、見て見て、腕がこんなんなっちゃったよ~」
スライムが空けた穴からモズタローが戻ってきた。その腕からは煙があがり、良く見えないが凄まじい臭いを放っている。これは、肉が融けているのか? どちらにせよ、我慢し難いほどの悪臭だ。艦橋いる者の中には嘔吐している者もいる。
「モズタロー、それは……大丈夫なのか?」
どうみても、大丈夫ではないが、本人に余裕が見られるせいで、阿呆な質問をしてしまった。こいつ相手では私の余裕は削られ通しだ。
「大丈夫だよ。あ、そこの軍人さん。その腰のナイフ貸してちょ」
そう声をかけられた軍人が震えながらも急いでモズタローにナイフを手渡している。私が開発したサバイバルナイフに近い構造をしたアーミーナイフだ。頑強さには自信がある品だ。
そのアーミーナイフで腕を削ぎ始めた!? 腕を、肉を剥がしている!! 自分で、自分の腕をズタズタにしている!!?? オリンピックの艦橋に肉片が飛び散る。その光景に私は顔色が青くなるのを感じた。
「あ、ごめん。ナイフがダメになっちゃった」
そう言うモズタローが手に持つナイフは長年風雨の下に曝され、腐食しきったかのようにボロボロの様相を呈していた。私のアーミーナイフがこれだけボロボロになるほどの何かを受けたのか!? ブリタニックを良く見ると、所々から煙が上がっている。あれは、装甲が融解している? なんてことだ、あのウナギは強い酸性の物質で全身が覆われていたのか!
「ヌタウナギだったみたいだね。あのジェルみたいなヌタで俺の腕もこんなになっちゃったよ。まったく、腕を再生してばかりだな」
その声に反応し、モズタローの方を見ると、肉が蠢き這いまわっていた。どうやら腕を再生させようとしているようだ。
うっ、吐き気がしてきた。なんて醜悪な光景なのだ。赤、ピンク、紫、緑、白、カラフルな液体を撒き散らしながら、腕が凄まじい勢いで再生していく。彼は、人なのか……。こんな光景は魔物でも、考えられないか……。ははっ、外の人類は皆こうなのか? 外には人外魔境が広がっているとでも言うのか?
私を含め、環境にいる全ての者達が、あまりに異様な光景に言葉を失っていると、モズタローが動いた。
「海面を見てくれればわかると思うけど、あのウナギ、まだ諦めていないみたいだよ。今のうちに離れた方がいいよ。素手の俺じゃ、あのヌタを抜いて致命的な一撃を与えるのが難しそうだし、この飛空挺の装備では尚更でしょ?」
海面を見ただけでわかるのか……。いや、今はその判断を信じよう。少なくとも、彼は私達よりもずっと戦闘に習熟している。
アヴァ山へと向かおう。あそこならば、あのウナギも迂闊に攻めてくることはできないだろう。
「アヴァ山へ向かうぞ。ブリタニックを誘導してやれ。ウナギはまだ我々を狙っている様だ。高度を可能な限り上げて進むぞ。……全員! 呆けるな!」
ウナギが体勢を整える前に、高度を上げアヴァ山へと向かうことにした。採掘現場は洪水に呑まれてしまったようだが、山頂調査用に建設された広場であれば着陸することも可能だろう。
<バシャ!! バシャ!!>
なんだ。海面から何かが射出されてきた。ウナギからの攻撃!? 艦橋の透明な強化ガラスへとその物体が張り付いた。
ジュワーーー!!!
なんてことだ、モズタローの腕を溶かしたヌタを水中から飛ばしてきているのか。さっさと、離れなければ、ここにいれば命がいくらあっても足りないだろう。
「あれは……、気をつけてくれ。あのヌタの中に小さなウナギがいるぞ!」
モズタローの声が響いた。軍人達が全員魔銃を抜いて構える。どうやらヌタの中にはあのウナギの幼生体が含まれている様だ。殺意が高いウナギには困ったものだ。
「ピギャーーーーー!!」
艦内へとウナギの幼生体が侵入してきた。我々へ次々に飛びかかってくる。くそっ、こんなところで死んでなるものか。幼生体と言っても普通のウナギと同等の大きさがあるではないか、食べ応えがありそうだ。
パン! パン! パン! ……
魔銃が一斉に火を噴いた。何体かのウナギが弾かれ、床に落ちる。
無傷か……、あのウナギの幼生体なのだから、それなりの力を持っているだろうとは思ったが、これはマズイ。ここまでか……。
「やった! ウナギゲットだぜ!!」
諦めかけた私の横で、モズタローは次々とウナギを捕まえては、首を引き千切り、腰に付けた鞄に入れている。……ああ、すまんが全て処理してくれると助かる。私の命が助かる。
軍人に喰いついたウナギを次々と処理してくれている。軍人が数人がかりでも引き離せなかったウナギを易々と回収して行く。この男はイラつくほど頼りになるな。なんだ、シュリが好きな昔話に出てくるゴリラとはこいつのような存在を言うのだろうか。はぁ、どうにか助かったか。
そういえば、音は二回聞こえたな。……ブリタニックの艦橋にもヌタが命中していた様だ。ブリタニックの高度が下がって行く。まずい、ブリタニックがアヴァ山に墜落してしまう。
オリンピックが艦長の指示により、ブリタニックの上空へとついた。そして、フックを幾本も飛ばしブリタニックを絡め取る。艦長は本当に優秀な男で助かった。これで、ブリタニックを安全に不時着させることができるだろう。ウナギの幼生体の侵入で、艦橋にいた連中は全滅しているだろうか。はぁ、本当に先が思いやられる。
「ため息ばっかりついていると、幸せが逃げちゃうぜ! だから、笑えばいいと思うよ!」
うざい、モズタローがうざすぎる。とりあえず、脛を全力で蹴っておこう。ぐぁ、足が痛い、硬すぎる。この、顔は届かないから……腹を殴る。手が、手が、痛すぎる。なんだコイツは、硬すぎる……。このイライラはどこへ発散したらいいんだ!!
そんなことをしながら、どうにかアヴァ山へと着陸することができた。
次回、引かない水、ウナギのせいなの? どげんかせんといかん!




